第四十六話 カムトゥルー
お待たせしました。更新が滞っていましたが、再開します。
キャンプの翌日には、コナートジフルに到着した。
名残惜しかったが、トラウマとは街の入り口で別れることにした。
この世界に来て2つ目の街は、見たこともない光景が広がっていた。
まず、あらゆる人種、いや種族の坩堝となっていた。
肌の色はもちろん、肌の質、体の大きさ、根本的に姿形が全然違う。世界の中心地といえる街のようであった。
急に、トゥモローが一声かけて歩き出す。
「おい、いくぞ、ついてこい」
「え、どこへ?」
俺の質問にも答える気配はない。
迷路のような裏路地を通り抜け、ある建物の扉の前で止まった。
トゥモローはスマホを取り出してどこかへ連絡する。
「俺だ、明日真だ。到着した、開けてくれ」
端末の向こうで、「早いわね」という女性の声がした。
しばらくまって、鍵の開く音がする。
続いて、ゆっくりと扉が開く。
そこに立っていたのは見知らぬ女性だった。
目鼻立ちのハッキリとした、それだけに年齢不詳の美人である。
いや、知らないのは俺だけだったらしい。
マリが「あっ」と、声を上げてすぐに、その女性に抱き着く。
リューク、ハタカも、軽く驚いたようだったが、すぐに笑顔を見せて挨拶を交わしている。
「え?え?誰?なんで、皆知って………………、あ……、カムトゥルーさん?」
「そうよ」
「あの……、あ、ありが……」
「ゆっくり話をしたいのだけど、皆とりあえず中に入って。この入り口を人に知られたくないの」
お礼を言おうとしたのだが、カムトゥルーに促され、さらに、後ろにいたトゥモローに急き立てられ、建物の中へと足を踏み入れる。
トゥモローは扉から首を外に出して、辺りを見回した後に、手早く扉を閉じる。
カムトゥルーが先頭に立って廊下を進み、ドアを押しながら1つの部屋へと入っていった。
そこは、広々として、何よりこの星、この時代にそぐわない、何かそんな違和感を覚える部屋だった。
何が、そんな違和感を覚えさせるのか、これという理由は無い。
しかし、どこか地球にいた時の自分の家のリビングを思わせる、違和感というよりも懐かしい感じに近い。
家具の配置とかそういうところだろうか?
もちろん、テレビや冷蔵庫があるわけではない。
それでも、この部屋にいると、なんだかホッとする。
「ようこそ、私たちのアジトへ!」
手を広げながら、カムトゥルーは歓迎の意を表す。
「これ、言ってみたかったのよね」
そう、言いながらフフッと笑って見せる。
マリの笑顔とはまた違った美しさがある。
そのマリも見とれているようだった。
「あの、ありがとうございました。命を助けていただいて」
慌てて、お礼を言い忘れていたことに気付き、それでも何と言えば良いかわからず、ただ、ただストレートに飾ることもなくお礼を言う。
「元気そうで良かったわ。何か後遺症が残らないか心配だったの」
「は、はい!お陰様で、ピンピンしてます」
「俺からも、改めて礼を言っておこう。ありがとう、助かったよ」
トゥモローがそう話す。
「それで、どうなの?彼らは?ここに連れてきたってことは、合格なのよね?」
カムトゥルーがトゥモローに問いかける。
「もちろんだ。システムカットにも早い段階で気付いて、実戦してきている」
「何の話だ?合格とかって?」
リュークが怪訝な顔をして問いかける。
「お前たちを試していたんだよ。途中、カムトゥルーを引き合わせるというイレギュラーもあったが、まあ、合格だ。この馬鹿げたゲームをクリアして、地球へ帰るぞ」
「ゲームのクリアはもちろん、俺たちの目標だ。言われなくてもそのつもりだ。でも、それはまだずっと先のレベルが上がってからの話で……」
リュークの話をトゥモローが途中で止める。
「まあ、聞け。順に説明しよう。試していたと言っただろう。騙すつもりもなかったから、謝りはしないぞ。いや、一つだけ騙したかな?」
「何を?」
リュークが問う。
