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第二十九話 ケットシー?

 歩き始めて3日目の終わり。

 森に入ってくる光が暗くなったなと感じ始めたころ、少し先の方で森が割れて明るくなっている部分が見えた。


「今日は、この川を渡ったところで終わりにするか」


 見ると、少し谷の深い川が進路をふさぐように東から西へと流れている。

 そこには、俺たちが歩いてきたすたれた道に続くように橋が掛けられている。

 もっとも、長い木を2本倒してたばねただけの今にも崩れ落ちそうな橋ではあるが。


「ロープを出してくれ」


 トゥモローに言われて、ハタカが『インベントリ』スキルを唱える。

 ハタカも慣れたもので、なるべく人に当たらないように別の方向を向いて大きな箱を広げた。


『インベントリ』の箱の中には今日の収穫品が入っている。

 猫5匹、蛇2匹、猪1頭、雌猪シーボア1頭。

 今日の猫は逃げずにどちらかというと、こちらに向かってくる感じがした。

 5匹というと1日の討伐上限数ギリギリだ。

 この星に着いた初日のように襲われたら、今はレベルも上がり余裕で倒せるが、討伐上限なんて言ってられなくなるだろう。


 ハタカは、鍛冶屋の近くにある雑貨屋で昨日買ったばかりのロープを箱の中から取り出す。


「クローズ!」


「ハタカ、川を渡る前に一度ここで『ゲート②』を記録しておいてくれ」

 トゥモローが言う。


「ゲート②・レコード」


「ゼフル大森林、w-31、n-38、ゲート②記録しました」


「ハタカにロープをくくりつけて向こう岸へ渡ってもらう。大丈夫だと思うが、もし橋が崩れ落ちたら全員で引っ張り上げるんだ。ハタカは向こう岸に着いたら『ゲート②』を開いてこの木の枝を『ゲート』の足元に引っ掛けておいてくれ。そうすれば『ゲート』は閉じなくなる」

 そう言って、トゥモローはちょっと太めの長い枝をハタカに手渡す。


「了解!」

 ハタカがうなずく。


『ゲート』を閉じないようにする方法があるとは知らなかった。

 こういう情報はトゥモローならではだな。

 リップオフ時代には高い金で売っていたんだろう。



 ロープは約30メートル。

 ハタカとは反対の端をこちら側の木の幹に結び付ける。


「準備はいいか?全員ロープをつかむんだ。よし、ハタカGOだ!」


 ハタカが慎重に橋を渡る。

 無事、渡り終えることができた。

 向こう岸でハタカが魔法印を結んでスキルを唱える。


「ゲート②・オープン」


 向こう岸とこちら側と同時に、楕円形だえんけいの鏡が現れる。

 ヒョコっと、ハタカが反対から差し込んだ枝が鏡の向こうから顔を出す。

 ゲートさえ開いていれば、両方向から通行が可能であることは実験済みだ。

 これで橋を渡らずに済む。


 こちら側で木に結んだロープをほどく。

 ハタカに合図を出すと、ロープを巻き取り始めた。

 それを確認して4人全員『ゲート』をくぐる。

 何とも不思議な感覚だ。

 さっきまで対岸にいたはずのハタカが目の前にいる。


 ハタカに結び付けたロープの端をほど……

「固っ」


 マリが『ゲート』の足元に引っ掛けた木の枝を取り除き、10秒ほどで鏡が消滅するのが目のはしうつった。

 ロープの結び目に苦戦していると、リュークが声をひそませて言う。


「あ、おい!猫が。猫が歩いてくるぞ!」


 そりゃあ、猫も歩いてくるだろう。

 ここは森の中だぞ。

 今日はやたらと襲ってくるな、今日最後の戦闘か?

 討伐上限数超えてしまうな。

 などと考えながらロープと格闘を続ける。


「ナイフで切ろう」


 トゥモローがリュークのアサシンダガーを借りてあっさり結び目のところを切ってしまった。

 仕方なくハタカと俺でロープを拾って巻き取ろうとすると、


「ロープの片付けは後回しだ。全員武器を構えろ」

 リュークにダガーを返しながらトゥモローが言った。


 猫なんて、そっちで片付けておいてくれればいいのに……。

 ハルバードを構えながら顔を上げると、猫が視界に入った。


 なるほど、確かに猫が歩いてきている。

 二足歩行で――。

 しかも、数匹のキャッツーを引き連れている。

 そいつらが、ゆっくりとこちらの様子をうかがいながら近づいてくる。


「なんだ、あいつは?」


「なんだ?って、猫だよ」

 トゥモローが答える。


「猫って、立って歩いてるじゃないか。ただの猫じゃないだろ!」


「キャットシーだ。キャッスリーの進化系だ。知能が高く独自の言葉を操る」


「ケットシー?」


「違う、キャットシーだ。川を越えたら出るのは分かっていたが、まさかこの帰ろうとするタイミングで出るとはな……。気を付けろ、財布や食料、水筒、身につけている小物をぬすまれるぞ」


