第二十八話 ゼフル大森林
いつも応援ありがとうございます。
私のイメージでは、ここから第二部の始まりです。
第四章のタイトルを変更しました。が、しっくりきていないため、さらに変更すると思います。
******以下、以前の前書きです******
第四章のタイトルは、今のところ(仮)にしています。
と、いいますのも、もともと第三章のタイトルに『機械獣』としていたのですが、内容が合わずに第三章のタイトルを変えました。この第四章のタイトルも変わるかもしれません。
内容的に、この章で機械獣が出るところまで進みたいと考えていますが、あまりに長くなるようならまた、考えます。
全体の話の流れの構想では、起承転結の「転」にあたる部分となる予定です。微妙に、「承」の内容が残っている感じは私自身もしていますが……。
「山脈に沿って北へ向かう。ゼフル大森林を抜けるのに半月はかかる。覚悟してくれ。街の周りの動物たちと違って襲ってくる物もいる。気を付けろ」
トゥモローが話す。
リップオフの時とは違って情報料を取らずに、出し惜しみすることなくすっかり話してくれる。
端から話してくれていれば、俺たちだけでなく他の人たちももう少し効率よく攻略できたのではないだろうか。
まあ、その人たちから搾り取った情報料から、恩恵を受けた身としては文句は言えないが……。
「コナートジフルまでは、どれぐらいかかりますか?」
俺は気になって尋ねる。
「1ヶ月弱だ。森を抜けさえすれば、後は楽だ」
「1ヶ月、そんなに……」
「当たり前だろう、大陸を横切るんだぞ」
「船は?船で行く方法はないんですか?」
「あるぞ、月に2便出ている。南側航路を通って往復で1ヶ月。片道16、17日かけてコナートジフルまで行ける。さらに先のリライシーンまで行って戻ってくるルートだ」
「船に乗りませんか?」
勝手に船に乗ることを提案したが、皆の顔を見ても否定する様子はない。
いや、リュークが少し微妙な顔をしているか……?
「お勧めはしないな。地球の良くできた船とは違うぞ、イメージできるか?中世ヨーロッパの時代の船だ。乗り心地を考えろ」
「ううっ」
リュークが呻くような声を出す。
もしかして、乗り物に酔いやすいタイプか?
「それにな、4日前に出たばかりだ。次の便は10日後。それだけ待って16日かけて行くんだ。合わせて26日。1ヶ月弱だ」
「歩いて行っても同じか……」
「まだある。歩くルートの方がレベルも上がるし、何より転職キーアイテムを出す奴がいる」
「歩いて行きましょう」
マリがリュークの顔を見ながら言う。
優しい子だな。もちろん、否定はしない。
1日目は順調だった。
あまり使われることはないのだろう、廃れた道が森の中を通っている。
手にした武器で草や枝を薙ぎ払いながら進んだ。
鹿、猫、猪、昨日までの3日間で戦ってきたような動物もいれば、ネズミみたいな小動物もいた。
とりあえず倒そうとするのだが基本的に逃げてしまうことも多く、結局倒せたのは、蛇3匹、鹿1頭、熊2頭だけ。
ボス鹿にも遭遇したがセイブから倒していいのは1頭までと言われていたので、追い立てて逃がした。
倒すことが目的ではなく前に進むことが目的だったからか、1日の収穫としては少なかった。
レベルの高いトゥモローがいたおかげか、戦闘自体は短時間かつ楽に終わらせることができた。
日も沈みかけで森の中に入ってくる光も少なくなり、前に進むことができなくなった。
「さあ、街にもどるか」
トゥモローが言う。
「ハタカ、頼む」
最年長のおっさんハタカにこんな話し方ができるのは、トゥモローぐらいだろう。
この世界では大先輩になるわけだし、当のハタカも気にしている様子もないので黙っておこう。
かく言う俺自身も、心の中ではおっさんやハタカ呼ばわりしているし……。
ハタカがスキル『ゲート』を唱える。
「ゲート②・レコード」
「ゼフル大森林、w-32、n-31、ゲート②記録しました」
システムから音声が流れる。
「ゲート①・オープン」
ゲート①でトゼフルの街に戻り、翌朝ゲート②を通って、この場所まで戻ってくればいいわけだ。
やっぱり便利なスキルだ。
俺も地球に戻る直前にウィザードに転職し直して、スキルを取ったら地球で使えたりしないだろうか?
『ゲート』をくぐり街に戻っただけで、どっと疲れが出てきた。
1日歩き通しだったのと、街に戻ってこられたという安心感からだろう。
これが1ヶ月間、毎日続くわけだ……。
まあ、街に戻って食事したり寝泊まりできるだけでも充分過ぎる、贅沢は言えない。
朝、別れを告げたはずのセイブと酒場で出会った。
なんとも気まずい。
「あんたら、コナートジフルに向かったんじゃなかったのか?」
「あ、いや、向かったんですが……」
どう説明しよう。
「そうか、これがあの『ゲート』とかっていう魔法の真価か?」
「そう、そうです!」
話が早い。
「仕組みは理解した。理解はしたが俺の気持ちはどうなる?」
「え?」
「朝、この星を頼むと言ったときの俺の気持ちを返せよ」
そう言われてはどうしようもない。
セイブはこの程度で済んだが、説明に困ったのは鍛冶屋のオヤジだった。
夕食が終わった時間が遅かったため、翌朝早く素材を売りに鍛冶屋へ向かった。
「おう、今日も早~な。あれ?昨日、出発したんじゃなかったのか?1日伸ばしたんだな?」
「え~と……」
いっその事、もうしばらくこの街に滞在すると言った方が早いように思える。
そう考えているうちに、トゥモローが答える。
「空間移動の魔法だ」
トゥモロ~~~、なに勝手に答えてるんだ!
