第十四話 森の動物たちの習性――熊《ベア》の場合
更新遅くなりました。次は頑張ります!
「スキル使用の度に、動物に武器で攻撃しながら、または手で触れながら「盗む」と言う」
スキル『盗む』の説明を読みながら、リュークは
「ダサいな……」と呟く。
俺たちは昼食のために、例の酒場に来ていた。
「朝早くに呼び出したが、本当は、夜行性なのは鹿ぐらいで、猪も熊も昼行性なんだ」
鹿肉にナイフを入れながら、セイブが話す。
「どれも警戒心が高いから、人の少ないまだ暗いうちの方が良く活動している。だからといって昼にいないわけではない。森の中を静かに動けば猪にも熊にも、鹿にだって出会える。猪や鹿は群れでいることも多い。ただし、1匹を狙ったら他は逃げてしまうがな。あんたら、この後行ってみるか?」
「おお、そうだな。早く行こうぜ」
俺たち3人の顔を見ながら急かすようにリュークが言う。
心なしかリュークがそわそわしているように見える。
スキルの説明を読みながら、「ダサい」とボヤいていたリュークだったが、転職による素早さの補正や、スキル『盗む』がどれほどのものか試したくって仕方ないのだろう。
以外に子供っぽいところがあるんだなと、俺はマリとハタカの顔を見て笑う。
「討伐数の制限はないのですか?」
ハタカがきく。
「鹿にも制限がある。ただ、猫ほどじゃない。鹿は猫以上に逃げるのが速いからな、そこまで減っていないんだ。ボス鹿も1体なら倒してもいい」
「わかりました」
昼食を終わらせて早速森へと向かった。
静かに歩けば、というセイブの言葉通り、黙って話をせずに歩いているだけで熊に遭遇した。
すでにボスを含めて2体倒しているが、改めて見るとやはりでかい。
まだ4つ足の歩行状態でそう思う。
これが、戦闘に入ると高さは倍になるのだ。
システムによる見えないシールドがある、という事を知らなければ足が竦んで動けなくなりそうだ。
それを考えるとセイブはすごい。
臆することなく立ち向かっていく。
打ち合わせしたように、リュークが熊の後ろに素早く回り込む。
盾を持つ俺は皆の前に出る。
俺の後ろからセイブが熊の左前足をグレイヴで突く。
熊の標的をとり、後ろに回ったリュークに行かないようにする。
「ベアとの戦闘になりました。すでに、左前足を負傷しダメージを負っています」
酒場でセイブは熊について、こう話していた。
「熊は左手の方が力が強いことが多い。利き手いや、利き足があるのだろう」
その左前足をまず狙ったわけだ。
熊はお尻を前に突き出すようにスックと立ち上がる。
そのまま咆哮をあげ、怒りをあらわにする。
耳をつんざくような音だ。
直後、振り上げられた右前足がセイブに向かって振り下ろされる。
咄嗟に俺は盾で受ける。
ギィィンと、金属同士を打ち合わせたような高い音が響く。
この間、コンマ5秒。動きが速い! そして、重い!
「ぐっ」思わず、声が漏れる。
「ベアの攻撃、青銅の盾による防御。衝撃によるコウへのダメージ6」
続けてもう1撃。
今度は、下から突き上げるように。
盾を斜め下に向けて上半身の体重を預ける。
ギィィン。
さっきと同様に金属音が響く。
俺は軽くのけ反るが、態勢をすぐに戻す。
「ベアの攻撃、青銅の盾による防御。衝撃によるコウへのダメージ5」
熊の左前足はダランとしている。
右だけでこの速さと威力。
しかも、たぶん右は利き足じゃない方。
両足が使えるとどうなるんだ?
そして、咆哮。
グゴォアァァァ!
怒ってるなぁ、そりゃそうか。
熊の後ろから「盗む!」と聞こえてきた。
もちろんリュークの声だ。
確かにちょっとダサいかも……。
連続して「盗む」と聞こえてこないのは、スキル使用にクールタイムが設定されているからだ。
MPも消費するらしい。
リュークが盗めるまでスキルを使い続けることができれば良いが、そうもいかない。
俺は生命力を上げている分、防御力も高いが、それでも熊からはダメージを受ける。
ずっと戦い続けることはできないのだ。
ある程度ダメージを受けた段階で倒してしまわないと、こちらが死んでしまう。
再び熊の攻撃。
俺が盾を構える左腕の方向から振り下ろし攻撃。
2撃目、今度は左横から。
その都度、攻撃の方向に合わせて盾を構える。
ダメージにより少しずつHPが減る。
右前足もセイブの攻撃でやってしまえば良いと思うのだが、全身を使った噛み付き攻撃とどっちが良いかと聞かれたら、打ち合わせ通り右前足の攻撃を耐えるしかない。
何度目かの熊の攻撃で、俺がそろそろ限界だと思ったところで、総攻撃の合図を出す。
リュークは攻撃を加えながらの『盗む』に切り替える。
俺は熊の右前足側で盾を構えながら、ブロンズソードで突くように攻撃する。
マリとハタカは負傷している左前足側に回って、マリは殴り、ハタカは突き刺す。
こうすることで熊の胸が開いた状態になる。
そこへセイブの心臓への一突き。
俺たちの攻撃はHPを削る攻撃だ。
それと違ってセイブの攻撃は、言わば心臓へのダイレクトアタック。
リスクはあるが熊の隙さえ作れば初手から狙える攻撃だ。
俺の身長の2倍はあろうかという巨体が足から崩れ落ちる。
「ベアを倒しました。獲得経験値12、獲得金60〔メル〕」
「どうだ?」
3人の顔を順に見る、が3人とも首を横に振る。
「『盗む』も6回発動させたが駄目だった」
リュークが言う。
「ドロップ率も5%と低いし、『盗む』の確率も同じぐらい低いのかもしれないな」
スマホで確認すると、俺のHPは58/122まで減っていた。
次は鹿です。その次ぐらいでハタカの魔法が使えるようになるのではないかと……。