第十七話 スキル考察
裏設定としてスキルツリーをある程度完成させておこうと思ったのですが、思った以上に時間がかかりそうです。
俺のウィザードのスキル考察はまだまだ続く。
………………
これ、攻撃魔法に目が行きがちですが、地味に最強なのは移動系魔法ですね。
最強と言っても、強いという意味ではなく使えるという意味です。
時空間を操るといったら、青色の猫型ロボットが持っているドアやポケットを想像してもらえるとわかりやすいです。
この『ゲート』というスキルが、ピンクのドアそのものでしょう。
『インベントリ』はあの白いポケットですね。
RPG、すなわちロールプレイングゲームでは手荷物の扱いってかなり雑なんです。
超有名どころの2大RPGでさえ、武器や防具を5個、6個と持てたり、無制限に持てたりします。
もちろん、敵のドロップ品も同様です。
中には、“重量”という扱いで持ち運べる量を制限するゲームも結構ありますが、物の嵩に触れたRPGを見たことはありません。
わかりやすく言うと、今俺が背中に担いでいるボス鹿の角です。
これ、パーティーが5人いたからといって、持てるのは精々《せいぜい》1人2個、全部で10個まででしょう。
それ以外に、自分の武器、防具、その他の戦利品。
ハタカが手に持っている素材の入った皮袋を指差しながら言う。
それを持ちながら戦闘もしなくてはいけません。
見ていたと思いますが、さっき俺はこの角を地面にいったん置いて戦っていました。
それが、RPGというゲームの中だと“重量制限”に引っかからなければこんな嵩の高い角でも40個、50個と余裕で持ててしまう。
そのまま戦闘もできちゃいます。
RPGにおける手荷物の扱いってそんな感じです。
『インベントリ』は、それをこの現実世界で実現してしまうようなスキルなんです。
皮袋とか不要になりますよ。
すごくないですか?
俺はついつい熱弁してしまう。
RPGをプレイしたことのない3+1人は、そのスキルのすごさは理解できても俺の興奮している理由までは伝わらないらしく、そこに温度差を感じる。
仕方なく、俺は話を少し変えることにした。
攻撃魔法なら、この世界最強は氷系でしょうか。
魔法発動後、システム外の者による攻撃によって簡単に倒せてしまう可能性があります。
どういうことかと言うと、“生物の体内にある水分と大気中の水蒸気を瞬間的に超低温にし凍結させることで、生命活動を一時的に停止させる”これ、実際に凍らせるんだと思います。
生命活動を一時的に停止というのは、いわゆるコールドスリープの状態でしょうか。
そこに衝撃を加えるとどうなると思います?
液体窒素につけたバラの花びらが粉々になる映像を見たことがあると思いますが、要するにそういうことです。
ハタカさんが魔法をかけて、固まった直後にセイブさんが攻撃すれば瞬殺できます。
瞬殺は言い過ぎかな? ハンマーのようなもので殴るのが効率は良いでしょうが、グレイヴでも動物の手足ぐらいなら破壊できるでしょう。
残念ながら俺たち他の3人の攻撃では、システムがそれを許してくれないと思います。
魔法の効果によって動きが止まり、タコ殴りできるようになるだけで、それはHPを削るだけの仕様に変わりありません。
システムによる魔法効果と、システム外の攻撃によりコンボが生まれるということですね。
スキルツリーは、『魔法印』スキルから始まり、2つに分かれて、パッシブスキル『MP上昇』と『MP回復速度上昇』につながる。
この3つのスキルはウィザードに転職した時点でレベル1が解放されており、スキルポイントを割り振ることでレベル強化もできる。
ハタカは、俺のアドバイスに従い、移動系スキル『インベントリ』と、氷系スキル『アイスブロック』を1段階ずつ開放し、スキルポイントを1残した。
ハタカは、人差し指、中指の2本指を伸ばして両手でそれぞれピストルの形を作り、弓を引き絞るようなしぐさをする。
これが魔法スキル発動のための『魔法印』となる。
攻撃魔法スキルならその後、引き絞った弓の形で対象に狙いを定めて、
「アイスブロック!」と唱える。
そうすることで魔法が発動する。
ハタカの左手2本の指の先から氷の塊のようなものが多量に噴出し、前に立っている樹木に激突していく。
「「「「「おお~!」」」」」
セイブも驚いている。
現実世界でこんなことが可能だとは思いもよらなかった。
こうなってくると他の属性魔法も試したくなるが、スキルポイントには限りがあるので全ての魔法スキルを取得して試すのは難しいだろう。
今度は、同様の『魔法印』を結び、
「インベントリ」と唱える。
ハタカの目の前に小柄な宝箱が現れる。
思った以上に小さい。
箱の横幅はハタカの肩幅ぐらいしかない。
そう思いながら見ていると、ハタカが自分の素材が入った皮袋を無理やりねじ込もうと……ペコッと音がして、宝箱は皮袋が充分入る大きさに変形する。
「「「「「おお?」」」」」
さっきとは違う感嘆の声が皆からもれる。
早速俺は、担いでいた大角と手に持っている皮袋をハタカに預ける。
ハタカが大角を入れようとすると、ペコッと音がして宝箱が広がる。
皮袋を入れようとすると、ペコッと音がして宝箱が広――
「あ、危ない――!」
広がった宝箱とそこに立っていた樹木がぶつかって……、いやぶつかっていな……、いやぶつかっている?
