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第三十四話 このゲーム余裕だと思っていた

書き出しに苦労して、こんなにも時間がかかってしまいました。

お待たせしました。第三十四話です。

「く、くるなー!」


 人の叫び声。

 これは恐らく、システムに翻訳された言葉ではなく日本語だ。

 思わず俺たちは声のする方に向かって走り出す。


 その後には聞くに堪えない耳をふさぎたくなるような音が聞こえてきた。

 獣の咆哮ほうこううなり声、途中で途絶とだえる人の声と、何かを引き裂かれる音、唾液だえき交じりの何かをむさぼり喰うような音、それらが入り混じり響いてくる。

 そして、また人の叫び声。


「ひぎぃいいぃーー!」


 まだ、生きている人がいる!

 が、――俺たちが着いたころには、そこには4つの転がる死体とそれに群がる狼たち。


「うっ」

 喉の奥から声が漏れる。


「いっ、いやぁああああ!」

 後から追いついてきたマリがその様子を見て叫び、引き返して逃げようとする。


「待て、まだ生きているかもしれない。お前の『キュア』が必要だ」

 そう言いながらトゥモローがマリの腕を掴んで引き留める。


 狼の群れは先ほどの戦闘より少ない5頭ぐらい。

 ただし、中に一回り大きな個体が1頭いる。

 ただでさえ大きい狼よりも、さらに大きいのだ。

 ボスクラスか?

 俺の身長よりも高い。

 特徴的なのは、大きさだけでなくその眼だ。


「気を付けろ。真紅眼狼レッドアイズウルフ、狼のボスだ」

 トゥモローがささやく。

 そう、眼が赤いのだ。


 武器を構え、4人の中にまだ息をしている者がいないかどうか確かめるべく、狼を追い払うように牽制しながら前に出る。

 目を伏せるようにしてマリもそれに従う。

 すると、スマホから音声が流れる。


「エヴリウェアのパーティー戦闘に介入します」


 ん?戦闘に介入?

 まだ戦闘は終わっていない?

 誰か生きてるってことか?

 そう思う間もなく、俺の足元からかすれるような声が聞こえてくる。


「う、うぅ……」


「マリ、この人にキュアを頼む!」


「キュア!」「ヒール!」

 マリが唱えると同時に、男の体を光が包み込む。


「うっ、ガハッ、ゴホッ」

 その男が口から血を吐き出す。

 間に合った!


「パーフェクトシールド」

 男が息を吹き返したのを見届けると、マリはさらに魔法スキルを唱える。


 男の顔をどこかで見た気がするが、今はそんなことよりも他の3人だ。

 しかし、他の3人はダメそうだった。

 のどを切り裂かれていたり、内臓が……たり……。


 ゴォルルルル。


 超低音で、赤い眼の狼から唸り声が聞こえてくる。


「ショルダー」

 俺はスキルを唱える。


 グォウ!


 小さく低く唸る声を合図に他の4頭が襲ってきた。


「おい、動けるか!?」

 俺は、今だに横たわっている男を、またぐようにして前に出ながら声をかける。


「お前たちのせいで……」

 そう言うと、その男は事切れたように首を落とす。

 くっそ、気になるセリフを残して――、とにかく死ぬなよ!


「ウルフの攻撃。カイトシールドによる防御。コウにダメージ5」


「ウルフの攻撃。コウに貫通ダメージ20」


「ウルフの攻撃。鋼鉄の盾による防御。トゥモローにダメージ0」


「ウルフの攻撃。トゥモローにダメージ5」


「キュア!」

 マリの魔法で俺の傷は癒される。


「アイスレンジ!」

 ハタカが魔法を唱える。


「ハタカの『アイスレンジ』による攻撃。ウルフにダメージ71。ウルフにダメージ73。ウルフにダメージ69。ウルフの体が凍結しました。ウルフの体が凍結しました。」


 3頭に命中、内2頭が凍結。

 俺とトゥモローの間からリュークがグレイヴを突き出す。

 刃を横にして首筋を狙う。

 ピシィ!と首に入った刃が氷を割り、そこを起点にピキピキピキッ!とヒビが入って胴から首が離れて落ちる。


「システム外の者による攻撃。ウルフを倒しました。獲得経験値35、獲得金155〔メル〕」


 グゥオオオオオ!

 それを機に、真紅眼狼レッドアイズウルフが大きく吠えて体を低くする。

 来る!


「ウォール!」

 慌てて俺はスキルを唱える。


 コィーン!


 乾いたような高い音を鳴らして、壁が真紅眼狼レッドアイズウルフの攻撃を防ぐ。

 壁の内側にはウルフが残り3体。


 刃をひるがえして、リュークがもう1頭を狙う。

 狼の頭をかたどった氷の彫刻が地面へと落ちる。

 残り2体。


『ウォール』のレベルを上げたことにより、クールタイムが短くなっており、マリのクールタイム短縮スキル『ショートタイム』との併用で、ウォールの持続時間の終了とともにクールタイムも終了する。

 すなわち、ほぼ無敵に近い状態で『ウォール』をかけ続けることができるのだ。

 色々な面で、プレイヤーの生存率を高めるようシステムは組まれている……と、今までは思っていた。

 プレイヤーが死ぬこと忌避きひする傾向にあるシステムだと感じていた。

 魔法スキル『キュア』や、この『ウォール』にしてもそうだ。


 3度目の『ウォール』をかけ直し、壁の内側のウルフ4体を倒し切ったところで、俺たちはその考え方の甘さに気付かされることとなる。

 真紅眼の何度目かの攻撃を『ウォール』が防いだ直後……。


「ウォールが限界値を超えました。ウォールが消滅します」


 真紅眼は歯をき出しにして怒り狂った顔をしている。

 真っ赤に光る眼がさらに激しい憎悪を感じさせる。

 直後、俺の左肩に奴の犬歯が襲い掛かる。

 それを、カイトシールドで防――。


「うぐぅぁ!」

 肩口に電気ショックを受けたような衝撃を覚える。


「レッドアイズウルフの攻撃。カイトシールドによる防御。コウに貫通ダメージ232」


 何が起こったか理解するのに数秒の時間を要した。

 俺の左肩は奴の犬歯によってシールドごとつらぬかれている。

 その口に咥えられたままで、俺の体は持ち上げられ右に左に振り回される。

 そのたびに、肩から裂けるような激痛が走る。


「レッドアイズウルフの攻撃。コウに貫通ダメージ23。55。38。54……」


 ヤバイ、左腕を持っていかれる!

 そう思った瞬間、


 ギュイィィ!


 その巨躯きょくのどこから出たのかわからないような高い叫び声を聞きながら、俺は地面に落下する。


「システム外の者による攻撃。レッドアイズウルフに……」


 システムの音声を聞きながら、見るとリュークがトゥモローの盾の陰から、奴の首の付け根にグレイヴを突き立てている。

 このまま俺は死ぬのか?

 薄れる意識の中でマリの方を向くと、顔を下に向けて怯えるように頭を抱え込んでいる。

 その隣にはハタカが俺の方を指さしながら、何やらマリに叫んでいるようだった……。

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