第三十六話 火のない所に煙は立たぬ
「この詐欺野郎!」
目が覚めた翌日。
なんとか体が動かせるようになって、エヴリウェアの部屋に入って行くと第一声がこれだった。
「お前たちのせいで、俺の仲間は死んだんだ!どうしてくれる!」
思い出した。
この男は確か、トゼフルの街で『ゲート』の実験をしていた時に話しかけてきた4人組パーティーの内の1人だ。
俺たちと同じ32組だという話をした。
さらに、“三本目の尻尾”を10万で買ってくれったっけ。
その男から詐欺呼ばわりされている。
しかも、仲間殺しの汚名まで着せられそうだ。
売り言葉に買い言葉で返すと、とても収拾がつかなくなるだろう。
ここは冷静に対処しないと……。
「エヴリウェアさん、お久しぶりです。2週間ぶりぐらいですか?あ、いや倒れる直前に会ってるから3日ぶりかな?」
「何、呑気な事言ってやがる?俺の仲間どうしてくれるんだよ」
「あのう、詐欺ってどういうことでしょうか?」
年配のハタカが、これまた丁寧に聞く姿勢を見せる。
「そいつだよ!これが詐欺と言わずして、何て言うんだ!」
エヴリウェアがトゥモローを指さす。
「あ……」
マリが声をもらす。
何か思い当たる節があるのだろうか?
「ちょっと、皆、いい?」
マリに部屋の外に出るよう促される。
「あ、リップオフさんは、ここにちょっと残ってください」
そう言って、4人で部屋を出る。
この部屋に入る時、エヴリウェアの前ではリップオフと呼んでくれと、トゥモローに言われていた。
「お、おい、お前たちどこ行くんだよ」
エヴリウェアと2人きりに残されそうになって、トゥモローが俺たちを呼び止めようとする。
「おい、詐欺野郎、逃げるなよ!」
これはもちろん、エヴリウェア。
部屋の外に出てドアを閉めると、中から続いて声がする。
「この、ボッタクリ野郎!」
トゥモローに言ったのだろう。
「ねえ、あの人に“三本目の尻尾”を売ったよね。その時に、何て言ってトレードしたかな?」
マリが聞いてくる。
「え~と、確か。リップオフのボッタクリの話で盛り上がった後に……“三本目の尻尾”をリップオフから買うと30万という値段で売りつけられるから、俺たちから10万でどう?……的な?……あ……」
「「「それ!」」」
3人が俺の方を指差す。
なるほど、そのリップオフと、今一緒に行動しているわけだ。
それは、詐欺だわな。
さて、どうやって説明しよう。
こちらの話を聞いてもらわないとどうしようもない。
とりあえず、部屋の中でエヴリウェアに怒鳴られ続けて、トゥモロー、もといリップオフが困っているだろうから、戻ることにする。
まあ、自業自得だけどな。
部屋の中に戻って、さあ、どうしようかと考えながらリップオフの顔を見る。
他の3人も同じようにリップオフの顔を見る。
全員の視線がリップオフに集まる。
原因は全てこいつだ。
俺たちは悪くない。
「な、なんだよ?」
全員の注目を浴びて、リップオフがたじろぐ。
「リップオフさん、原因が分かりました。1から説明しますね」
最近やっと慣れてきたトゥモローという呼び名だったが、リップオフという呼び名の方がしっくりくるのはなぜだろう。
「酒場でリップオフさんに会って、俺たちについてくるという話になる直前に、この人に“三本目の尻尾”を10万で買ってもらったんです。リップオフから買うと30万取られるっていう話をして……」
「ん?あぁ、あー、なるほど。理解した。そのお前たちが俺と一緒にいるから、グルだ、詐欺だとこういう訳か」
「そうです。そこで彼の誤解を解いて、わかってもらわなきゃいけないんです」
「それは難しそうだな」
エヴリウェアの今の状態を見ると誰もがそう思う。
「わかった、俺が10万返そう。“三本目の尻尾”は返さなくていい」
リップオフがエヴリウェアに向かって言う。
金で解決しようというのか、それは火に油だろう。
「金なんていらねーよ。馬鹿にしてんのか!俺の仲間を返せよ!」
ほら、言わんこっちゃない。
「その仲間が死んだのは俺たちのせい、というのは?」
「文句を言ってやろうと、ついて行ったんだよ!」
「森まで?」
「そうだ。そうしたら、犬の化物に殺られたんだ!」
犬ではなく、狼だけどね。
「街で声をかけてくれたら良かったのに……」
「で、どうやって森までついてきたの?『ゲート』はどうしたの?」
「お前たちのをくぐったんだ」
「え?どうやって?いつも、『ゲート』が閉じるのを確認してから進むのに……。誰も通って来なかったですよね?」
俺は言いながら、4人の顔を見わたす。
「あ……」
