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第三十九話 真紅眼狼《レッドアイズウルフ》再び

「私たちだけで、本当に大丈夫でしょうか?」

 ハタカが疑問をていする


「リップオフが、適正レベル以上だから大丈夫と言ってましたよ」

 リュークが返す。


 リップオフ、エヴリウェアの2人とはすでに別れた後だ。


「そうだと良いですけどね。俺の『ウォール』次第ですね」


「レベル5、Maxまで上げたんだろう?それなら大丈夫だろう」

 さらにリュークが返してくる。


「では、行きましょうか」

 俺はハタカの顔を見る。


 ハタカは頷き、魔法を唱える。


「ゲート③・オープン」


 リュークがくぐり、俺もそれに続こうとしてマリの顔を見る。

 やはりマリは動かない。

 大丈夫か?


「足がすくんで……」

 マリが言う。


「大丈夫?やっぱりやめておきますか?」


 ゲートを最後に潜ろうと、マリの後ろに回っていたハタカが言う。


「ハタカさん、私の背中を押してくれませんか?」


 マリが、少し震えるような声でハタカに言う。

 何?!そんな役得、俺がしたい!


 ハタカに押されてゲートの側まで来たマリが俺に向かって手を伸ばす。


「コウさん、手を引いてください」


 おお!きた~~!!!

 しかし、ここは冷静に、あくまで紳士に。


「そこまでしなきゃダメ?やめておこうか?」

 俺は聞き返す。


「大丈夫、これぐらいの荒療治は必要でしょう?」

 マリが答える。


「どうだ?やっぱりダメか?」


 後の3人が続かないからか、先にくぐったリュークが、午前中と同じようにゲートから顔をのぞかせながら聞いてくる。


「大丈夫。行きます」

 マリが即答する。


 俺は、マリが差し出した手を引いてゲートをくぐる。

 ハタカに押されていることもあってか、そんなに抵抗もなくマリが付いてくる。

 なんとか、4人で元の森に降り立つ。

 上からの光が木漏れ日となって降り注いでいる。

 森の中は暗くもなく、そして暑くもない。

 この星、この地域にどんな季節があるのかは分からないが、今がとても快適であることは確かだ。

 場所と状況が違えば、良いピクニック日和びよりだった。


 それから俺たちは1時間ほど進んだが、やはり夜行性だからだろうかこの時間帯に狼に遭遇することはなかった。

 マリの歩く速度はやや遅い。

 ゲートをくぐる前のように、足がすくんで動けないということはなかったが、足が重いのは仕方がないことかもしれない。

 森の中には狼以外何もいない訳でもなかった。

 蛇に遭遇して1匹倒した。

 街の近くの蛇よりは多少レベルも上がっているが、俺たちは慣れたもので難なく倒すことができた。

 少し気になったのは、やはりマリの動き。

 全く動けないわけではないが、セイントアローを1度唱えただけだった。


 そこからさらに1時間、今度は何にも遭遇することなく進んでしまった。

 この昼過ぎの時間帯は、これまでも森の中を進む間に何も出ないということはあった。

 しかし、マリのトラウマ克服!と目標をかかげて進みだしたのに気勢をそがれてしまうことになった。


「狼、出ませんね」

 ハタカが言う。


「先に進めること事態は悪いことではないんだが、せっかくマリが気持ちを固めて森の中に入ったのにな……」

 リュークが答えマリの顔を見る。


「う、うん……」


「『探索』スキルにも引っかからない」

 リュークがスマホの画面を見ながらさらに答える。


「どうしますか?一旦、街に戻りますか?」

 俺が聞くと、

「そうだなぁ、ハタカさんゲートの記録をお願いします」

 リュークが言う。


「ゲート②・レコード」


「ゼフル大森林北部、w-23、n-50、ゲート②記録しました」

 システムから音声が流れる。


「ゲート①……」


「あ、待って!何か、来た!4体!」


 リュークの『探索』スキルに引っかかったようだった。

 スマホの画面を見ながらリュークは続ける。


「10時の方向から来るぞ、構えろ!速い、コウ『ウォール』だ!」


 俺が「ウォール」と唱えるのと、黒い影が4体俺たちの方に飛び込んでくるのは、ほぼ同時だった。


 ガゴッ!ゴイーン!


 4体の影がウォールにぶち当たる。

 間一髪!


