第二十六話 セイブとの別れ
“街を出る前にするべきことリスト”をトゥモローに見せた。
うう……、なんだかトゥモローは馴染めない。
明日真だからトゥモローなのだろうが、なんだかこっぱずかしい。
リップオフの方がしっくりくるのだが……。
まあ、そのうちに慣れるだろう。
①次に進むべき街の情報、最終ボスにつながりそうな情報の収集
②リュークの盗賊スキル『マップ』の取得と地図の確認
③【済】ウィザードの魔法スキル『ゲート』の仕様の確認と出口登録
④【済】転職キーアイテムの売却、トレード
⑤武器の調達
⑥サバイバル用品、道具の調達
⑦これから行く街に合わせた衣類、防寒具等の調達
「①については、やはり次はコナートジフルだろうな。②も合わせて考えよう。」
リュークの『マップ』スキルでそれぞれのスマホ画面に『マップ』を映しだした。
そういえば、トゥモローがここに来たとき、スマホは持っていたのだろうか?
10年も前だと、まだガラケーの時代だったのではないだろうか?
もの珍しそうに俺が見ていると、そのことに気付いたトゥモローがスマホ(?)を持ち上げて言う。
「これか?この星に来て3年目ぐらいにATM端末から支給された物だ。便利なもんだな、このスマホってのは。当時俺がここに来たときには、あのパカパカする携帯を使っていたんだ。それは壊れちまってな……」
何かを思い出すような遠い目をしている。
すぐに真剣な表情に戻って、地図を見ながらトゥモローはさっきの話の続きを再開する。
「コナートジフルまではゼフル大森林を抜けて、山脈を北から回っていく。機械獣に遭遇したのはここフロンザール地方だ。フロンザールに行くには、リライシーンでドルフィーナの協力を得て、海を越えて行くしかない。機械獣への対策が必要だろう。マニュファートのドワーフに聞けば何か良い情報を得られるかもしれない」
「とすると、進行方向はここから東に決まりですね」
「ああ、そうだ。南北カントゥール地方は、この際無視して構わないだろう」
トゥモローがハタカの方を向いて話を続ける。
「ハタカさん、あんた俺より年上だったんだな。ウィザードのスキルで『ゲート』を優先的に上げていってレベル4か、可能ならMaxの5にしてくれ」
「わかりました」
ハタカが答える。
う~ん、言葉遣い!立場が逆!ってつっこみたくなる。
「『ゲート』の利用法はこうだ。街から出る前に『ゲート』の出口Aを設置していく。街から街への移動の途中で、1日の終わりに一番進んだところで出口Bを設置する。Aを通って街にもどり宿をとって休む。翌朝Bを通って、もっとも進んだところまで戻る。そうすればリストの⑥、寝袋やテント、食材、調理器具は必要なくなる」
「「なるほど」」
全員がフンフンと頷いている。
「4つ、または5つある『ゲート』のうちの1つを街間の移動用として、残りは各街に置けばいい」
やはり、ウィザードの空間移動系魔法スキルは最強だった。
できればこの技術を地球にも持ち帰りたいぐらいだ。
もっとも、それは地球に戻れたらの話だが……。
「後は⑤と⑦だが、⑦はマニュファートへ行く直前、リライシーンを出るときでいいだろう」
トゥモローが全員の顔を確認しながら、さらに続ける。
「⑤の武器調達は今から行こう。テーブルに残ってるものをさっさと食って片付けちまうぞ。今夜一晩寝たら明日早く出発だ」
そう言いつつ、トゥモローは猪の骨付き肉を両手に2つ持ってガブリガブリと食べ始める。
その姿を見て、漫画かよ!って再びつっこみたくなる。
さらに、ふと疑問に思う。
「そういえば、素材はこの酒場でも買い取ってくれないのかな?」
誰に聞くでもなく俺は疑問を口にする。
それにセイブが答える。
「食材になる部分は買い取ってもらえる。二度手間になるから鍛冶屋でいつも一括して買い取ってもらうが、別々にした方が僅かだが儲けは上がる」
「僅かってどれぐらい?」
「1日の稼ぎで数千程度だ」
「めんぼーばから、かぎやでまどめでうるお」
口にボアの肉をほお張りながらトゥモローが話そうとする。
飲み込んでから喋れよ!っていうのは本日3度目、心の中でのつっこみ。
トゥモローが安い酒で流し込みながら、胸をドンドンしている。
「プハァ、面倒だから鍛冶屋でまとめて売るぞ!」
「プハァってCMかよ!」しまった、声に出てしまった……。
ん?とトゥモローが一瞬俺の方を向くが、それに答えるでもなく立ち上がる。
「さあ、行こう!」
「あ、待ってください」マリが止める。
「なんだ、まだ食ってんのか?」
「いいえ、セイブさんは多分これで最後でしょう?お別れ会とかは別にいいと思いますが、お礼ぐらい言わせてください」
「早くしろよ」トゥモローが静かに座り直す。
「セイブさん、ありがとうございました」
セイブの隣に座っていたマリが手を差し出す。
それをセイブが自然に握り返す。
へぇ、握手という習慣はこの星にもあるんだ!
俺はちょっとした感動を覚える。
テーブルに手をついて乗り出しながら、俺もセイブに向かって手を伸ばす。
「ありがとうございました。命まで助けてもらって」
セイブも手を伸ばす。
残りの2人もそれにならって手を伸ばした。
「セイブさん、今日の分の……」
俺が財布代わりの皮袋を開こうとすると、セイブが制止する。
「いやいい、餞別がわりだ。武具代にでもしてくれ。」
「わかりました。ありがとう」
そういって、立ち上がりながら頭を下げてもう一度お礼を言う。
「本当にありがとう」
3人も立ち上がり、セイブの方にゆっくりと頭を下げる。
3日だけの付き合いだったが、とても長い間一緒にいた気分だった。
生死を分けるような濃密な時間をすごしたからだろう。
「明日は何時だ?」セイブが聞く。
「5時と言いたいところだが、この季節だからな6時だ」トゥモローが答える。
「わかった。気をつけてな」
セイブがトゥモローではない俺たち4人の方を向いて言う。
ちょっとだけ、自分で書いておきながら少し目頭が熱くなるのを感じました。
同じように感じていただけたなら、嬉しいなと思います。