第一話 始まってすぐ絶体絶命のピンチ
今流行りの、リアル脱出ゲームのパクリのようなタイトルですが、謎解き要素は一切ありません。
10億メル貯めるまで、あなた方は元の世界に戻ることはかないません。
ただし、戻るときには1メル=1円換算で貯めた分だけお渡しします。
悪い話ではないでしょう。
一つ注意をしていただきたいことがあります。
ここはあなた方が生活する世界と同じ時が流れています。
今もあなた方は生きています。
ここはゲームの中のような世界ですが死んではおしまいです。
命あっての物種、あなた方の世界ではそう言うでしょう?
こうして、俺たちの“死ぬことは許されないロールプレイングゲーム”が始まった。
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その世界で、俺たち4人は早くもピンチに陥っていた。
お互いがレベル3に上がったばかりだというのに、猫20匹と、猫型の大型モンスター1匹の計21匹に囲まれていたのだ。
退路を塞ぐように後ろに回り込んだその大型モンスターは、おそらくこの辺のボスだろう。
大型といっても猫を基準にしているので、大きく見えるだけだ。
少し大きめの豚ぐらいの大きさだった。
ただし、尻尾が3本もある。
もっとも、他の猫にも尻尾は2本ずつあるのだが……。
なぜ、こんなことになったのか。
それは、猫の習性と、この星に構築されたRPGシステムの落とし穴にあったのだ。
意外にも、この世界の最弱モンスター、すなわち“RPGシステム”に一番弱いモンスターとして設定されているのは猫だった。
情報屋にボッタクラれて、残ったなけなしのお金で俺たち4人は何とかそれぞれの武器だけは揃えた。
研修医“リューク”は防具まで揃えることができたが、それは目指す職業所以でもあった。
生き物の体に精通しているからという理由で、急所を狙って倒せる暗殺系を目指すらしい。
武器はダガー、防具は身軽なものを身につけた。
リュークは俺を含む3人に防具代を還元すると進言してくれたが、それは断った。
まず、自分の身を守れるようにしろという意見が3人の中で一致した。
初めて街から外に出たところで、まず気になることがあった。
モンスターは疎か、そもそも動く物がパッと見いない。
そこら辺を歩き回ってやっと見つけたのが猫だった。
さあ、戦闘だぞと身構えたのも束の間、なんと猫はスッと逃げ出したのだ。
「あ、マテッ」
思わず叫んだが遅かった。
「尻尾が2本ありましたね。その尻尾以外は、どこからどう見ても猫でしたね」
おっさん“ハタカ”は10以上も年下の俺たちに、丁寧語で話してくる。
営業職のサラリーマンって、そんなものなのか?
今は魔法職を目指して、手にはロングステッキを持っている。このロングステッキ、先が尖っていて突き刺すことで物理攻撃力もある。
「逃げたのは猫だから? でも嫌だな、あの子を倒さなきゃいけないの?」
こちらは、紅一点“マリ”。
女性でも、振り上げて打ち下ろすだけで、それなりに攻撃力の得られるメイスを手にしている。
通常のRPGなら、モンスターはそんなに簡単には逃げない。
プレイヤーを積極的に攻撃するようプログラムに組み込まれている。
某有名ゲームの中には、すぐ逃げるようプログラムされた金属のスライムが存在するが、それは飽くまでも例外だ。
しかし、この世界は違う。
もともと普通に生きているモンスター――というか動物――を、システム的に倒す対象としているだけなのだ。
人に襲われそうになったら逃げ出すのは至極当然の事のように思えた。
「これは、先行きが不安だな。たいていのモンスターは逃げるんじゃないのか?」
ブロンズソードを鞘に収めながら、俺“コウ”は言った。
2人で待ち伏せして、残りの2人で追いたてる。
4人で囲ったところをハタカのステッキで刺す。
素早さを上げたリュークが、RPGシステムのアシストを受けることで素早く動いて、短剣で急所を狙う。
マリが殴る。
マリが殴る。
マリが目を瞑って殴る。
よく、あれでヒットするなぁ。
1匹倒すのに30分近くもかかり、得られたお金はわずか25メルだった。
「この死体どうする?」