真紅眼狼レッドアイズウルフだ!」

 リュークが叫ぶ。


 4体のうち右から2番目に、他の物よりも一回り体が大きく真っ赤な目を持つ個体がいる。


「ショルダー!」

 ダメージ肩代わりスキルを俺が唱える。


 モンスターの攻撃がシールドを貫通して直接当たることを防ぐ『シールドブロック』は持続時間が1時間以上あるので、道中で全員にかけてある。

 代償としてHPダメージ+10%があることをきらって、このスキルを使っていなかったことが前回の敗因だと言える。

 今回は大丈夫だ!


「隠密」

 小声で唱えたリュークの体がスゥっと消える。


「アイスレンジ!」


「ハタカの『アイスレンジ』による攻撃。ウルフにダメージ75。ウルフにダメージ77。レッドアイズウルフにダメージ53。ウルフの体が凍結しました。ウルフの体が凍結しました。」


  直後に、1番左で凍結した狼のそばで「盗む」と声が聞こえたかと思うと、スゥっと影が現れる。

 リュークだ。


「リュークの連続攻撃。ダメージ44。ダメージ45。盗めませんでした」


「隠密」

 リュークが再び消える。


 『ウォール』発動中は俺は近接攻撃が出来ないため、持ち替えていた鉄製クロスボウでリュークが狙った狼を攻撃する。


「コウの攻撃。ダメージ32。ウルフは瀕死の状態です」


 よし、あと一撃。

 マリ、頼んだぞ。

 そうこうしている間も、真紅眼狼レッドアイズウルフと凍結していない残りの狼が壁に攻撃を続けている。


「アイスレンジ!」


 今度は、凍結していない狼2体に向けてハタカが氷魔法を放つ。


「ハタカの『アイスレンジ』による攻撃。レッドアイズウルフにダメージ55。ウルフにダメージ73。ウルフの体が凍結しました」


  やはり、真紅眼狼レッドアイズウルフはしぶとい。


「ホーミングアイス!」

 さらに、ハタカの魔法。


「ハタカの『ホーミングアイス』による攻撃。レッドアイズウルフにダメージ35」


 魔法の説明では、より凍結確率が高く凍結時間の長い『ホーミングアイス』だったが、それでも真紅眼は凍結しない。


 4体の狼は残ったままだ。

 俺はクロスボウの矢をつがえる。


「盗む」

 瀕死の狼のそばで、さっきと同様に影がスゥっと現れる。


「リュークの連続攻撃。ダメージ45。ダメージ46。盗めませんでした。ウルフを倒しました。獲得経験値35、獲得金155〔メル〕」


「隠密」

 リュークが三度みたび消える。


 残り3体。

 狼1体の凍結が解ける。

 消えたリューク目がけて、真紅眼狼と同時に飛びかかる。


「レッドアイズウルフの攻撃。リュークへのダメージ0。コウへのダメージ112。ウルフの攻撃。リュークへのダメージ0。コウへのダメージ34」


 『シールドブロック』の効果で貫通ダメージはないが、増幅されたダメージが『ショルダー』によって俺に入る。


 リュークの隠密が解ける。


「アイスレンジ!」


「ハタカの『アイスレンジ』による攻撃。レッドアイズウルフにダメージ55。ウルフにダメージ75。ウルフの体が凍結しました」


 真紅眼がさらにリュークを追撃する。

 横からぎ払うように振り出された前足で殴打おうだされたリュークの体は、弾き飛ばされて近くの樹木に衝突する。


「グァッ!」

 リュークが叫ぶ。


「レッドアイズウルフの攻撃。リュークへのダメージ0。コウへのダメージ124。リュークへの衝撃ダメージ50」


  衝撃ダメージ?!

 そんなものがあるのか!

 真紅眼がさらにリュークを狙おうとしている。

 まずい!


 俺は咄嗟に、真紅眼の赤く光る眼に狙いを定めてボウガンを放つ。

 きっと、システムにアシストされているのだろう、俺の放った矢は見事に真紅の眼に突き刺さる。


 ゴァアア!

 真紅眼が声を上げる。


「コウの急所攻撃。レッドアイズウルフにクリティカルダメージ118」


「よし!」

 真紅眼が俺の方に狙いを定める。


「隠密」

 その隙を狙ってリュークは隠れる。


 マリ、マリはどうした?

 一瞬振り返ると、マリが震えて固まっている。

 やはりダメか?


