第四話 RPGシステム
目標金額達成までの残金を追記(2020年7月12日追記)
「それでは、スマホ端末から本ツアー参加条件であるアプリを起動してください。今後は、このアプリを“RPGシステム”と呼称します」
俺たちは、アプリを起動した。
ツアーの申し込み以来、動かしようのなかったアプリが数秒のロード時間を経て一つの画面を写しだした。
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プレイヤー名 山下浩一郎 【変更】
レベル 1
EXP 0
職業 一般民
スキルレベル 0
HP 25/25
MP 5/5
力 1 △
生命力 1 △
素早さ 1 △
集中力 1 △
カリスマ 1 △
ステータスポイント 10
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「起動が終わるとプレイヤー名、レベル、職業などが表示されているかと思います。それがホーム画面です。ホーム画面の下に、ボタンが並んでいます。その一番左にある、【獲得金】をタップしてください」
なるほど、画面下に5つのボタン
【獲得金】【アイテム】【装備】【スキル】【システム】が並んでいる。
右上にも、“端末から電波が伸びたような絵”の丸いアイコンボタンが1つだけある。
これはなんだろう。
俺は右上のアイコンボタンが気になったが、【獲得金】ボタンをタップする。
小さなウィンドウが出て、
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0/1,000,000,000
所持金額/目標金額〔メル〕
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と表示される。
「所持金額と目標金額が表示されましたね」
「あなた方は、その目標金額が達成されるまで元の世界に戻ることはかないません。ただし、戻るときには1メル=1円換算で、貯めた分だけお渡しします。悪い話ではないでしょう」
アナウンスの声を聞きながら、俺は桁を数え始めた。
「一、十、百、千、……10億!!?」
思わず叫んだ俺の顔を、若い男女の2人が驚いたように見る。
一方おっさんは、俺の「10億!!?」と同じタイミングで
「2億ですか……」と静かにつぶやいた。
――なんで人によって目標金額が違うんだと、言おうとしたところでアナウンスが続いたのでやめた。
「目標金額は人によって違います。それでも、その金額にはそれぞれ思い当たる節があるでしょう。」
アナウンスが途切れたところで、俺はおっさんを問い詰めた。
「高畑さんは、高畑さんの2億って、なんですか!?」
「おいおい、そりゃないだろう。まず、自分から話せよ。お前の10億ってなんだよ」
谷口が喧嘩の仲裁をするかのように、割って入ってくる。
「言えるわけないだろう――」
就職活動に失敗して、富くじ10億が当たるといいなと思ったなんて、恥ずかしくて言えるわけがない。
「それじゃあ、高畑さんだって同じだ。言えるわけないだろう。お互い、プライベートで何かあるからここに来てるんだろう。」
「喧嘩はやめてください。私は言っても構いませんよ。……娘が……病気なんです。腎臓が悪くて……」
「すみません、わかりました」
俺は謝った。
他の2人はどうなんだろう。
気になったところで、再びアナウンスが続いた。
「お金は、モンスターごとに金額が決まっており、倒すたびにスマホ端末に振り込まれます。この星の住人と売買するときには、端末にたまった金額を、通貨である金貨や銀貨に換える必要があります。それぞれの町ごとに、必ずあなた方地球でいうところのATMのような機械を設置してありますので、探してみてください。通貨の単位は同じ〔メル〕です。
プレイヤー同士のやりとりにはそのまま端末が利用できますので、どうぞ。」
お金は貯まるばかりでなく、武具やアイテムを買ったりしなければいけないってことか――。
「それから、レベルやステータスについてですが、これはRPGシステムによるものだと思ってください。アプリのシステムアシストによりレベルに応じた攻撃力と防御力が得られます。
具体的に話しますね。プレイヤーがモンスターと戦おうとするとき、システムがまず、それぞれに見えないシールドのようなものを張ります。その上でステータスや装備の数値を元にしてシステムがアシストあるいは制御し、決まったダメージが入るように見えないシールドを加減します。それによって、実際にケガをすることもあります。対するモンスターのHPがゼロになるタイミングで、プレイヤーの攻撃が完全に通るようにアシストが入ったりもします。もちろん、その逆もしかりです。」
アナウンスは続く、
「一つ注意をしていただきたいことがあります。ここはあなた方が生活する地球と同じ時が流れています。今もあなた方は生きています。ここはゲームの中のような世界ですが、死んではおしまいです。命あっての物種、あなた方の地球ではそう言うでしょう?