説明しなくてはいけなくなったじゃないか!
「魔法?空間移動?どういうことだ?」
「今までも、そんな客いなかったか?別の街に行くといってた奴が2、3日後に顔をだしたりとか?」
「う~ん、いたかもしれねぇが、覚えちゃいねぇよ!で、空間移動ってのはどういうもんだい?」
「瞬時に別の地点へ移動することです」
トゥモローから質問への返答を受け継いで俺が答えた。
「んなことできるわけねぇだろ、仮にそれができたからといって、どうだっていうんだ?」
どうやら、オヤジには空間移動という概念が伝わらないらしい。
実際に空間移動で別の場所へ行ってもらうしか理解してもらう方法はないだろう。
「ハタカさん、『ゲート②』をお願いします」
「了~解!」
ハタカがいたずらっ子の顔をしたように見えたのは、気のせいだろうか?
両手で魔法印を結ぶのを見て、オヤジは何か感づいたのか怒鳴り始める。
「おいおいおいっ!また、この店の中で何か始める気か?」
「ゲート②・オープン」
オヤジの目の前の空間がグニャっと歪んだかと思うと、表面が波打つような縦に長い楕円形の鏡が現れる。
ハタカがオヤジの背中をトンと押す。
「おお、おわああぁぁ――」
鏡の向こうにオヤジが消える。
それをハタカが追う。
向こうで動物に襲われたら困るので、念のため俺たちも後を追ってゲートをくぐった。
「な、なんだここは?も、森?森の中?ゼフル大森林か?」
「正解です。トゼフルの街から丸一日歩いた地点です」
「どうやったんだ?どうやったらそんなことができる?」
「ですから、空間移動魔法ですって」
「だから!どうやれば空間とやらを移動できるんだ?」
「それは俺たちにも分かりません。異次元空間を利用してA地点とB地点をつないでいるんだと思いますが、詳しい理屈は分からないです」
「なんだ、イジゲンって?なんなんだ?」
「異次元、すなわち別の次元に存在するとされている空間ですよ」
「もっとわかりやすく説明できないのか?」
セイブは素直に、起きた事象だけを受け入れたのに、このオヤジは自分の中で理解できない事象は受け入れられないのだろうか?
もう、面倒だ。
元の街に戻ったら多少は理解してくれないだろうか?
「ハタカさん、『ゲート①』をお願いします。街に戻りましょう」
「ゲート①・オープン」
今度は森の中に鏡が現れる。
マリがオヤジの手を引きながら、リュークが背中を押して鏡をくぐる。
6人はトゼフルの街、駅前に戻ってきた。
「な、ここは?トゼフルの街に戻ってきたのか?お前ら、この俺を驚かせて面白いか?どうなっているんだ、その魔法とやらは?この間、店で開いた箱もそうだ。あれはいったいどうなっているんだ?」
軽くパニックに陥っている。
仕方ない、鍛冶屋まで連れて帰って少し落ち着かせよう……。
オヤジは鍛冶屋への道中も1人騒がしく叫んでいたが、店に戻って水を飲むと少し落ち着いたようだった。
「で、あの魔法で行ったり来たりできるから、街で飯食って夜寝たら、翌日もとの所から進めるってわけだな?」
「そうです。分かっていただけましたか?」
「分かった、どんな理屈かは知らんが実際に行って帰ってきたわけだからな。それにしても不思議な現象だな」
オヤジは、考え事をするような顔になる。
「素材、買い取ってもらえませんか?」
ハタカが聞く。
「ん?ああ、それで来たんだな?ということは、ゼフル大森林の深部の動物の素材も、そのうち持ってきてくれるんだな?」
「そういうことになる」
トゥモローが答える。
「楽しみにしているぞ、なかなか手に入らない物も多いんだ!よし、今日の分を買い取るぞ見せてみろ。いや昨日の分か?ま、どっちでもいい」
ハタカが店の外でインベントリを開いて持ってきたものを広げる。
「なんだ、こんなものか?1日歩いたんじゃないのか?」
「歩くことを優先したからな。戦闘は二の次だ。逃げるものは追わずだったから」
「なるほど。蛇3匹分、鹿1頭分、熊2頭分だな。全部で46,000だ。ほらよ。いい素材待ってるぜぇ、気つけてな」
鍛冶屋を後にした俺たちは、再び『ゲート②』を開いて森へ戻っていった。
「目標金額達成まで残り 999,943,100/1,000,000,000〔メル〕」