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・・・昨日からフェイの様子が変わった気がする。

妙にフレンドリー感を醸し出しているんだが・・・


「あ、タクミ様!今日は何をするんですか?」

「「様」は止めてくれない?」

「駄目ですよ!私の雇い主なんですから!」

「・・・・あぁ、そう。・・・・今日は搾乳するんだけど」

「搾乳ですか!私も手伝って良いですか?」

「そうだなぁ・・・・人手が足りない訳じゃ無いが・・覚えてくれりゃ助かる」

「じゃぁ決まりですね!」


と、言う訳で2人で搾乳をする事となった。


「・・・・何ですか?これ・・」


その光景を見たフェイが唖然としている。

確かに初見じゃそうなるわな。

家の牧場は柵に丸太を「そのまま」使用し、多少の衝撃ではびくともしない仕様である。


「けど、結構な頻度で修繕が必要だったんだよね。最近はロボ達が頑張ってくれてるお蔭で、回数は減ってるけどさ」

「・・・嫌な予感しかしない」


彼女が何を言ってるのか判りませんね。

そうこうしている内に牛舎へ到着。

早速作業へ取り掛かろう。


「・・・・・ちょっと待って、待って待って・・」

「ん?何か?」

「・・・・・・・・何か?じゃなぁぁぁぁぁいぃぃぃぃ!!!」

「何だよ!?んな声張り上げて・・・」

「これ!コイツ!!『バーサクバイソン』でしょうが!!」

「・・・へぇ~、こいつ、そんな種類だったんだ」

「な、何・・をそんなのんきなことを・・」


===========


ノーネーム ♀ 

バーサクバイソン

レベル 61


-ステータス観覧不可-

-スキル観覧不可-

-タクミの従魔-


其の巨体に似合わない俊敏性を持つ。

頭部の角には『風の魔力』が濃縮されており、突撃の際『中級風魔法』相当の風撃を撒き散らす。

1度暴走を始めれば、全てを薙ぎ倒し、蹂躙するだろう。


===========


「こいつ一体で1つの町が消滅するわよ!!」

「もふっ?」

「え!?何その可愛い鳴き声!?ギャップが凄過ぎる!?!?」

「そう言われてもなぁ・・こいつ、めっちゃ大人しいし」

「それが判らないのよ・・こんな大人しい個体始めて見たわ」

「もふっ!」

「・・・ま、取り合えず搾るよ」

「あ、はい」




さて、コイツの搾乳だけれども、方法はほぼ牛と変わらない。

最初に刺激を与え、乳腺を活発にしてやる。

その後、最初に出て来る老廃物の混じった脂肪を全て出し切れば、準備は完了だ。


「何をそんな簡単そうに言ってるのよ!!」

「えぇ・・」

「何この乳首!下手な男の腕回りより太いわよ!」

「体がデカイからな」

「しかも硬!木の幹並みに硬!!」

「しっかり揉み解してな」


~~30分後~~


「ぜぇ・・はぁ・・こ、これで良いのね・・」

「ああ、これで『下準備』は終わりだな」

「もふっ!!」

「・・・これで・・下準備・・」

「俺だったら5分も掛からないんだけどなぁ」

「化けアンタと一緒にすんな!!!」

「えぇ・・」


・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・


「うわ、凄い色。それにえた匂いが・・」


桶に搾り出した最初の脂肪は黄ばみ、蝋の様に硬い。


「こいつは良い燃料になるんだよ。一旦溶かして不純物を取り除く、その後匂い消しのハーブを練り込んで使う」


脂肪が溜まった桶を一旦奥へと仕舞い、新しく壷を運ぶ。


「さて、ここからが本番。結構たっぷり出るからしっかりな」

「・・・・ハイ・・・」


俺の言葉通り、量はたっぷり5~60リットル位だ。

大体前世の乳牛の2倍位の量だろう。


「はぁ・・・はぁ・・はぁ・・・私、これからミルクを飲む時は農家の人に感謝しながら頂くわ・・」

「そりゃどうも。さて、じゃぁ・・」


その壷に綺麗な杓子しゃくしを入れ、搾りたてのミルクを取り出すと、2つのコップに注ぐ。

その片方をフェイへと差し出せば、彼女はおずおずと手に取った。


「ほら、農家ファーマーの特権だ」

「あ、ありがとう」


お互いにカチリとコップを合わせ一口、うん、相変わらず美味い。


「・・おいしい。え?なにこれ!?今まで飲んで来たミルクって何だったの!?」

「びっくりするよな、すげー濃厚なのに後口がスッキリしてて」

「口に残る後味・・あんまり好きじゃなかったんだけどこれなら幾らでも飲めちゃう!」

「お口に合って何より」


搾乳が終われば、次は加工である。


「んじゃな」

「もふっ!」


バイソンに別れを告げ、ミルクの入った壷と共に加工の為の作業場へと向かう。


「今回作るのはチーズだ」

「チーズ・・正直あの苦味が苦手なのよね・・」

「あぁ、確かに他のヤツはそうだろうな」

「・・他のヤツ?」


俺は昼飯用に持ってきた、所謂『セミハードタイプ』と呼ばれるチーズを切り出して薦める。


「・・・え?なにこれ・・・凄い濃厚!?しかも苦くない!?」


それを口にしたフェイが驚愕していた。

基本苦味の元になるのは、チーズを固める時に何の「凝乳酵素レンネット」を使うかによって変わる。

この凝乳酵素レンネットを使う事により、チーズはチーズとして固まるのだが、種類があるのだ。

前世の地球で一般的に使われているのは「バイオキモシン」と言われるモノ。

コレに関しては・・・現世で現状再現が不可能なので使用は諦めてる。

何故か?端折って言えば「科学技術万歳」だ。

美味しいチーズを普通に食える時代・・本当に感謝しましょう。

で、フェイが苦手・・と言ったチーズは微生物や植物を使った加工によるモノ。

前世では「微生物レンネット」や「植物レンネット」と呼ばれている。

これは異世界ここでも比較的簡単に手に入ったが、やはり苦味が出た。

そして、現世で品質を追求した場合、使う事になるのが「仔牛レンネット」。

だが入手するのは・・・恐ろしく困難なのだ。

何故か?「仔牛レンネット」は「生後10~30日の仔牛の第4胃から得られる」からだ。

現状、牛は労働力並びに搾乳の為に育てられている。

その貴重な労働力を「生後10~30日」に潰す奴は居ないし、そもそも「仔牛レンネット」なる存在すら知らないだろう。

仔牛を生存させつつ第4胃から得る技術も無い。

これこそが、俺のチーズ造りに置いて最大の難所だった。

そこからは試行錯誤の連続。

様々な物で試したが、今一成果は得られなかった。



そんな俺に有る日、1つの考えが浮かぶ。


「異世界なんだから、異世界特有の物質だって有るのでは?」


そうして試しに試し、とうとうソレを発見した・・したのだが。


(まさか・・オークの小腸だとは・・)


うん、凄く異世界っぽいよね。

因みにこの世界のオーク・・凄く不潔ってイメージが有る為、素材としても微妙な上、『どの部分でも口にすると病気になる』なんて定説が有る為・・今の所製法は(精神衛生上)極秘扱いである。


「何時か・・受け入れて貰えると良いなぁ・・」

「え?何か言った?」


チーズを美味しそうに頬張るフェイがキョトンとしている。


「・・・・知らないって・・幸せだよな」

「???」



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