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第五十一話 ドルフィーナ

「さあ、行くわよ!」


 カムトゥルーが小気味よく声をあげたが、トゥモローに制止される。


「待てよ、そんなにあせらなくても……。まず、完全な防寒具がいるだろう?体が動かなくなるぜ」


 え?防寒具って、今ダウンジャケット着てますけど?


「そうね、この格好かっこうでは足りないわね」


 この格好かっこうでは足りないと?

 どこに行こうというのかね?

 俺は、心の中でカムトゥルーやトゥモローを問い詰める想像をする。


「ドワーフ鍛冶に作ってもらったアダマンアーマーの下にまず

 3枚。う~ん、無理かな2枚だね。アーマーの上に頑張って2枚はいるかな」


 それって、逆に動けなくなるのでは?

 で、本当にどこに行こうというのかね?

 だいたい、アーマーの上に2枚って、そんな体型の服がこの星に存在するのか?


「アーマーの上には、やっぱり巨人族のサイズの小さいのを選ばないと着られないわね」


 存在するんですね。


「私たちの分はあるけど、この子たちのは買いにいかないとダメね」


 カムトゥルーが俺たちの方を見て言う。


「この街でそろうか?」


 ブレイブがたずねる。


そろわないよ、売ってない」


 ホープが答える。


「リライシーンだな」


 トゥモローが言うと、


「そうね、そこしかないわね」


 カムトゥルーが仕方ないという表情で返事をする。

 まるで、今から遊園地へ行こうとしていて、急に父親の都合で行けなくなった時の、子供の様な顔だ。


「じゃあ、行くわよ。ゲート①オープン!」


 ゲートを潜ると少し、気温が高くなったのを感じる。

 見覚えのある部屋。

 ここは数日前に来た場所だった。


「リライシーンのゲートは無いのよ。ここから馬車と船で行くわよ」



挿絵(By みてみん)



 なるほど、ここはコナートジフルだな。

「船?」


 リュークが反応している。

 そんなに船酔いが心配なのだろうか。


「ええ、ここから北へ向かって1日馬車に乗って行くと港があるわ。そこから船に乗れば2日で着くわ。全部で3日ね」


香奈枝かなえ、そうじゃない。リュークは船酔いがダメなんだ」


 トゥモローがカムトゥルーに伝える。


「あら、そうなのね。でも大丈夫よ。ここの海にはドルフィーナたちがいてくれるから、基本的に波は穏やかよ。それに、リライシーンまで歩いていったら10日もかかってしまう。この近辺では、もうすでにレベルは上がりにくくなっているし、レベル上げのために10日間も歩くという選択肢はないわよ」


 結局、カムトゥルーの言うように馬車と船を乗り継ぐルートで行くことになった。


 トゥモローに言われて、システムカットの状態でアダマンアーマーを装備して、その重さに慣れておくことになった。

 着ていたダウンジャケットは脱いで、アーマーを着込む。

 フルアーマーの俺とブレイブが動けるかどうかが一番の問題だ。

 アダマンタイトは軽くて固い金属(?)らしい。

 まあ、鰐が甲羅として背負っていたぐらいだ、重くては動けまい。鋼鉄の鎧よりは軽いが、はたして……。


 スマホの電源を落とした瞬間に、グッと重さが全身にかかる。

 それでも、何とか立ち上がることはできた。この上にさらに2枚着込むのだ。

 本当に、もこもこで動けなくなるのではないか?

