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第四十一話 キックローランドタートル

ここから第五章に入ります。

いつも読んでくださる方、ありがとうございます。

まだまだ、続きそうです。頑張ります。

 ズズズズズズ……。


「じ、地震?」


 リップオフ改めトゥモローが、パーティーメンバーに戻って2日目の昼。

 森を進んでいると、地鳴りと共に、かすかに地面が揺れているのを感じた。


「ん?森の出口が近いな」

 返答するかのようにトゥモローが言う。


「地震と、森の出口と、どういう関係があるんだ?」


「見ればわかるさ」


 ズズズズズズ……。


 地鳴りは続いている。

 そうこうしているうちに、トゥモローの言う通り森の進行方向から光が差し込むのが見えた。

 これまで、木々の間をぬって上から光が差し込むことはあったが、正面から差し込むことはなかった。

 森の出口だと直感的に理解できた。

 誰からともなく、その方向へ走り出す。

 サァっと、目がくらんだように世界が真っ白になるが、徐々に視界は色を取り戻していく。


 薄い緑が所々(ところどころ)に広がる大地、見上げると青一色。

 紺碧こんぺきの空。

 この世界の美しさを初めて実感する、が、さっきから響く地鳴りがその感動をき消す。

 そして、トゥモローを除いた俺たち4人は、自分たちの目を疑う。

 遠方を山が動いている。

 いや、山と表現したが本当はそこまで大きくはない。

 しかし、“山が動いている”としか形容の仕様がないのも事実だった。


 ズズズズズズ……。


 地鳴りの原因は、もちろんアレだ。


「何だアレ?山が動いているぞ?」

 リュークが言う。


「キックローランドだ。亀だよ。超巨大なな!」

 トゥモローが答える。


「亀!?マジかよ!生きてんのか、アレ!?」

 リュークが驚きを隠せないでいる。


「確かに、地殻変動ちかくへんどうのように思うかもしれないな。でも、生きて動いているんだ。ここからは見えないが、あの動いている山の下には、手足や首がついている。近くまで行けば見えるぞ」


「近くまで?襲われないのか?」


「ああ、害はない。近くといっても、流石さすがに足元までいったら踏みつぶされる。手足が見える所までという意味だ」


「おい、コウ。行ってみようぜ!」

 リュークが珍しく興奮している。


「いくぞ!」

 走り出してしまった。


「あ、おい!待て!」

 トゥモローが止めようとするが、聞こえていないかのようだ。


「パーティーでまとまって動かないと、他のモンスターに襲われるぞ!」


 リュークは止まる気配を見せない。


「ああ、くそ。追うぞ!」

 トゥモローが残りの俺たち3人に声をかける。



 ◇◇◇


 5分ほど走ったが、まだ手足や首が見える所まで着かない。

 近そうに見えたが、思ったよりも遠くを動いていることがわかった。

 その代わりと言ってはなんだが、前方でリュークが鳥に囲まれている。

 それは、動く山から飛んできた鳥の群れだった。

 さぎのように白い。


「ああ、まずい。クロウに目を付けられたか」

 トゥモローが言う。


「え?クロウ?」

 ハタカが聞き返す。


「そうだ、クロウだ。カラスだよ」

 走りながらトゥモローが答える。


 カラス。

 カラスが黒い物という常識はこの星では通用しないらしい。

 あんなカラスなら、数が集まっても不吉ではないな、なんてことを考えていると、トゥモローが指示を出す。


「コウはこのまま走って行ってリュークを守れ!ハタカはいったん立ち止まってインベントリを開いたら鉄製クロスボウを出すんだ。マリと俺、それからハタカはそれを1ちょうずつ装備したら追いかける」


「「「了解!」」」



 俺が追い付いたころには、リュークは6羽の白いカラスに一方的にやられていた。

 リュークもアサシンダガーを振り回すが、当たる気配はない。

 カラスの攻撃力はそこまで高くはないが、リュークの防御力も同じように高くはない。

 6羽のカラスにHPを削られて半分になっていた。


「クロウの攻撃。リュークへのダメージ12。残りHP半分」


「ショルダー!挑発!ウォール!」

 俺は慌ててスキルを唱える。


 クロウの攻撃を壁によって防ぐ。


 コッ、コツコツ。


 6羽の攻撃が壁に当たり、キツツキが木を穿うがつように音が響く。


「クロウの攻撃。コウへのダメージ3」


「え?」


 壁の中に1羽入り込んできた!?

 どこから?


