第十五話 森の動物たちの習性――鹿《ディア》の場合
コウのステータス、スキルレベルを一般民上限の3に変更しています。(改稿2020年6月13日)
戦闘終了後の獲得金額を変更(2020年7月12日改稿)
熊1頭を倒すのに10分かかった。
討伐数をなるべく増やさないように盗賊スキル『盗む』を繰り返し使用すると、どうしてもそうならざるをえない。
探索まで入れると20分近くかかった計算になる。
ただ、その探索時間は全てが無駄になるわけでもない。
スキル使用のために減ったMPが時間で回復していく。
通常のMMORPGよりもMPの時間回復速度は遅い。
しかし、敵を倒してから次の敵に遭遇するまでの探索時間も長いので、アイテムなどを使わずともMPはほぼ回復する。
俺たちも、次に鹿の群れに遭遇したころにはリュークのMPは完全に回復していた。
先頭を茂みをかき分けながら進んでいたセイブが、右手を後ろに回して俺たちの進行を静止し、ジェスチャーで前方に鹿がいることを知らせる。
見ると、5、6頭の鹿の群れがいる。
よく見ると、中に1頭ずいぶんと立派な、というより森を抜けるのに引っかかって邪魔になりそうな角を備えた鹿がいる。
セイブが小声で言う。
「ボス鹿だ」
「リューク、MPはどうだ?」
俺がきくとリュークがスマホの画面に目を通して答える。
「全回した」
「確実にキーアイテムを1個ゲットするために、まずはボス鹿からだな。うまく他の鹿が逃げなければ、リュークの『盗む』の出番だ」
ジェスチャー多め、声小さめで俺が言う。
「いや、鹿が先だ。仲間を攻撃されたボス鹿は、逃げることはしない。鹿を先に攻撃しタゲを取れたら、ボス鹿から倒して、残りの1頭をゆっくり『盗む』なり何なりすればいい」
同じくジェスチャー多め、声小さめでセイブが提案する。
「なるほど……」
「手前のこちらにお尻を向けている鹿からだな」
セイブが屈んで進み、グレイヴで後ろ足に切りつける。
キュイィィィ!と鹿が鳴く。
鹿ってそんな風に泣くんだ、知らなかった……。
「ディアとの戦闘になりました。すでに、右後ろ足を負傷しダメージを負っています」
直後、周りにいた鹿が4頭固まって茂みの奥に逃げてしまった。
残ったのは予想していた通り2頭、鹿とボス鹿だけ。
そのボス鹿がセイブと鹿の間に割って入り、頭を落として角を前に突き出すような格好で足を踏みならし始めた。
セイブからボス鹿のタゲを取るために、盾を角に叩きつける。
コーンと高い音が響く。
「コウの青銅の盾による攻撃。衝撃ダメージ3」
盾の攻撃でもダメージが入るのか!
音を合図に全員の総攻撃が始まる。
マリがボディにメイスを叩きつける。
ハタカは首筋を狙って突き刺す。
セイブはボス鹿の横から左後ろ足を切りつける。
セイブの攻撃によって、踏みならしができなくなり体が少し左に傾く。
セイブのダイレクトアタックには毎回助けられている。
リュークはダガーで攻撃しつつスキルを使用した。
「盗む!」
「リュークの攻撃。ダメージ9。“赤のポーション”を盗みました」
ん!?
今回の戦闘は新しい発見が多い。
確かにボスからはキーアイテムは盗めないと表記があったが、キーアイテム以外でも盗める物が存在するとは……。
ボス鹿が首を斜めに振って角で攻撃してくる。
それを構えた盾で防御する。
再びギィンと音が響く。
「ホーンディアの角攻撃、青銅の盾による防御。衝撃によるコウへのダメージ9」
熊の攻撃よりダメージが大きい。
さすが鹿のボス。
後ろ足を負傷して踏み込めない状態でさえこれだ。
セイブが今度は左前足を狙って切りつける。
ボス鹿はたまらず、ズシンと横倒しになる。
「システム外の者による攻撃。残りHP半分」
「よし、後はタコ殴りだ!」
ボス鹿が頭を振って角が届く範囲と、後ろ足で蹴られる範囲から離れ、横倒しになった背中の方からマリとハタカが殴る、突き刺す。
リュークは再びダガーで切りつけながら『盗む』にチャレンジ。
「盗む!」
「リュークの攻撃。ダメージ10。60〔メル〕を盗みました」
「ホーンディアを倒しました。獲得経験値16、獲得金90〔メル〕、獲得アイテム“五岐の角”」
「レベルが7に上がりました」
立て続けに、色々な情報がスマホの音声として流れる。
リュークの『盗む』が再び成功して〔メル〕を盗んだらしい。
転職キーアイテムの“五岐の角”は予定通り、ボスだから100%出る。
そして、4人ともレベルが上がったようだ。
細かい確認は後回しだ、雑魚が残っている。
足が負傷しているとはいえ逃げ出す可能性もある。
逃げないように5人で取り囲む。
タゲを取るために、鹿の横顔に盾を叩きつける。
「コウの青銅の盾による攻撃。衝撃ダメージ5」
しばらく待って、スキルのクールタイム終了後にリュークが『盗む』を繰り出す。
今度は、ダガーでの攻撃はしない。
鹿の横に立って背中に手を当てる。
「盗む!」
「盗めませんでした」
鹿が足を踏みならし、角を突き付けて攻撃してくる。
俺が盾で受ける。
「ディアの攻撃、青銅の盾による防御。コウへのダメージ0」
これなら耐えられる。
リュークの『盗む』が成功するのが先か、リュークのMPが尽きるのが先か。
俺が鹿の攻撃に耐え続け、リュークが9回目のスキルを使用したとき、スマホから待ち望んだ音声が聞こえてきた。
「盗む!」
「“五岐の角”を盗みました」
その後、鹿を倒したがドロップはしなかった。
どうやら、ドロップ率よりも盗む確率の方が高いらしい。
ただし、敵の攻撃に耐え続けなければならないし時間もかかる。
結局、2頭の鹿を倒すまでに20分以上かかった。
戦闘後――。
「“赤のポーション”って何ですか?」
ハタカがリュークに聞く。俺も気になっていたことだ。
スマホのアイテム欄を確認しながらリュークが話す。
「HPを回復する効果(小)。具現化できません。トレード可だって。コウ、トレードするから使いな」
「あ……、はい。ありがとう」
一瞬、リップオフにトレードしたら高くで売れないかと思ったが、死んでしまっては元も子もない。
素直に好意を受けることにする。
トレードで受け取った“赤のポーション”をアイテム欄から使用を選ぶ。
体から光が集まるように発光し一瞬で消える。
49まで減っていたHPが99に回復した。
その後、各自レベルが上がったことにより獲得したステータスポイントを割り振った。
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プレイヤー名 コウ 【変更】
レベル 7
EXP 111
職業 一般民
スキルレベル 3
HP 99/167
MP 11/11
力 10 △
生命力 15 △
素早さ 1 △
集中力 6 △
カリスマ 1 △
ステータスポイント 0
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読んでいただきありがとうございます。
次は、魔法です~。