リュークが聞く。
こういう場合、ゲームなら死体は消えてアイテムが残ったりするのだが、やはりというか、この世界では死体は死体でしかない。
「一般民のスキルに『解体』というものがあります。スキルレベル2で取得できるみたいなので、そうしたら素材をはぎ取れるのではないかと……」
4人の中で唯一MMORPGに詳しい俺が伝える。
「レベルが上がるまでは、放置するしかないでしょうね」
繰り返し、猫を狩ることで徐々に効率よく倒せるようになったものの、3時間かけてやっと基本レベル3、スキルレベル2まで上がった。
『解体』スキルを取得して、いよいよ猫の死体に試してみる。
かまいたちのような真空の刃が縦横あらゆる方向に入って死体を切り裂いた。
後には、きれいに剥がされた皮、猫の尻尾2本、髭、爪、どうやったのか水分だけ飛んで凝固した血液、そして肉塊が残った。
「モンスターの死体は余す所なく素材となります。全てをお持ち帰りください。」と、街に住む商人が言っていた。
その商人から買い取った皮袋に全てを詰める。
「さて、レベルも上がったし、いったん街に戻りますか?」
俺が聞くと、
「いや、皮袋にまだ余裕があるから、もう1体倒さないか?」
リュークが答える。
3人はうなずいた。
10分歩き回って、やっと最後となる1体を見つけた。
「リュークさん、そっちお願いします。さっきの要領でハタカさんまで追い立てましょう。ここからなら、行けそうです」
「OK」
「あ、ヤバ、森に逃げられてし――」
「クッソ、追うぞ。コウ、2人に声かけて――」
「わかりました」
「――! どうしてこうなった?」
やたらと逃げる猫を追い立てていくと、猫の群れに囲まれていた。
それに、今まで見たこともない大型の猫モンスターに退路を断たれている。
今、思えば誘導されていたのに違いない。
猫を追いかけて森に入ったのが間違いだった。
4人で背中合わせになり、それぞれの武器を前に構える。
まさか、バトル漫画でよく見かけるシチュエーションを実演することになろうとは……。
「何体いる? 15体はいるな」
「20体です」ハタカが即座に答える。「あれはボスですか? あのボスと合わせて21です」
「あいつをヤレば、他はまた逃げ出すんじゃないか?」
「そう思います。俺がいきます。後ろ任せていいですか?」
俺は、ブロンズソードを掲げてボスの方を向き、一歩前に出る。
「マリ、ちゃんと目を開けて構えろよ」
「もう、大丈夫。さっきまでの戦闘で慣れた。この状況は大丈夫じゃないけど……」
4人の中心を軸にして回るようにフォーメーションを動かすと、それに合わせて猫達も外円を回るように動き、距離を詰めてくる。
同時にボスが一歩下がり20体の猫が前に出てくる。
「くっ、読まれてるぞ!」
「ボスも外円を回りながら動いてるので、塞がれていた退路は開けました。1点突破で逃げましょう」
「それしかないな、ハタカさんが出口の方に向いたら、ステッキを前に突き出しながら突破口を開いてください。マリは周りを殴って蹴散らす。後ろは俺とコウに任せろ!」
「「「了解!」」」
ハタカさんが出口の方に向いてステッキを突き出すのと、猫が一斉に飛び掛かってくるのが、ほぼ同時だった。
さっきまで1体を4人で囲って3回、4回と殴りつけて倒していたぐらいの敵だ。
直前にレベルが上がったとはいえ、1回殴っただけで倒せる相手ではない。
幸いだったのは、所詮は猫ということだ。
体が小さいので、1回殴れば後ろに弾き飛ばせる。
しかし、数の暴力には流石に勝てなかった。
5体は倒せただろうか……。
それでも、10体以上まだ残っている。
さらにボスは無傷。
こちらのHPは残り僅か、絶体絶命……。
こんなことになったのも、元々はあの怪しいツアーに参加したからだった。
この第一話の続きは第十話まで飛びます。多少話の流れが分からなくなる部分もありますが、第二話から第九話まで読み飛ばしてもらっても構いません。先を読んで面白かったら、戻って読んでみてください。
読んでくださって、ありがとうございます。
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