第三十三話 森の動物たちの習性――狼《ウルフ》の場合
結局、その後も猫の集団には襲われ続け、トゥモローのレベルの高さに救われて危機に瀕することもなく10日が過ぎた。
その間、猫ばかりと戦っていたわけではないが、レベルは少々高い動物はいたものの特筆するような動物は出てこなかった。
俺たちのレベルも20まで上がった。
ハタカの作ったゲートをくぐってトゼフルの街から森の中へと入る。
東から登る太陽――“太陽”という名前ではないだろう――が、山脈に邪魔されることなく森の中に朝の光を差し込む。
この星に来て初めての光景だ。
トゼフルの街も含め、森を進む間ずっと、山脈に邪魔されて日が昇るところを見ることはなかった。
その光が森の出口の近さを物語っている。
リュークがスキル『マップ』を唱える。
スマホに地図が表示される。
「ここまでくると、狼がでるぞ」とトゥモローが言う。
「狼ですか」
「そうだ、狼だ。例のごとくボス級もいる。強靭さは熊なみ、素早さは猫なみだ。レベルも高く、キャットシーのように群れで襲ってくる気を付けろ」
それに遭遇するのに時間はかからなかった。
トゥモローの言うように群れで現れる、その数7。
「正面から7頭くるぞ」
リュークが『探索』スキルを使ってスマホの画面を確認しながら言う。
「数までは分からないですが、もう見えてます」
ハタカが言う。
全員、武器を構える。敵の力量が分からないのでスマホの電源を落として戦うようなことはしない。
「いざとなったら俺が手を出すからな。まあ、やってみろ。今のお前たちのレベルなら倒せない相手ではない」
トゥモローが言う。
距離にして約5メートルのところまで狼がやってくる。
「でかいな――」
俺の口から思わず声が漏れる。
大きな犬を想像していたが、それ以上だ。
普通に4つ足で立っているのに体高が俺の胸ぐらいまである。
頭を上げたらマリの身長と同じぐらいあるんじゃないだろうか。
「ショルダー。マリは回復に専念してくれ」
スキルを唱えつつ、マリに指示を出す。
「うん、わかった」
基本的にダメージは『ショルダー』を使用した俺に集中する。
時々シールドを貫通する攻撃によりダイレクトにダメージが入り、受けた本人が本当の傷を負う。
しかし、マリの魔法スキル『キュア』によってその傷もたちまち癒される。
俺のHPの方は、レベル5まで解放した『ヒール』でMaxまで回復してもらえる。
死ぬ要素はないと言っていい。
フォーメーションは俺を先頭に、リュークとトゥモローが俺の後ろで左右に分かれる。
さらにその後ろにマリ、ハタカの順で縦に並ぶ。
トゥモローは基本的には防御のみで、魔法職の盾になるために前にいる。
グルルルル。
狼が歯をむき出しにして涎をたらしつつ低く唸る。
ヴォウ!グゥオウ!
1頭が吠えるのをきっかけにして7頭が一斉に襲ってきた。
前衛で1人あたり2、3頭を担当する計算。
生命力にステータスポイントを割り振っており、防御力が高い俺やトゥモローはともかく、リュークは本当は前衛向きとは言えない。
そこのダメージが俺に大きくのしかかる。
ハタカはそれを考えて、リュークに群がる狼に魔法を集中させる。
『アイスレンジ』により3頭が凍り付く。
スキルのレベルを上げているので凍結時間が長くなっている。
もちろん、魔法攻撃力も高い。
俺は横を向いて、リュークの前で凍り付いている狼をハルバードを薙ぎ払うように横に振って2頭同時に攻撃する。
その間も、俺を狙う狼の攻撃が止むわけではない。
俺に貫通ダメージが入る。
防具の隙間に爪や牙が入ってくる。
システムの見えないシールドで多少抑えられているとはいえ、爪や牙で直接攻撃されているわけだから、正直、痛い。
トゥモローには敵の攻撃が貫通しないのはレベル差所以だろうか。
ハルバードの柄の部分で突きを入れ、噛み付いてきた狼を引き剥がす。
マリが『キュア』を唱える。
牙で噛まれ、爪で引っ掛かれた部分がフワっと温かいものに包まれたかと思うと、スーッと痛みが引いていく。
見ると完全に傷がなくなって血液だけが垂れている。
まさに魔法だ。
地球でこの『キュア』のスキルがあれば、教祖になれそうだ。
まあ、なりたくはないがな……。
トゥモローが手を出さないと分かったからか、そこの2頭に後ろに回られて、ハタカやマリを狙われたりしたが、なんとか7頭の討伐には成功した。
戦利品は、リュークの『盗む』により得られた“赤い眼”1つのみ。
トゥモローいわく魔獣使いへの転職キーアイテムらしい。
狼の力量も分かったところで、トゥモローがスマホの電源を落として戦うことになった。
武器はグレイヴに持ち換える。
システムに縛られないので職業は一切関係ない。
いろいろと便利なスキルが使えなくなるが、経験者を増やし実際の戦闘スキルを身につけるのが目的だ。
最終的には全員同時にスマホの電源を落とした状態にして、システムに縛られないパーティーで戦闘できるようにする。
その準備が終わったころ、すなわちリュークがスマホの電源を落としてハタカの開いたインベントリから武器を持ち換えたころ、後方、これまで進んできた道の方で人の悲鳴と狼の唸り声が聞こえた――。
「目標金額達成まで残り 998,542,330/1,000,000,000〔メル〕(ただし狼の素材未換金分は含まず)」
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