第十二話 転職クエスト
転職は次回に持ち越しです。
セイブのキャラがぶれたりしています。会話の言葉の使い方を一部修正しました(2020年6月21日)
目標金額達成までの残金を追記(2020年7月12日追記)
朝6時。セイブとは鍛冶屋の前で待ち合わせた。
以外にも、鍛冶屋は開いていた。
熱い中での作業のため、日中の気温が上がる時間を避けて朝の涼しいうちから仕事を始めるらしい。
「おはようございます!」
俺たちが鍛冶屋に入りながら挨拶をすると、
「おう、早~な。おはよう!」と、オヤジが返す。
そのままオヤジは、俺たちの後から入ってきたセイブと目で挨拶を交わしたようだった。
「本当は、槍がある方が楽だが、武器は慣れるのに時間がかかる。使い始めた武器はそのままの方が良いだろう。それよりも、防具を揃えろ、あんたら丸裸じゃないか」
昨日、森から逃げてきたときと同じようにセイブに怒られた。
もちろん、丸裸といっても服は着ている。
リュークしか防具を付けていないことを指摘されたのだ。
結局、俺はリュークから銅の胸当てを格安でトレードしてもらい、青銅の盾で防御を固める。
リュークは鉄の胸当て、ハタカとマリは銅の胸当てをそれぞれ購入した。
この世界では、武器や防具だけにお金を使う訳にはいかない。
生活に必要なお金を残さなければならないのだ。
宿代がかかるのはゲームの中でも同じだが、食事代や飲み物のお金も必要だ。
カルチャーショックだったのは、酒場や食堂で水を頼むとお金がかかることだった。
飲み水は貴重らしくボトル1本で180〔メル〕が相場だった。
肉がメインの料理をたのんでも500〔メル〕で食べられることを考えると、どれだけ貴重かが分かるだろう。
朝食は宿で済ませてきた。
この街の宿は、5時から朝食を食べさせてくれる。
みんな、夜が早い分だけ朝も早いようだ。
太陽が昇っていくのとは反対の方向――西というのか?――にある門を出て、森を目指す。
途中、岩の上に猫ではなく、蛇を見つけた。
どこからどう見ても蛇なのだが、尻尾の先にも小さな頭がある。
本来の頭と、尻尾の先の小さな頭、両方から蛇特有の舌をチロチロと出している。
咄嗟に、セイブが尻尾の先の頭をグレイヴで突き刺す。
同時にスマホから音声が聞こえる。
「シシュダとの戦闘になりました。すでに、システム外のダメージを受けています。残りHP半分」
シシュダと名の付く、その蛇は鎌首をもたげる。
「気をつけろ、こいつの攻撃は毒を喰らうぞ」
慌てて、俺は盾を掲げて前に出る。
ギィンと少し鈍いが高い音。
「シシュダの攻撃、青銅の盾による防御。コウへのダメージ0」
横からハタカがセイブとは反対の頭を突き刺す。
二人によって岩に磔にされた蛇を、リュークがまるで鰻をさばくかのように、ダガーを体にそって入れていく。
「リュークの急所攻撃。クリティカルダメージ18。シシュダを倒しました。獲得経験値4、獲得金30〔メル〕」
マリの出番はなかった。
と同時に、全員のスマホからファンファーレが鳴り響く。
「レベルが4に上がりました」
初めてレベルが上がったときには、少し感動も覚えたものだが、3度目ともなるとうんざりしてくる。
しかも、これまでと違ってセイブもいる。
何というか、少しはしゃぎ過ぎな感じがあって恥ずかしい。
「その音楽……。たしかレベルだか何だかが上がったときの音だな?」
「はい、そうです。レベル4になりました」
「レベル5になるとテンショクとやらができるんじゃないのか?」
「そうなんですか? 詳しいですね!」
「ああ、あんたらが来るようになってから長いからな。テンショクすると不思議な現象も起こせるようになるらしい。マホウとか言ったか?」
なるほど、ウィザードに転職した場合だな。
「ああ、そういえば……、思い出したぞ。何かキーアイテムが3個ずついるって言っていたな。昨日、ハタカが言っていた尻尾もそのうちの1つじゃないか?」
ありうるな。
「ハタカさん、昨日話したアイテム、何ていう名前でしたっけ? あの、尻尾の……」
「“三本目の尻尾”です」
「“三本目の尻尾”か……。なるほど、転職キーアイテムですね。もしかすると、職業によって異なるアイテムを集めなくてはいけないのかもしれないです。盗賊になるなら“三本目の尻尾”ってことかな。猫ボスを倒すと、100%出たりして……」
「それは、見逃せないな。“キャッ3”は数匹しか残っていない。本当は、1年に1、2匹“キャッ2”が“キャッ3”に成長するんだ。だからといって、許せる行為ではない。街の規則でもある」
セイブが即座に答える。
「わかってる。すまない。言ってみただけだ」
そうすると、困ったな。
盗賊に転職するのは難しくなるな。
未確認の情報であれこれ悩んでもしかたない。
とりあえず、俺たちは森を目指し、レベルを5にあげることにした。
森にはセイブの言うように、猫以外にも地球でよく見る――実際に見るわけではないが――動物がけっこういた。
しかし、そのどれもが地球の動物とは微妙に姿形が違う。
牙が多い猪。
爪のやたら長い熊、角が枝分かれし過ぎているぐらいの鹿。