 お互いに牽制しながら、じりじりと間合いを詰める。


「全員俺の周りに集まってくれ。ウォール」


 俺の周り半径2メートルのところに、薄い半透明の壁が立ち上がる。


「『ウォール』が有効なのは3分間だ。この間にケットシーの動きを見極めるぞ」


「ケットシーじゃない、キャットシーだ」


「どちらでもいいさ、トゥモローはギリギリまで手を出さないでくれ。初めて遭遇するモンスターだ。戦闘訓練を兼ねる」

 リュークが言う。


「OK、わかった。健闘を祈る。だが、くれぐれも奴の盗みには気を付けろ。できるなら、3分の間に決着をつけるんだ。それと、川を渡ってこっちのキャッツーはレベルも高いぞ、あなどるな」


「「「了解!」」」


 残念ながら、『ウォール』を唱えると俺は攻撃手段を失う。

 いかにの長いハルバードでも2メートル先の敵には届かない。

 完全に盾役に特化する。


「アイスブロック!」


 ハタカの氷魔法はキャットシーをかすめて後ろの木をこおらせた。


「外した!?速いなこいつ!」


 キャットシーはハタカを狙って攻撃を繰り出そうとするが壁にはばまれる。

 カィーンと乾いた音をたてる。


「これなら、どう?セイントアロー!」

 マリの光魔法。


 森の木の上、はるか上空から光の矢がキュインと音をたてながら屈折し飛び込んできて、キャットシーの体をつらぬく。


「マリの『セイントアロー』による攻撃。キャットシーにダメージ26」

 さすが光。


「ショートタイム!」

 マリが立て続けに魔法スキルを唱える。


「ハタカのスキル再使用時間短縮効果発動」


「マリさん、ありがとう。アイスブロック!」

 再び外れる。


 リュークが少し円からはみ出るようにキャッツーを狙う。


「リュークの攻撃。キャッツーにダメージ27」

 さっきまで一撃で倒していたキャッツーが倒れない。


 キャッツーが反撃を狙う。

 慌ててリュークは円の中へ。

 コィーンと乾いた音をたてて、キャッツーの攻撃がはじかれる。


「アイスブロック!」

 ハタカが三度唱える。


「ハタカの『アイスブロック』による攻撃。ダメージ45。キャットシーの体が凍結しました」

 やっと、当たった。


「リューク、今だ!」


 キャッツーに関わっていたリュークだったが、盗賊の素早さを生かしてキャットシーに向きなおり、ダガーで攻撃をしながらスキル『盗む』を発動させる。


「盗む!」


「リュークの攻撃。キャットシーにダメージ22。“素早さのひげ”を盗みました。キャットシーは瀕死ひんしの状態です」


「よし、もう少しだぞ!」

 リュークが鼓舞こぶするように叫ぶ。


「『ウォール』が解ける!ショルダー!」


 俺は、HPダメージ肩代わりスキルを唱えながら、全員の前に出る。

 同時に、凍結が解けたキャットシーがこちらを狙って飛び込んでくる。

 と思う間もなく、俺の体の周りをかすめて森の奥へと4()()()で逃げて行った。

 キャットシーを追いかけるように、お供のキャッツー達も森へ逃げる。

 それは一瞬の出来事だった。


「コウは所持金から1,100〔メル〕盗まれました」


「あ?くそっ」


所持金、ということはシステムに預けているお金ということだな?


「キャットシー達が逃げ出しました。戦闘が終了しました。獲得経験値0、獲得金0」

収穫なしかよ!


「コウ、お前、今何か盗まれなかったか?」

トゥモローが聞いてくる。


「え?はい。所持金を盗まれました」


「そうじゃねぇ、実際に物を盗まれなかったかって?」


「え?え!?」


 自分の体をまさぐる。スマホは……、ある!財布がわりの皮袋は……。


「あ゛~~、財布がない!あんのケットシーめ~~~!!」


「言っただろう、気を付けろって。それと、キャットシーだ」


「くっそ~、3万以上入ってたんだぞ!」


「他に取られてるものは無いか?携帯や水筒なんかも持っていかれるぞ?」


「スマホはある。水筒も……大丈夫だ」


 食料はもともと持っていない。


「さあ、また襲って来る前に街に戻るぞ。明日はキャットシーの対策を充分取ったうえでこの先に進む。いいな!――ハタカ頼む」


「ゲート②・レコード」


「ゼフル大森林中央部、w-31、n-38、ゲート②記録しました」


「ゲート①・オープン」




「目標金額達成まで残り 999,976,970/1,000,000,000〔メル〕」

いつも読んでくださってありがとうございます。

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