ラベンダー あなたを待っています
「先輩、まだかな…」
広い部屋は1人でいると
とても寂しい・・
静かな部屋に響くのは
刻々と過ぎる秒針の音だけ
「大学・・大変なんだろうな」
赤いリボンのついた
大事な鍵を握り締めて
外が赤く染まるのを見つめてた
コップに入ったミルクティーも
すっかり空っぽだった
「先輩…退屈だよ」
頬をテーブルに預けると
紫色の花が視界に触れた
「奇麗…」ラベンダー
唯一先輩の部屋に
置かれているお花
辺りはすっかり
薄暗くなってしまった
「先輩遅いね…」
ラベンダーの香りが
奈々(ナナ)の鼻をくすぐる
花の香りに奈々の瞼が
ゆっくりと閉じていった
しばらくして時計の音とともに
規則正しい寝息が聞こえてきた
―――――――
―ガチャ
[ただいま〜…奈々?]
外が暗くなってから
彼は帰ってきた
[奈々?…寝てるのか]テーブルに突っ伏して
寝ている奈々に
微かに頬を緩ませた
規則正しい吐息が静かに響く
[・・ごめんな]
奈々の隣に静かに座る
「ん〜・・せん…ぱい」
[奈々?]
「……」
瞳は閉じたままで
また寝息が聞こえてきた
[寝言か…]
[俺の夢見てんの?]
奈々の寝顔に自然と顔が綻ぶ
「ゆう・・きさん」
[…!]
「おかえり…なさ・・い」
奈々から寝言が紡がれる
[…それ反則]祐樹は自分の頬が
染まっていくのを感じながら
奈々の髪を掻き揚げると
白い頬にそっとキスをした
「んん・・?」
もぞもぞと動く奈々を見つめた
「…先・輩?」
眠い目を擦ると
祐樹の姿が瞳に映った
「あ・・おかえりなさい」
寝ぼけ眼のまま
小さく笑った
[ただいま]
ニッコリ笑って両手を広げると
奈々が奇麗に腕におさまった
祐樹の胸に顔を埋め
ぐりぐりと顔を押し付ける
[奈々?]呼びかけても反応しない奈々に
困ったように笑った
[・・寂しかったの?]
そう尋ねると
奈々は少し顔を離した
「…ずっと待ってたんだよ」
[うん、ごめんな]
祐樹は髪を優しく指に絡ませた
「私も・・この花も」
そう言って指差したのは
テーブルの上にたたずむ
ラベンダー
[あぁそうだな・・ごめんな]
頭を撫でると小さく頷いた
[さっきなんの夢見てたの?]
「え?さぁ・・覚えてないよ」奈々は小首を傾げた
[寝言…
俺に直接言ってほしいな]
「私!な、何て言ったの?!」
[俺のこと
ゆうきさんって言ってた]
「あ……」
その言葉を耳にした奈々は
みるみるうちに
赤く染まっていった
[ねぇ言ってほしいな]
「・・い、言えない」
腕に収まったままの奈々が
ぷるぷると首を振る
[夢の中の俺には言うのに?]
顔を覗き込む祐樹に
奈々は息を飲んだ
「ゆ、祐樹・・さん…?」[…なあに奈々?]
胸が苦しくなった
祐樹さんがとても…
穏やかな顔をしてたから
真っ赤な顔を両手で隠すと
祐樹さんが抱きしめてくれた
「(帰ってきてくれた)
おかえり・・
おかえりなさい,祐樹さん」
存在を確かめるように
背中に腕を回す
[ただいま奈々]
ふわりと淡く触れた唇は
とても優しくて…
[またミルクティー飲んでたな]
「甘いでしょ」ラベンダーの香りが漂うなかで
二人は笑いあった
――あなたを待っています――