第四十五話 見張り
「すまない、油断した」
薄暗いテントの中で、トゥモローが俺たちに向かって謝罪する。
俺は、しっかり目が覚めているが、ハタカとリュークは寝ぼけ眼だ。
よく、あんな状況で寝ていられたものだ……。
「言い訳にしかならないが、野宿は5年振りぐらいでな……。夜間は気を付けなければならない敵も多い」
「サソリは夜行性なんですか?」
俺が質問する。
「分からない。少なくともハンターは夜行性だ。それでも、ハンターも昼に動かないわけではない。ただ、夜間に気を付けなければならない理由は、自分達が寝ているからだ」
「寝込みを襲われるのは、街中でも一緒じゃないですか?」
今度はマリが尋ねる。
「お前たち、ここに来て、もうすぐで1ヶ月になるだろう。街中のことで何か気付いたことは無いか?」
トゥモローの質問に対して、俺とマリはう~んと真剣に考える。
ハタカとリュークはボーっとしている。
「もしかして、虫がいない?」
マリが答える。
「そうだ、虫だけでなく動物もだ」
「え?トゼフルの街に犬みたいなの、いましたよ?」
俺が返す。
「まあ、最後まで聞きな。この星に奴らが乗り込んできて、構築したRPGシステムは、実は悪いことばかりではなくてな。何らかの結界のような物で、モンスターに設定されている動物は街の中に入らないようになっているんだ。ただし、人が持ち込むことはできる。トゼフルにいた犬は鎖か何かに結ばれてなかったか?」
「そういえば……」
「飼育することや家畜とすることを目的にして持ち込むことはできるようになっている。どんな仕組みかは分からないがな……。とにかく、この星は、危険な生物が街に入り込まないようになっている。RPGシステムの恩恵を受けているんだ」
「ふ~ん」
「話がそれてしまったな。野宿する時は、寝る時に注意が必要だ。テントの外に焚火を残して、見張りを立てておくべきだった。すまない」
5人もいて、見張りの事を誰も言いださなかったのだから、トゥモローだけのせいではないだろう。
日本での安全なキャンプのイメージが強すぎたのかもしれない。
「テントの外の、トラウマ達はやられていないかな?」
俺は、キャンプをする原因となったトラウマのことが気になった。
「さっき見た。暗くてよく見えなかったが、大丈夫そうだった。朝になったら確かめよう。夜明けまで、まだまだ時間がある。今から見張りを立てよう。一人1時間置きに交代だ。森で集めてきた薪がまだたくさんある。火を絶やさないようにしよう。順番の希望はあるか?」
トゥモローが一息にそこまで言うと、全員の顔を見わたす。
俺は今からがいいな。すっかり目が覚めてしまった。
「できれば、今からがいい」
「私は、寝入りも寝起きも良いからいつでも」
ハタカとリュークはまだ、眠そうだ。
「OK、じゃあ、コウ、マリ、俺、ハタカ、リュークの順番でいいか?」
全員の返事をまたずして、ハタカとリュークは寝入ってしまった。
「おやすみ~。……マリ、1時間後に起こすね」
そう言って、俺はテントを出た。
夕食のときに起こした火は消えかけている。
薪をくべれば、なんとか火を起こし直さなくても絶やさずに済みそうだ。
新しい薪に火が移ったところで、テントから誰かが出てきた。
誰だろう?
よく見るとマリだった。
「どうしたの?」
「寝入りは良いといったけど、眠れなくて……。このまま、私の番まで起きておくわ」
「ありがとう……」
「え、何が?」
「マリがいなかったら、マリが宿に泊まってたら、死んでた……」
「うん。キャンプに残る選択をして良かった」
「ねぇ、見て。すっごい奇麗!」
俺は、天を指差す。
「うわぁ、本当!……フフッ」
マリが急に笑う。
「え?どうしたの?」
「ううん、なんだかベタなシチュエーションだなぁと思って……」
「いいじゃない、ベタでも……。地球からみる星座の形とは全然違う……」
「本当だね」
「いいかい、あの光は1億年前からの光なんだぜ?」
真上の一際目立って輝く星を指差して、少し、かっこつけて言ってみる。
「え、やだぁ。アハハハハ、何それ?アハハハハ、何かっこつけてるの?ウフフフフ、ア~お腹痛い……フフフフフ」
「そんな、うけなくても……あ、でもさぁ!この中に太陽系の太陽もあるんじゃない?」
「え?アハハ……本当だね。アハ、ハ、本当……。どれが太陽だろう?そう考えると、神秘的……」
「きっとあるよね。その側には、俺たちの帰るべき場所があるんだ」
「お祈りしておこう。皆、無事に帰れますように……」
マリは、天の星に向かって手を合わせる。
「俺も……」
結局、俺もマリと一緒に2時間起きて見張りをすることにした。
マリ1人に任せるのは忍びない。
いや、先に寝てしまうのがもったいないと言うのが本音だ。
せっかくマリと2人きりで話ができるのだから……。
そして、見張りの2時間はあっという間に過ぎてしまった……。