ハタカが何かを思い出したような顔をする。
「え……?」
「朝日……」
「朝日?」
俺は、ハタカの言葉を復唱して聞き返す。
「この星に来て、初めての朝日だったから、それに見とれてたんだ」
「そういえば……」
マリがつぶやく。
「それで?だからどうだっていうんですか?その見とれていた隙にエヴリウェアのパーティー4人が通ったと?流石に誰か通れば気付きますよ」
リュークが反論する。
「いや、誰も通らなかったけど、ゲートが閉じるのを確認していない。他に、ゲートが閉じたのを見た人いますか?」
ハタカの問いに、リップオフを含め4人が首を振る。
「おい、そんな話はいいんだよ!俺の仲間をどうしてくれるのかってきいてるんだよ!」
エヴリウェアが話を遮るように割り込んでくる。
この話の続きをされるのを嫌がっているように思える。
「だから、ゲートなんてすぐに閉じるけど、その間誰も通らなかったって」
エヴリウェアを無視して、リュークがハタカに返す。
「リュークさん、閉じるのを確認されたんですね?」
「いいや、確認はしてない。でも、誰か通ったらわかるだろ……でしょう?」
反論することに熱が入ってきたのか、ハタカに対する敬語が微妙になってきている。
「ゲートが閉じなかったんです。おそらく、閉じてないのを見過ごして森の中へ進んでしまったんです」ハタカが続ける。
「そんなこと、ありえないだ……でしょう?いや、ありえるのか」
「はい、何か目立たない物をゲートの足元にでも引っ掛けておけば、ゲートは閉じません」
「おい、いい加減にしろよ。俺を無視するな!俺の仲間のことをどうするか話せ!」
エヴリウェアが声を荒げる。
「だから、誰が、そんなの引っ掛けるんだよ?」
リュークはさらにエヴリウェアを無視して続ける。
その、ハタカへの反論はすでに敬語ではなくなっている。
「もちろん、彼らです」
ハタカはエヴリウェアを指差す。
「「え?」」
リュークだけでなく、リップオフも、まさかという顔をしてエヴリウェアを見る。
「な、な、なんの話だ!誰もゲートに靴なんか引っ掛けちゃいねぇぞ!」
顔を真っ赤にして、エヴリウェアが大声を上げる。
ボロを出したことに気付いていない。
「ゲートに靴を引っ掛けたんですね?」
ハタカがエヴリウェアに詰問する。
「し、知らねーよ。なんの話だ!そんなことより、俺の仲間はどうするんだって!」
「俺たちのゲートを、わざわざ靴を引っ掛けて閉じるのを阻止までして、俺たちが進んで見えなくなってから通って、その挙句に仲間が死んだんだ。それは俺たちのせいか?」
リュークがエヴリウェアを睨みつけると、
「ゲート無断通行料を取らなきゃな。10万だ」
リップオフが意地悪く言う。
「……」
エヴリウェアは押し黙ってしまった。
ぐうの音も出ないとは、まさにこういう状態のことをいうんだろう。
「すみません、転職キーアイテムをあなた達に売ったことに関しては、誤解があるんです。その話を聞いてもらえますか?」
マリが優しい言葉をかける。
その後、俺とマリが穏やかに話をして、ときどきリップオフが口を挟みつつ、なんとかエヴリウェアの誤解を解くことができた。
いや、完全に誤解を解けたかどうかはエヴリウェア自身にしかわからない。
ただ、最後には「わかった、もういい」という言葉をエヴリウェアから引き出した。
エヴリウェアの話では、夕方になると毎日ゲートをくぐって俺たち5人がどこかから帰ってくるのを見ていたらしい。
俺たちがリップオフと一緒に行動しているのを見て、自分たちは10万を騙し取られたと思ったようだ。
そこで、俺たちの行動を監視していると、朝早くにゲートをくぐってまたどこかに行くのがわかった。
試しに、俺たちが通過した後のゲートに、買い替えの予定で不要になった短剣をこっそり引っ掛けておくと、ゲートが閉じないこともわかった。
そういえば、一度ゲートがなかなか閉じないことがあったなと、今さらながらに思い出す。
その時は、ゲートが閉じるまでの時間が、いつもよりも30秒ほど長かっただけなのであまり気にしてはいなかった。
さらに数日後、自分たちのレベルも1つ上がったので、俺たちがどこに行って何をしているのか監視をしてやろうと、ゲートの通過に時間差をつけて通ったらしい。
エヴリウェアの話を聞いて、俺たちは誤解を与えるような行動をとったことを素直に謝罪した。
同時に、亡くなった3人への謝罪の言葉も伝えた。
また、その3人の弔いのため、エヴリウェアをもう一度森まで連れて行くことになった。
いつも読んでいただきありがとうございます。