 ココッ、コツコツ。


 壁の外では、5羽が変わらず壁をつついている。

 と、思うと、もう1羽入り込んできた。


『挑発』によりカラスの攻撃はこちらに向いている。


「クロウの攻撃。クロウの攻撃。コウへのダメージ5。コウへのダメージ2」


「どこから入ってるんだ?」


「まさか、上?」


 上を見上げた瞬間、飛んできた矢が目の前のクロウを打ち落とす。


「トゥモローの攻撃。クロウにクリティカルダメージ156。クロウを倒しました。獲得経験値42、獲得金245〔メル〕」


 続けてもう1本。


「マリの攻撃。クロウにクリティカルダメージ102。クロウの飛翔能力を奪いました」


 地面に落ちた白いカラスが羽をばたつかせている。

 そこへ、すかさずリュークが攻撃を当てる。


「盗む!」


「リュークの攻撃。クロウにダメージ33。盗めませんでした。クロウを倒しました。獲得経験値42、獲得金245〔メル〕」


「コウ!ウォールは上に向かってどこまでも壁が伸びてるわけじゃない。上空5メートルのところで切れてるんだ。クロウには一時しのぎにしかならねぇぞ!」

 トゥモローが後ろの方から叫ぶ。


 そういうことか、理解した。

 追いついてきたハタカが魔法を唱える。


「アイスレンジ!」


 3体同時に狙ったはずなのに、1体にしか当たらない。

 敵は素早い。


「ハタカの『アイスレンジ』による攻撃。ダメージ92。クロウの体が凝結しました」


 当然、凍った鳥は地面に落ちてくる。

 そこをリュークが狙う。


「盗む!」


「リュークの攻撃。クロウにダメージ31。盗めませんでした」


 リュークの2撃目。

『盗む』はクールタイム中につき使用できない。


「リュークの攻撃。クロウにダメージ34。クロウを倒しました。獲得経験値42、獲得金245〔メル〕」


 マリがリュークを回復する。


「ヒール!」


「マリの『ヒール』による回復。リュークのHP+54」


 俺は、ハタカから鉄製クロスボウを受け取る。


「ホーミングアイス!」

 ハタカの魔法。


「ハタカの『ホーミングアイス』による攻撃。ダメージ78。クロウの体が凝結しました」


「盗む!」


「リュークの攻撃。クロウにダメージ33。盗めませんでした」


 俺は、まだ飛んでいる2羽の内の右側を狙う。


「コウの攻撃。クロウにクリティカルダメージ139。クロウを倒しました。獲得経験値42、獲得金245〔メル〕」


 トゥモローが後ろから、もう1羽。


「トゥモローの攻撃。クロウにクリティカルダメージ157。クロウを倒しました。獲得経験値42、獲得金245〔メル〕」


 リュークが『盗む』のクールタイム終了を待って、地面で凍ったままの最後の1羽に最後の攻撃。


「盗む!」


「リュークの攻撃。クロウにダメージ34。“黒い羽”を盗みました。クロウを倒しました。獲得経験値42、獲得金245〔メル〕」


 リュークがHPを削られはしたが、5人そろってからは、一方的な戦いとなった。



「馬鹿野郎!単独行動してんじゃねぇよ!軽率すぎるだろ!」


 トゥモローがリュークに怒鳴る。


「すまない。確かに、軽率だった。ただ……」


「ただ、なんだ?」


「ずっと、陰鬱いんうつな森を歩いてきたのが、一気に視界がひらけただろう。テンションが少し上がってしまって……。それに、きわきは亀だ」


「亀がどうした?」


「あ、いや……。亀に目がないんだ……」


 リュークが子供みたいな言い訳をしている。

 トゥモローはといえば、何を言っているんだとばかりに、目を丸くしている。

 一呼吸置いて、トゥモローが応じる。


「はぁ?」


「すまない、亀のこととなると、我を忘れてしまう。それほど、好きなんだ……」


 いい年こいた大人が、しかも医者が、亀とは……。


「亀っていうのは、神秘的な動物でな、世界の神話や伝説に度々(たびたび)でてくるんだ。「鶴は千年、亀は万年」という言葉にもあるように、日本でも長寿ちょうじゅ象徴しょうちょうとして縁起えんぎの良いものとされているだろう。古代インド仏教には須弥山しゅみせんと呼ばれる世界観がある。見たことないか?亀の背中に像が3頭、さらにその像が地球を背負っている絵。あれは、本当は……」


 なんと、リュークが饒舌じょうぜつにうんちくを語り出した。


「わかった、わかった。お前の亀好きはわかった。もういい」


「いや、聞いてください。そんな須弥山しゅみせんを象徴するような亀なんですよ、アレ!」

 リュークが動く山を指差す。

「あんなの、地球にはいないでしょう!」


 それはそうだ。俺たちも充分に驚いている。


「こんなの、興奮せざるを得ないでしょう!早く行きましょう!」


 カラスに囲まれて危ない目に合っていながらも、いまだに興奮が冷めない様子だ。

 流石に、一人で走り出すことはもうしないが、浮足立うきあしだっているのがわかる。


「トゥモローさん、アイツの大きさはどれぐらいですか?何年生きているんですか?」


「大きさはわからないが、1000年以上生きているという話だ」

 トゥモローも圧倒されて、律儀りちぎに答えている。


 リュークにうながされるように、カラスの死体を解体し『インベントリ』に入れるハタカとマリ。

 当のリュークはトゥモローを質問攻めに……。

 俺はというと、再びカラスが襲ってこないか見張り役。


 そして……。



 ◇◇◇


「うぉおおおおおおおおおおおーーーーー!!!!!!!」


 カラスの死体を処理してから5分後。

 動く山の下から伸びる足と首を見て、リュークの口から出る歓喜の声はとどまるところを知らなかった。


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