「マリ、回復を頼む!」


 声をかけるが動く気配はない。

 そうこうしているうちに『ウォール』が解けて半透明の壁が消える。

 真紅眼が俺に襲いかかる。

 クロスボウを持ったまま、腕に通しているカイトシールドを構える。


「レッドアイズウルフの攻撃、カイトシールドによる防御。コウへのダメージ55」


 盾を構えて、真紅眼を押さえながらマリに声をかけ続ける。


「マリ!マリ!回復を頼む!」


『ウォール』を唱え直す隙がない。


「コウさん、頑張って押さえてください。雑魚を先に倒しましょう!アイスレンジ!」


「ハタカの『アイスレンジ』による攻撃。ウルフにダメージ77。ウルフの凍結時間延長」


「リュークさん、お願いします!」


 どこにいるか分からないリュークにたいしてハタカが叫ぶ。

 その瞬間、俺の後ろで相撲の張り手のような音が響いた。


 パァン!


 見ると、リュークがマリの頬に平手打ちを喰らわしている。

 おいおい、戦闘中になにやっているんだ!?


「マリ、見ろ!アイツ本当に死んじまうぞ!お前の兄貴を助けた母親の気持ちを想像してみろ!お前の母親はどういうつもりで野犬に向かっていったんだ?」


 そう言ったかと思うと、リュークは俺の横をすり抜け、狼の方へと向かう。

 速い!流石さすが、盗賊。

 この動きもシステムにアシストされているのだろうか?


「盗む!」


「リュークの連続攻撃。ダメージ46。ダメージ43。“赤い眼”を盗みました。ウルフを倒しました。獲得経験値35、獲得金155〔メル〕」


 その直後、俺の後ろから魔法を唱える声が聞こえた。


「セイントアロー」


 樹木の上、枝葉の間から1本の太い光が真紅眼を貫く。


「マリの『セイントアロー』による攻撃。レッドアイズウルフにダメージ58」


 真紅眼がのける。今だ!


「ウォール」


「みんな、ごめんなさい。もう大丈夫。ヒール!」

 マリの声がすると同時に俺の体が温かい光で包まれる。


「コウのHPが全回復されました」


「アイスレンジ!」


「ハタカの『アイスレンジ』による攻撃。レッドアイズウルフにダメージ53。ウルフにダメージ74。ウルフは瀕死の状態です。ウルフの凍結時間延長」


 俺は、真紅眼の斜め後ろにいる狼を狙う。


「コウの攻撃。ダメージ32。ウルフを倒しました。獲得経験値35、獲得金155〔メル〕」


「ラスト1体!いけるぞ!」


 真紅眼は変わらず『ウォール』に攻撃を続けている。


「セイントアロー」


「マリの『セイントアロー』による攻撃。レッドアイズウルフにダメージ56」


「ホーミングアイス!」


「ハタカの『ホーミングアイス』による攻撃。レッドアイズウルフにダメージ38。レッドアイズウルフの体が凍結しました」


「凍結が効いた!畳みかけるぞ!」


「盗む!」


「リュークの連続攻撃。ダメージ35。ダメージ34。“紫のミディポーション”を盗みました」


「マリ、こいつを殴れ!」

 リュークが呼びかける。

「殴って、マリが止めをさせ!」


 マリがソードメイスを振りかぶり、真紅眼に打ち下ろす。


 マリが何度目かの攻撃を打ち下ろそうとした瞬間、真紅眼の凍結が解けグルルと低く唸る声が聞こえた。

 しかし、それはマリの最後の攻撃の瞬間でもあった。


「マリの攻撃。ダメージ40。レッドアイズウルフを倒しました。獲得経験値70、獲得金310〔メル〕、獲得アイテム“赤い眼”」


「レベルが22に上がりました」


 しばしの沈黙。

 次に、じわじわと胸に押し寄せる感情。

 4人は静かに顔を見合わせ、両手を握ってかがみこむ。そして、4人同時に伸び上がる。


「「「「いやったぁ~!」」」」


 それは、マリのトラウマを克服した瞬間でもあった。

 マリ自身も、まさかこんな形で10年以上も抱えてきた心の傷を癒されるとは思ってもみなかった。

 いや、まだ完全に傷が癒えたわけではない。

 しかし、少なくともそれは母親を亡くした喪失感を埋めるには充分なものであった。


 その後、さらに2時間ほど森を進み、2度の戦闘を終えてその日は街へと戻ってくることができた。

 森を進む途中、リップオフと何度か連絡を取ったが、エヴリウェアのパーティーメンバー探しは難航しているようだった。


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