第三十話 猫族“キャットシー”
第二十九話の後半部分を改稿しています。
内容的には、コウがキャットシーから盗まれるお金について、細かい設定の変更をしたことにより、所持金全てを盗まれていないことになっています。
改稿前に読んでいただいた方はすみません、少しだけ戻って読んでみていただけると、話の内容に矛盾がなくなります。
今回は、説明回になってしまいました。くどい文章だなぁ。こういうのを減らせるともう少し面白くなるんだろうなぁ。
「ねぇ、コウさん。お金は全部現金化して皮袋に入れて持っていたの?」
街に戻ってすぐに、マリが聞いてきた。
「いや、そうじゃない。システムにも預けてある」
スマホを取り出して【獲得金】ボタンをタップする。
スマホには小さなウィンドウが出て所持金が表示され、それをマリに見せる。
=================
23,030/1,000,000,000
所持金額/目標金額〔メル〕
=================
「2万3千残った。取られたのは現金化して持っていた3万と、所持金から1,100……」
「つまりこういうことだ」
トゥモローが説明を始める。
「あのキャットシーは、この星の知的生命体の1種。ヒューマンや、これから会おうとしているドルフィーナよりは知的には多少劣るが……」
「それって、長くなりそうですか?出来れば、飯食いながらお願いできませんか?」
トゥモローが情報通なのは、流石といったところか。
まずは鍛冶屋に向かった。
素材の換金をして現金をつくるか、駅のATMで現金化しないと俺の夕食代、宿代が払えない。
皆がカンパしようかと提案してくれたが、とりあえず断った。
3万ぐらいすぐに取り戻せるだろう。
「おう、今日も来たな。今日は何か面白い物は獲れたか?」
「いや、特にこれと言ったものは。いつもと同じ獲物の素材です」
「なんだぁ、暗いな。どうした?」
「ケットシーにやられまして……」
「キャットシーか!?もう、そんなところまで行ったのか?相変わらず速ーな。で、何を盗まれたんだ?」
「皮袋です」
「そりゃ、災難だったな。財布は一番やられやすいからな。パンツとかに入れとかねぇとな」
「パン……ッ?」
マリが恥ずかしそうに言う。
昨日雑貨屋で見たが、この星の下着はどちらかと言うとふんどしに近い。
おそらく、システムがパンツと翻訳しているのだろう。
俺たちは、ツアー用に何枚か持ってきた物を、毎日洗って夜干して使っているが、そのうち雑貨屋に売っているあれを使わなければならない日もくるかもしれない。
素材の換金をしてもらい、一人あたり10,800を受け取る。
「皮袋はありませんか?」
「あるが、雑貨屋で買った方が安いぞ。ここに置いているのは雑貨屋から仕入れたものだから、マージンがのっかる」
「分かりました、ありがとう」
店を出ようとすると、オヤジが大声で呼びかける。
「キャットシーの素材が取れたら持ってきてくれ。高くで買わせてもらう。あいつの尻尾は4本あっていろいろな事に使えるんだ。何より丈夫だしな。需要が高い」
鍛冶屋を出て、俺たちは3軒隣の雑貨屋へ向かった。
「いらっしゃい、ああ、あんたらかい何にする?」
店の奥から女主人が顔を出す。
昨日ロープを買いに来たときは、もう少しつっけんどんな対応だったが、セイブの名前を出すと「話は聞いてるよ」と表情が変わった。
セイブ、こんな所まで話を通しておいてくれてありがとう。
「皮袋を……」
くださいという俺の言葉は、トゥモローによって発言を邪魔され、口から出すことは叶わなかった。
「長さ1メートル幅20センチメートルで布の生地を5枚売ってくれ。素材は丈夫なやつがいい。いくらになる?」
「何に使うんだい?」
「袋状にして、中に小物を入れて腰に巻き付けるんだ」
「わかったよ、その加工もしておくから後で取りにおいで。裁ち目がほつれないようにかがったりもしなきゃね。加工費も含めて1枚2,000〔メル〕だよ。それと、皮袋は1,000〔メル〕」
「さっき素材の換金で得たお金でほぼ支払える。俺が出そう」
トゥモローが言うのをハタカが制止する。
「いや、いつまでも甘えるわけにはいかない。この世界から抜け出すには、お金が一番重要でしょう。各自責任を持つ必要がある」
「言ったろう?俺はもう、すでに目標金額を達成しているんだ。俺がこの星に残る理由はお金にはない。言ってみれば、俺の目的達成のためにお前たちを利用しているんだ。目的達成に向けて効率よく事が進むのであれば、お金を出し惜しむことはしない」
トゥモローは俺の方を向いて続ける。
「なんだったら、コウが盗まれた分を肩代わりしてもいいぐらいだ。本人にもプライドがあってそれを許してはくれないだろうがな」
まあ、3万だからな。
これが100万や200万とかなら、プライドなんて捨てて、もらえるもんはもらうけどな。
なんてことを考えていると、ハタカとトゥモローの話は決着したようで、トゥモローが支払いを済ませた。
プライド云々《うんぬん》と言っていたが結局、皮袋の代金は払ってもらったことになる。
◇◇◇
「あのキャットシーは、この星の知的生命体の1種。ヒューマンや、これから会おうとしているドルフィーナよりは知的には多少劣るが……」
酒場で席に着いた途端、トゥモローが話を始めた。
自分の持つ情報を余程誰かに提供したいのだろう。
それなら、ボッタクリ情報屋なんてしてないで、安い値段で提供すれば良かったのに……などと考えてしまう。
リップオフと名乗っていたときに「おまけ」と称して追加情報を話していたのもこの性格からくるものなのだろう。
トゥモローの話はこうだった。
人族と比べると、知的には多少劣るが森の中に自分たちの巣穴を含めた村を作って生活している。
猫を従えて、猫族独自の言葉を操り、ちょっとした階級もあるって話だ。
猫から情報を集めて、森の中を行く冒険者を見つけると、集団で襲いに来る。
今日、川を渡るまでに猫がやたらと襲ってくる感じがしなかったか?