それから、このRPGシステムはこの星の住人にはありません。ともに、冒険していただくことはできますが、ダメージの受け方、与え方が全然違いますから気をつけてください。もちろん、HPやレベルのようなものはありませんから、レベルアップで強くなることはありません。その半面、あなた方のレベルの低いうちはここの住人の方がはるかに強いかもしれませんね。
想像してみてください。地球で犬や猫のような動物を倒そうとしたとき、ナイフや包丁で心臓を一突きすれば倒せますよね。でも、クマを倒そうとしたとき、仮に持っている武器が剣だったとしても、少し怖くはないですか?」
「なんてことを……」
奥田が怯えるように言った。
「さて、大体の説明はいたしましたが何か質問はありますか? あるようでしたら、ホーム画面に戻って右上にあるコミュニケーションのアイコンボタンをタップしてください。ドロップダウンメニューが出ますので【GM】を選んで端末に話しかけてください。話しかけた声も全体にアナウンスで流して質問に答えさせていただきます。」
なるほど、コミュニケーションボタンだったか。
俺は、獲得金の画面を閉じてホーム画面にもどり、右上のアイコンボタンをタップした。
ドロップダウンメニューには、
【フレンド】【パーティー】【ギルド】【通訳】【街拡声】【パスト拡声】【GM】とある。
そうこうしているうちにアナウンスが流れた。
ツアー参加者のだれかの声だろう。
「おい、何が目的だ。何故こんなことをする?」
お決まりの文句だなと俺は思う。そして、
「あなた方は知る必要はありません。」
そうだろう。
これもお決まりだ。
「くっ。」馬鹿馬鹿しくて少し笑えて来る。
奥田に睨まれてしまった。
慌てて、おれは【GM】ボタンを押して端末に話しかけた。
「お前たちはこの星の者か?」
「違う」
やはりそうか。
車窓から見える景色から、この星の文明でRPGシステムは構築できないように感じた。
質問を続ける、
「モンスターを倒すのが目的か? それだけの文明があるならお前たちがやれば良いだろう」
「それができないからだ」
「どういうことだ、なぜできない」
「それも、お前たちが知る必要はない」
“あなた方”が“お前たち”に変わった。
少し、正体が見えてきた。
谷口が同じように質問した。
「スマホ端末のバッテリーはどうする?」
「バッテリーはシステムにより自動チャージさせていただきます」
そんなこともできるのか。
アナウンスの声は続く。
「また、端末が壊れた場合には代えの物を用意させていただきます。ただし、機能が制限されますから今お使いの物を大切に使っていただく方が良いかと思われます」
丁寧な口調に戻っていた。
他の客室からの質問が入る。
女性の声だった。
「メルは円になるんでしょう? 円はメルにならない? 持ってきたお金を換えてほしいのだけど」
確かに、所持金0で始めるのはかなり無謀な気がする。
俺の財布には2万円と少し入っている。
それが換金できるならスタートが安心だ。
「初めだけできます。この車内なら換金させていただいております。列車を降りてからは一切しておりませんので、皆様降りるまでにどうぞ。
窓側の座席の下にあるスイッチをonにしてください。横からATM端末がせり出してまいりますので、あとは画面の指示に従って換金してください」
列車内、至る所で少しザワつく様な音がする。
「他に質問はございませんか」
「あるわ」
先ほどの女性の声だ。
「1000万円、いえ、1000万メル貯めるのにどれだけのモンスターを倒さなければいけないの? お金が貯まったらどうやって地球に戻してくれるの?」
「1000万ですか。それは、ご自身でモンスターを倒してご確認ください。それがRPGの醍醐味というものです。地球で1000万貯めるよりもよほど簡単ですよ。死ななければね。ただし、この駅がある街の周辺だけで1000万貯めようとすると一生かかるかと思いますが……。
因みに、お金を貯めなくても地球に帰る方法がもう一つあります。それは、このゲームをクリアすることです。RPGシステムにおいて最終ボスを設定しておりますので、そのボスを倒してください。そうすればゲームクリアです。
お金が貯まったら、あるいは最終ボスを倒したら、この街のこの駅に戻ってきてください。そのときは、地球へお連れします。もちろん、目標金額を大きく上回ってから地球に戻ってもらっても構いません」
「馬鹿にしてるわ、なにがRPGの醍醐味よ! あなたたちの遊びに付き合ってい――」
女性の声が強制的に消され、GM(?)の言葉が続く。
「そろそろ質問も終わりにしてよろしいでしょうか。中には、早く冒険に出たくてウズウズされている方もいらっしゃるのではないかと思いますので……。
言い忘れましたが、この星の名前は、ここの住人に“パスト”と呼ばれています。そして、この駅のある始まりの街は“トゼフル”です。この列車が停まっているホームを先頭車両の方へ向かえば、街につながる改札口があります。
どうぞ、冒険をお楽しみください」
正直、俺は少しワクワクしていた。
10億というお金がこの世界でどれだけの物かはわからない。が、MMORPGをやっていてゲームの中で生活したいと思ったことがあるくらい、俺はヘビーユーザーだったからだ。
確かに死ぬのは怖い、それでも俺の感情は恐怖よりも期待感の方が勝っていた……。
「目標金額達成まで残り 1,000,000,000/1,000,000,000〔メル〕」