第四十話 ボッタクリの代償、そして……
「ああ、この目ん玉は傷が付いてるな。何、矢を当てた?狙って当てたのか、そいつはすごいな!これなら俺の所でも買い取れる。40万だ。どうだ、それとも盾に着けるか?なかなか面白い感じになるぞ?」
俺たちは御用達の鍛冶屋に来ている。
200万は下らないと言われた真紅眼が、傷が入っていることで40万とは……。
カイトシールドに付けたときをイメージしてみる。
デザイン次第だが、悪くない気がする。
2つ着けるときの禍々しさはない。
まあ、それは俺のイメージの匙加減か……。
「40万なら、売らずに着けてみたらどうだ?コウ」
リュークが言う。
ハタカとマリの顔を見ると、2人もうなずいてくれる。
俺は無言のまま、オヤジに目で合図してうなずきかける。
「おう、着けるか?工賃はもらうぞ。傷が付いてないもう片方の目は、別の街で売ると良い」
「真紅眼は盾の中央にあしらって、十字になるように装飾を施してください」
俺は、自分のカイトシールドをオヤジに手渡しながら、イメージしたものをオヤジに伝える。
「おう、任せろ!明日の朝までには仕上げておくから、街を出る前に取りに来い。それからこれは、素材の買取分だ。工賃は引かせてもらってる」
俺たちは、オヤジから12万〔メル〕を受け取って鍛冶屋を後にした。
◇◇◇
俺たちは、リップオフ、エヴリウェアと酒場で合流し、お互いの状況を確認した。
マリのトラウマ克服はうまくいった、そっちはどうだ?
情報を売ったメンバーを中心に当たったが、うまくいかない。
リップオフがボッタクッた相手だろう?当然じゃないか。というような話が進んだところで、ハタカが提案する。
「リップオフさんは転職キーアイテムを、まだいっぱい持っているのではないですか?」
「ん?ああ、まあな」
「エヴリウェアさんは転職まだですよね?リップオフさんの持つ転職キーアイテムで盗賊かプリーストに転職して、盗賊は要りませんか?回復職は要りませんか?と当たった方が良いのでは?」
「それ、いけそうだな!」
リュークが返す。
「まあ、それは俺も考えたが……」
リップオフが渋る。
「何か問題でもありましたか?」
ハタカが聞く。
「いや、特に問題はない、が……」
「転職キーアイテムを出し渋ってんじゃないのか?エヴリウェアや、死んだ3人への罪滅ぼしだと思えばいいじゃないか」
リュークが鋭い突っ込みを入れると、リップオフは仕方なくという感じで承諾した。
◇◇◇
翌日も、2手に分かれて行動することになった。
4人組のパーティーは森の出口を目指してさらに進む。
リップオフ、エヴリウェアはパーティーメンバー探し。
◇◇◇4人組パーティー サイド◇◇◇
俺たちは街を出る前に鍛冶屋に足を運んだ。
「おう、できてんぞ!我ながら、会心のできだ!」
オヤジから受け取ってみると、想像以上に良い物に仕上がっていた。
まさに、聖騎士の盾という感じだった。
流石、オヤジだ。
「傷のついた真紅眼だからな。あるはずの効果、動物の動きを押さえる効果も100回に1度ぐらいだと思っておいてくれ。期待はするな、ただの飾りだ」
オヤジはそう言ったが、RPGシステムに設定された効果は、それもまた想像以上だった。
真紅眼のクロスカイト(真紅眼:モンスター金縛り効果付与。確率50%。モンスターの攻撃を防いだ瞬間に効果発動)
◇◇◇リップオフ、エヴリウェア組 サイド◇◇◇
昨日、声をかけて断られた男女2人ずつの4人組パーティーを見かける。
リップオフが「なあ、あんたら、盗賊かプリー」と話しかけようとすると、「俺たち、間に合ってます!」そう言って、逃げるように走り去ってしまう。
朝はいろいろなパーティーが出発の準備をしていて忙しそうにしているが、出会う確率も高い。
何度目かの声かけで、現地人1人がついた5人組のパーティーが興味を示してくれた。
「仲間はいらないよ。4人で充分だ。プリーストもいるし、盗賊も“三本目の尻尾”あと1つでなれる。ただし、戦士かシールドアーマーなら、即戦力になるから考えても良いけど……」
4人の内の1人がそう言うと、
「あんた、情報屋だけでなくてメンバーの斡旋までしてるんだな。それで紹介料まで取ろうっていう魂胆だろう?」
別の1人が言う。
リップオフとエヴリウェアは顔を見合わせる。
それから、リップオフがエヴリウェアに向かって大丈夫、と言うかのようにうなずく。
「いや、そうじゃない。こいつをパーティーメンバーに入れて欲しいんだ。こいつが転職する分のキーアイテムはこちらで持つ。なんだったら“三本目の尻尾”1つも提供しよう」
リップオフにしては頑張った方だろう。
「なんだそれ、こちらが損するのが食い扶持が1人増えることだけでほとんど無いじゃないか。それに対して、そっちは転職キーアイテムを4つ分か、怪しすぎないか?」
「レベルの高い所に入ってしまって、パーティーメンバーを3人亡くした。1人になって困っている」
「そっちの彼の事情は分かった。それを、リップオフ、あんたがそこまで援助する理由はなんだ?」
「高レベルの所に彼らパーティーが入ってしまった原因の一端が俺にあるからだ。責任を感じている」
リップオフが答える。
「ふうん。まあ、信じよう。で、その彼のレベルは?」
「6です。そちらは?」
エヴリウェアが答える。
「7や8だ。レベル差はないか……」
「シールドアーマーと戦士、どちらが良い?」
リップオフが問いかける。
「どっちでもいいのか?」
「ああ」
「じゃあ、シールドアーマーだ」
「わかった」
リップオフは返事し、スマートフォンを操作してエヴリウェアに向かってトレード申請をした。
「この“六本目の爪”というのがそうなのか?」
同じようにスマートフォンを操作しながら、エヴリウェアはリップオフに聞く。
そこへ、
「ちょっと待ってくれ。シールドアーマーの“六本目の爪”は俺たちの中にタンク役がいるからそちらに回してほしい。エヴリウェアさん?は、こちらで今後得られたものを使ってくれないか?」
と、さっきから話している先頭の男が言う。
「それは、ちょっと……虫が良すぎるだろう?」
リップオフが否定する。
「転職キーアイテムさえそろえば、あんたの好きな職業を選んでもらって構わないから」
男はエヴリウェアの方を向いて言う。
リップオフはエヴリウェアの顔を見て、どうする?と、無言で尋ねる。
エヴリウェアは少し逡巡した後、「……わかった」とだけ答えた。
◇◇◇
俺たちが順調に森を進んでいたころ、リップオフとエヴリウェア2人のパーティーメンバー探しは何とか目的を達成し、リップオフは“六本目の爪”を3つと“三本目の尻尾”までも相手の男に渡して、エヴリウェアを預けて別れたのだった。
その2日後には、いよいよ俺たちはゼフル大森林をぬけることになる。
そこで俺たちは、ここが地球ではないことを改めて実感する光景を目の当たりにする……。
「目標金額達成まで残り 998,460,470/1,000,000,000〔メル〕」