第十八話 森の動物たちの習性――猪《ボア》とボス熊《シールディベア》の場合
戦闘終了後の獲得金額を変更、目標金額達成までの残金を追記(2020年7月12日改稿)
「アイスブロック!」
ハタカの魔法が、猪の突進攻撃を止める。
指先から出た氷の塊が軽く曲線を描きながら誘導されて、猪のお尻の方に当たる。
スキルレベルが低いために3秒程しか凍結しないが、それでも猪の体が雪像のように一瞬に固まる様は、何とも形容しがたい感動を生む。
「ハタカの『アイスブロック』による攻撃。ダメージ23。ボアの体が凍結しました」
「盗む!」
その間隙をぬうように、リュークがスキルを発動させる。
「盗めませんでした」
それにシステムの音声が逐一答える。
まあ、そんな答えならいらないのだが、システムだから必ず行動の結果は返してくる。
雪像のごとく固まっていたのが嘘だったかのように、凍結の解けた猪が突進を再開する。
ハタカに向けて顎を突き上げるような態勢で突っ込んでくる。
すかさず俺が間に入って盾で受け止める。
ドォオオオーン!
鹿との戦闘の後、レベルアップによって得られたステータスポイントを生命力に全振りしたおかげか、ダメージはほぼ喰らわない。
「ボアの突き上げ攻撃、青銅の盾による防御。衝撃によるコウへのダメージ1」
猪は体勢を立て直し、鼻先をグリグリ振りながら俺たちから距離を取る。
3度目の突進攻撃へと入るべく前足で地面をかく。
猪が走りだした直後に、すでに魔法印を結んでいたハタカが「アイスブロック!」と唱える。
ハタカの氷系魔法はとても優秀で、多少の誘導もあって動いている猪にもきっちりと当たり動きを止める。
しかし、残念なことに、
「ハタカの『アイスブロック』による攻撃。ダメージ22。ボアを倒しました。獲得経験値9、獲得金45〔メル〕」集中力に極振りしたために魔法攻撃力が高くなってしまい、ただの足止めには使えなくなってしまった。
それでも、その魔法は対象が変われば、その有用性も変わる。
ボス熊では非常に優秀な結果を残した。
まさか、熊のボスに1日の内に2度も遭遇するとは思っていなかった。
鋭く長く尖った爪が片手に6本も伸びている。
俺たちの前に巨躯が立ちはだかる。
朝に、よくこれだけの物を倒せたなと思えるほどだ。
その巨躯を、腕全体を使って振り回しパワーショベルのように迫ってくる。
体が大きいという事は、すなわち的が大きいという事。
魔法は簡単に命中する。
「アイスブロック!」
「ハタカの『アイスブロック』による攻撃。ダメージ19。シールディベアの体が凍結しました」
黒いパワーショベルが一瞬にして雪男へと変わる。
すかさずセイブが左腕を狙ってグレイヴを突き出す。
腕は粉々になって落ちる。
同時にリュークもダガーで攻撃をしながらスキルを発動させる。
「盗む!」
「システム外の者による攻撃。左前足を損傷しダメージを負いました」
「リュークの攻撃。ダメージ4。“赤のミディポーション”を盗みました」
凍結が解ける。
ボス熊は間をおいてから左腕の損傷に気付き、のけ反る。
グゴォォォォォガア゛ァァァァァァァァ!
天を仰ぐような、口から炎の柱が立つのではないかと思えるほどの咆哮。
「凄まじい」リュークがポソリと言う。
リュークもそうなのだろう、凄まじいが恐怖は感じない。
それ程に、ハタカの氷系魔法の優秀さが俺たちに安心感を与えている。
いや、ハタカの氷系魔法だけでは、これ程までの安心感は得られないだろう。
氷系魔法の後の、セイブによる“システムに捉われない攻撃”が部位破壊を引き起こし、それが安心感へと繋がっているのだ。
ボス熊は怒り狂った顔をこちらに向け、再び咆哮する。
グガアァァァガアァァァァァァ!
通常なら、これだけで相手を震え上がらせて体が動かないようにする効果は充分にあるのだろう。
しかし、俺たちには逆効果だ。
ハタカのスキル再使用までのクールタイムを消費させるだけだ。
ついでにリュークのクールタイムも終了する。
ボス熊が攻撃態勢に入ったところで、ハタカが『アイスブロック』を唱える。
「ハタカの『アイスブロック』による攻撃。ダメージ17。シールディベアの体が凍結しました」
そして、セイブのコンボ。
今度は右腕を狙う。
もちろん、リュークもスキルを発動させる。
「盗む!」
「システム外の者による攻撃。右前足を損傷しダメージを負いました。残りHP半分」
「リュークの攻撃。ダメージ4。120〔メル〕を盗みました」
凍結が解ける。
ボス熊が三度咆哮す……。
グゴォ……。
間髪入れずに、セイブが心臓を貫く。
「システム外の者による攻撃。シールディベアを倒しました。獲得経験値27、獲得金150〔メル〕、獲得アイテム“六本目の爪”」
「レベルが8に上がりました。」
セイブは俺たちにとって、いなくては困る存在へとなっていた――。
「目標金額達成まで残り 999,998,840/1,000,000,000〔メル〕」
書き出すまでに時間がかかりましたが、書き出すとどんどんペンが進む進む(キーボードが走る?)。ちょっと、楽しかったです。楽しみながら書けたことが読者の皆様に伝わると良いなと思います。
しかし、反面マリの出番が……。次回はマリの活躍が書きたいなぁ、無理かなぁ(苦笑)