 防御力は高くなりそうだけど……。



 ◇◇◇



 それから、1日馬車に揺られてコナートジフル最寄りの港に着いたときにはリュークが大変なことになっていた……。


「大丈夫?キュア!」


 顔を真っ青にしたリュークにカムトゥルーが『キュア』を唱えている。

 そう、船ではなく、馬車に酔ったのだ。


「キュアは馬車酔いにも効くんですか?」


 俺が尋ねる。


「気休めよ。何もしないよりはましかな」


 そう答えたカムトゥルーはリュークの方に向き直る。


「リューク、船に乗れそう?」


 どう見ても無理だろう。

 カムトゥルーの問いに答える元気もない。

 仕方なく、トゥモローが付き添いコナートジフルまでゲートで戻り、俺たちがリライシーンに着くまでアジトで待つ事になった。

 本当は、付き添いにはマリが立候補したが、俺が何とか阻止した。

 マリに看病されるなんて、そんなおいしい役、許せるわけがない。

 久々の船旅をと楽しみにしていたところを男の看病に回されたトゥモローは、渋々リュークに肩を貸してゲートをくぐっていった。



 船の発着場にいくと彼らはいた。

 イルカが2本足で立って歩き、人と話をしている。

 いや、彼らも人なのだ。

 イルカの肌質で人の顔をしている、人面魚とは違いそんなに違和感はない。

 ドルフィーナという名前そのままだと言えた。

 少しばかり人魚のようなものを想像したが、残念ながらそんなことはなかった。

 どちらかいうと、哺乳類なのだろう。

 肺で呼吸し長く潜れる人というところだろうか。

 この星に哺乳類という言葉や、そもそもそういう分類があるかどうかは別にしてだ……。


「彼らは、私たち人間よりも知能が高いの。ただ、決して器用ではないから文明はそこまで高くない。そのかわり、ちょっと特殊な能力が使えるわ。テレパシー的な言葉と、予知能力的な強い予感を持っているの」


 その能力で、海の中を泳ぐ時に、天候や潮の流れを読んだり、危険を察知したり、仲間に教えたりできるらしい。

 そうやって、船の航行を助ける仕事なんかをしているらしい。


 俺たちの乗った船は予定の時刻通りに出航し、リライシーンへと向かった。

 3人のドルフィーナが誘導してくれている。

 船の上から見ると、まるで本物のイルカが泳いでいるように見える。

 マリもその様子に感動している。

 ほら、僕の言う通り、リュークに付き添いで看病なんてしなくて良かっただろう?

 心の中でそうつぶやく。


 船の旅は、思った以上に快適だった。

 時おり揺れる程度で、港に着くまでの馬車の方がひどいくらいだった。

 もちろん、食事や寝るところは宿の方が優れている。

 それでも、こんなにゆっくりと過ごしたのは、この星に来て初めてのことだった。


 船から水平線に沈もうとする夕日が綺麗だった。


「この揺れならリュークも大丈夫だったかもしれないのにね」


 俺は、甲板で夕日を眺めているマリのそばに行って、話しかけた。


「そうですね。馬車があんなに揺れるとわかっていたら、コナートジフルで1日待機してもらって、港からハタカさんやカムトゥルーさんのゲートで迎えに行ってあげられたのにね」


 リュークの話はただのきっかけだった。

 マリの側に立って話しかけるための口実だった。

 2人の間にしばらく沈黙が続いた。


「俺、マリのこと全力で守るからね」


 俺の唐突な言葉に、マリが驚いたような目をしている。

 が、それもつかの間、すぐに穏やかな笑顔を見せてくれた。


「うん……、ありがとう。一緒に帰ろう」


 一緒に帰ろう!?

 俺の頭の中で、マリの“一緒に”という言葉が何度も繰り返される。

 これは、脈ありなのではないか?

 言うんだ、今、好きって言ってしまえ。

 今だ、今だ。


「マリ……」


「うん、なに?」


「お、俺……」


「うん」


「お、俺……」


 好きと言うんだ。待っている顔だぞ!


「うん」


「俺と、地球に、戻れたら、俺とごはん食べに行こう!」


「それ、私も考えてたの!帰還のお祝いしたいね。4人(みんな)で。ううん、8人かな?」


「うん、行こう行こう!」


 だ~、しまった~。

 俺は、馬鹿か?

 これは、わかってて上手うまくはぐらかされたのか?



 結局、自分の気持ちをマリに伝えられないまま、その後はとりとめのない話をして終わってしまった。



 船に乗って港を出たのが夕刻。

 そして2日後の朝、船はリライシーンへ到着する。

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