「船の事だ。トゼフルの街から出る時に、船は4日前に出て次の便は10日後と言っただろう。あれは嘘だ。船は3日に1便出ている。それから、リュークの反応を見て咄嗟に思いつき、船が揺れるような話をしたが、本当はそこまで揺れない。ただ、コナートジフルまでの道中でお前たちの実力を探りたかっただけだ。船に乗ってしまうと、戦闘が出来ないだろう?」
「な!?」
「もともと、トゼフルの街を出て、このコナートジフルまで、お前たちの実力を計ることが目的だったんだ。実力っていうのは、このゲーム世界でのレベルのことではなく、戦闘に対する意思、或いは地球に帰るぞという思いのようなものだ。普通の人間は、今まで経験のない戦闘に巻き込まれると、どんなにシステムにサポートされていようと、まず体が動かないもんだ。戦いたくても、気持ちが追い付いてこない。この星に来て3日でレベル10なんて、普通あり得ないんだ。それを、お前たちはやってのけた。戦闘に対して勝とうとする意志と、センスがある証拠。そして、それをある意味楽しんでもいただろう?」
リューク、マリ、ハタカの3人が俺の方を見る。
「コウがいたからかな?」
リュークが答える。
「10億という目標金額に絶望することなく、前向きに戦おうとしていました」
ハタカが続け、
「頼もしかったです」
マリが言葉を添える。
「10億という数字だったから、ある意味、諦めてたからだと思う」
褒められて、照れるように俺は答える。
「そして、これは予定ではなく本当にイレギュラーだったが、コウ、お前の命の危機だ。絶体絶命の状態を知って、それを乗り越えてきた奴は強い。コウだけでなく、一緒にいた3人にも言える事。なかなかできない経験だ。どこまでが大丈夫で、何が危険か、自分達の限界を知っている。俺の予定にはなかったが、それ以上の結果が得られた。合格、100点満点以上だよ」
「だから、合格って、なんの試験だよ?」
「さっき、言ったろう。このゲームのボスを倒して、ゲームをクリアするんだよ。そのためのメンバーとして合格だってことだ」
「それは、もともと俺たちの目標だって。あんたとパーティーを組む前からそのつもりだって」
「レベルが上がってからの話じゃないぞ。今のレベルで、これからだ」
「は?レベルが低くてボスが倒せるかよ?ラスボスだろう?」
「このゲーム、いやここのシステムにレベルは関係ない。それは、お前たちも良くわかってるだろう?実際にやってきたじゃないか」
「何?スマホの電源を切って戦うやつか?」
「そうだ、俺たちは“システムカット”と呼んでいる。お前たちは、ここに来るまでの戦闘で、武器を振ることにはもう慣れているだろう。戦う事への意志や思いについては、さっき言ったとおり、お前たちにはそれがある。俺たちと組めば倒せる。むしろ、レベルを上げたからって倒せるような相手ではないんだ」
「ラスボスを知っているかのような口振りだな?」
「あるさ、2度挑んだことがある。1度目はレベル45で、2度目はレベル53の時だ。ダメージがほぼ入らないんだ……。レベルを上げてから倒そうと思ったら、恐らくレベル75は必要だろう。俺はここに10年いて、まだレベル58だぞ。何年先になることやら……。そこで、システムカットだ。レベル差なんて関係ない。必要になるのは戦闘の技術だけだ。」
「トゥモローから聞いたわ、あなたたちだけでシステムカットを発見し、トゥモローがパーティーに入った段階で、すでに実践してたってね」
カムトゥルーがトゥモローの話に口を挟んでくる。
「ラスボスを本当に倒せるんですか、そのシステムカットで?」
気になって、俺は質問する。
「わからない。が、可能性は充分にある。ただし、準備するものがあるがな」
「準備するものって?」
「移動しながら話そう。付いて来い。香奈枝たのむ」
「わかったわ。インベントリ!」
香奈枝と呼ばれたカムトゥルーが、魔法スキルによって、目の前に大きな箱を広げ、その中から暖かそうなダウンジャケットを人数分取り出す。
「まずは、これを着てちょうだい。寒いわよ。ゲート③オープン」
俺たちは、言われるがままに、ダウンジャケットを着こんでゲートを潜っていった……。