ああやって、冒険者の情報を集めてるんだ。
ときには武器を持って襲ってくる。
自分達で作る技術はないから全部が盗んだものだ。
質が悪いのは、勝てる相手ではないと判断すると物品を盗んで逃げちまうことだ。
コウが盗まれたのが財布だったのは不幸中の幸いだ。
携帯を盗まれてみろ、RPGシステムに守られなくなる。
もっとも、キャットシーぐらいなら、RPGシステムに縛られないこの星の住人の方がよっぽど強いけどな。
セイブがそうだっただろう?
でだ、その問題の『盗む』なんだが、RPGシステムにスキルとして認識されているんだ。
どういうことかと言うと、キャットシーが実際に物を盗む動作をすると、システムがそれを感知する。
そうすると、実際に物品を盗まれるのとは別に、システム上に実装されているアイテムやお金も盗まれたという処理をシステムがする。
具体的には、今回のコウのように実際にもっている皮袋を盗まれるのと同時に、システム上の所持金も盗まれたことになる、ということだ。
システム上の効果は、リュークが使用するスキル『盗む』と全く同じだ。
モンスターから得た転職キーアイテムや回復ポーションを盗まれることもあるぞ。
逆に、システム上に何も持っていなければ何も盗まれない。
お金を所持金として持たない方法か?あるぞ。
街にあるATM端末の【お預入れ】には2種類あってな。
所持金への【お預入れ】とATMへの【お預入れ】の2種類だ。
ATMへの【お預入れ】はプレイヤー同士のトレードにお金が利用できないこと以外にデメリットはないから、そっちの方がいいかもな。
この後、飯を食ったらATMに行こう。
キャットシーに盗まれるお金は、お互いのレベルが関係してくる。
盗まれる側のレベル×100とか、×1000とか。
コウが盗まれたのは、コウのレベル11×100という計算だったはずだ。
倍率が変わるのはキャットシーのレベルによってだ。
キャットシーのレベルが高いほど、盗まれる金額も高くなる。
面白いのは、キャットシーはジャックポットになり得るってことだ。
過去に、システム利用者、すなわち俺たち地球人から盗んだお金をずっと持ってるんだ。
きっとシステムが、盗んだ個体とそのお金を紐づけしてるんだろう。
キャットシーを倒すとそれまでに盗んだお金を全て吐き出すので、レベルの高いキャットシーを倒すとウン十万と稼げることが稀にある。
まあ、狙って出せるものじゃないから、そういう個体に遭遇できるかどうか運しだいだけどな。
キャットシーについてはまだいろいろとあるが、暫く奴らと付き合うことになるだろうから、その都度話すとしよう。
とりあえず、明日森に行く前にするべきことは、盗みの対策だ。
小物は携帯をのぞいて全てインベントリに入れておく。
現金化したお金はインベントリに入れておけば盗まれることはない。
携帯はさっき雑貨屋で仕立ててもらった腹巻に入れて腰に巻いておく。
鍛冶屋のオヤジが言っていたパンツの中でもいいが、ちょっと嫌だろう?
因みにインベントリに入れてしまうとシステムが機能しないからな。
それと、ハタカ。もしスキルポイントに余裕があれば、範囲魔法を覚えておくとキャットシーに当てやすいぞ。
「目標金額達成まで残り 999,966,170/1,000,000,000〔メル〕」
次話、キャットシーとの再戦闘になります。お楽しみに!