双頭の蛇もいた。
その“双頭蛇”は蛇のボスらしく、倒すと“もう一つの胴”という具現化できないアイテムをドロップした。
止めを刺したマリの中にドロップしたらしい。
そして、いよいよ俺たちはレベル5に上がった。
恐らくこれからもレベルアップの度に聞かされるのだろう、うんざりするファンファーレの後にスマホから音声が流れる。
「レベルが5に上がりました。転職クエストが解禁されました。ホーム画面の【スキル】から進み、【転職】を選んでください」
なるほど、今までスキルウィンドウの中にはなかった【転職】ボタンが増えている。
徐に【転職】ボタンを押す。
果たして、そこにはいくつかの職業クエストが表示されていた。
試しに『戦士』を選ぶと新たなウィンドウが表示される。
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転職クエスト『戦士』
・必要ステータス値
力8、集中力5
・必要キーアイテム
“三対目の牙”を3個
ボーボアを倒すと100%の確率でドロップ
ボーボアからは盗めない
シーボア(メス) を倒すと2%の確率でドロップ
シーボア(メス) からは盗めない
ボアを倒すと5%の確率でドロップ
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ボアを倒すと5%の確率でドロップ。
100頭倒して5個。
20頭で1個だな。
ボーボアからは盗めない?
ボアは何も書かれていない。
ボアからは盗めるということか?
『盗む』というと、盗賊のスキルだな。
俺は、転職クエスト『戦士』のウィンドウを閉じ、『盗賊』を開く。
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転職クエスト『盗賊』
・必要ステータス値
素早さ8、集中力5
・必要キーアイテム
“三本目の尻尾”を3個
キャッ3を倒すと100%の確率でドロップ
キャッ3からは盗めない
キャッ2を倒すと2%の確率でドロップ
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やはりそうか。
ボス猫を倒すと100%手に入る。
ただの猫なら2%、すなわち100匹倒して2個。
50匹で1個だ。
そして、ボスからは盗めないが、雑魚からは盗めるということか……。
“三本目の尻尾”は運良く15匹で1個手に入ったが、後2個必要だ。
ボスは倒せないし、雑魚も100匹は倒させてもらえないだろう。
街の規則とやらに抵触する。
それにしても、わざわざドロップ率を表示するなんて、親切というか、まるで100匹頑張って倒しなさいよと言っているような――!
それが目的か?
俺たちに動物を絶滅させろと?
まさかな……。
そんなことをして何の意味がある?
他の職業も確認したが、同じような感じだった。
例えば、ウィザードは鹿から“五岐の角”を3個、プリーストは蛇から“もう一つの胴” を3個、シールドアーマーなら熊から“六本目の爪”を3個という具合だ。
「誰かが、盗賊になりさえすれば他のキーアイテムは盗めるようです。でも、その盗賊になるのが難しいですね。猫100匹はさすがにダメでしょう」
「盗賊なら俺がなろう。もともとそのつもりだ」
リュークが言う。
「ありがとうございます」
「では、“三本目の尻尾”はリュークさんにトレードしたらいいですか?」
「ハタカさん、リュークでいいですって……」
「そうですね、ハタカさんお願いします」
俺が答える。
「あと、2個いるんですね?う~ん」
「「「う~~~~~ん」」」
マリに続いて全員がうなる。
ここでセイブが起死回生、一発逆転の妙案をぶち込んでくる。
「トゼフルの街に住む地球人が持っていたりしないか?」
「「「「それだ(ね)!」」」」
4人が叫ぶ。が、4人ともすぐに、うかない顔になる。
みんな、考える事は同じだ。
なぜなら、リップオフの顔が思いうかんだからだ。
間違いなく持っているだろう。
そして、いくら吹っかけられるかわからない。
しかし、他に選択肢も無いので俺たちは街にもどることにした。
森を抜けるまでに、猫を2匹倒したが、やはり簡単には出ない。
また、熊ボス“シールディベア”にも遭遇した。
そいつの固さに驚いたが、RPGシステムに一切干渉することのないセイブが、グレイヴで心臓を一突きするとあっさり倒れた。
止めを刺したのはもちろん俺ではなかったが、“六本目の爪”は俺のところにドロップした。
熊ボスは倒して良いのかとセイブに聞くと、街を出たばかりのレベルが低い地球人には倒せる相手ではなく、乱獲もされていないので、という答えが返ってきた。
なるほど、確かに強かった。
獲得経験値も破格で熊ボスを倒した時点でレベルが6に上がった。
「目標金額達成まで残り 999,998,775/1,000,000,000〔メル〕」
次回、冒頭にリップオフが出てまいります。
どれだけ吹っ掛けてくるのか、こうご期待ください。
期待するほどのことではない?