どうなっているんだ?
どう表現すればよいのか、樹木にぶつかりそうになった宝箱が半透明になって樹木と重なっている。
気になって、その部分に手を触れてみた。
宝箱の実体がない。
その部分に入っているハタカが初めに入れた皮袋を取り出そうとするが掴むことができない。
「これ、人が立っていたらどうなるんでしょう?」俺が言うと、
「試してみろよ」リュークが答える。
「え?嫌だな」皆の顔を見ると、
「言い出しっぺじゃないですか?」とマリが返す。
俺がやる羽目になった。
宝箱の樹木と重なっていない反対側の角ギリギリの所に俺が立つ。
マリとリュークから皮袋を預かったハタカが宝箱に入れようとする。
ペコッペコッと宝箱が広がって、俺にぶつかりそうになる。
――っ、思わず目をつぶる。
痛くは……ない。
ゆっくりと右目を開けると宝箱が自分の足から腰の下付近まで半透明になって重なっている。
「うっわ、気持ちわりっ!」
思わず、飛び退る。
「ダサいな、おい。ビビりかよ」
軽く冗談のようにリュークが言う。
「リュークも試してみろよ」
俺が返す。
「どれどれ、いって!」
直前に俺が立っていた宝箱の角に、リュークが立とうとして股間をぶつける。
手を触れてみると宝箱に実体がある。
そこに入っている皮袋に手を伸ばすと、今度は掴むことができる。
なるほど、よくできているな。
何かにぶつかりそうになるとその部分だけ実体がなくなるが、いったん離れると実体が戻るようだ。
「クローズ!」とハタカが言うと宝箱が閉じて消滅する。
閉じるときは『魔法印』はいらないようだ。
「重さはどうですか?ハタカさん」
「まったく重くない。重さを感じない」
両足をピョコピョコ交互に動かしながらハタカが踊ってみせる。
意外とお茶目なところがあるんだな。
「フフッ」とマリが笑う。
お、可愛いと思うと同時にハタカに対してちょっと嫉妬心のようなものを感じてしまう。
「確かに、この『インベントリ』スキルは有用ですね。猫型ロボットが持つ白いポケットがあるようなもの。これは便利だ。地球に戻っても欲しい機能だなぁ。重い鞄を持って営業の周りをしなくて済む」
ハタカがしみじみと言う。
「どれぐらい入るのか容量は分かりませんが、スキルレベルを上げれば容量も上がるようですし、現時点の俺たちにはピッタリですね」
「そうだなぁ」これは、リューク
「あんたらの技術はすごいもんだな?どういう仕組みだ?」
さっきから見ていたセイブも驚いている。
「俺たちの技術ではありませんよ。この星“パスト”に初めに干渉してきた奴らの技術です」
「あんたらとは違うのか?」
「違います」
「どんな奴らだ?」
「俺たちも見たことはないんです。声だけで……。俺たち地球じ……ヨルホシビトですか?のことも良く知っているようでしたが……」
「あんたらの星も、この“パスト”のように、別の星から来た者に荒らされたりしているのか?」
「いいえ、たぶんそれはないと思います。かってに列車を駅に停められているぐらいだと思います。ただ、この先俺たちの星にも、地球と言うんですが、地球にも干渉してくる可能性は充分ありそうですが……」
「列車?あの、エキとやらに停まっている鉄でできた長い乗り物のことか?」
「そうです」
「そうか……。あんたらもどちらかいうと被害者なのかもしれないな」
「分かってもらえましたか。あの列車には希望して乗りましたが、この星に連れてこられることは知りませんでした。勝手に連れてこられたんです」