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彼女は自らを「フェイ」と名乗った。
「実は・・・前に仕えていたお邸の旦那様が亡くなりまして・・私はお暇を出されてしまったのです」
「・・・へぇ」
「え?何ですかその反応!?」
「いや、その話しが本当だとして・・何でこんな僻地に居るのか甚だ疑問なんですが?」
「う゛っ!?・・・逃げて来たんです」
「ほう?」
「前の旦那様には借金が有りまして・・何故かそれを私が肩代わりする羽目に・・」
・・・本当の事とはどうしても思えない。
それに畑は今の所俺1人で如何にでもなってる。
人を雇う必要が無いのだが・・
「う~ん・・・給料とか、ほぼゼロですよ?」
「大丈夫です!ほとぼりが冷めるまでで良いんで!お願いします!!」
その余りにもの必死さに俺は折れ、住み込みと言う事で雇う事にした。
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何ともあっさり潜入に成功した私は、この男を抹殺する為にまずは観察をする事にした。
意味の判らない『ステータス』だとしても、隙は必ず発生する筈なのだ。
しっかり観察をし、弱点を見出すのが急務である。
1日目
先ずは奴の行動を把握する事から始めるとしよう。
目が覚めると奴の姿は既に無く、畑へと出かけた後だった。
私は直にメイド服へと着替え、奴の後を追う。
奴は直に見付かった。
畑仕事をしている。もしかしたら今この瞬間でも暗殺は可能かもしれな・・
ゾクリ
一瞬にして凄まじい殺気を四方八方から感じる!
けれど周囲を見回しても・・その相手を見つける事が出来ない。
一体何者!?私はすぐさま『鑑定眼』を一番強い殺気を醸し出していた方向へと発動させる!
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ロボ ♂
フォレストヘルハウンド
レベル 67
-ステータス観覧不可-
-スキル観覧不可-
-タクミの従魔-
森に住む大型の魔獣。
単体の戦闘力も凄まじいが、とても狡猾で群れを持つ。
森林適応能力が凄まじく、森で出会ったらまず助からないだろう。
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・・・・うん、私は何も見なかった。
取り合えず日中、いや、外で仕掛けるのは無理だと言う事が解っただけでも収穫だ。
2日目
外での暗殺を諦めた私は、奴の寝込みを襲う事にする。
幾ら奴でも、睡眠を取らない・・なんて事は無いだろう。
4日目
・・・今日で・・2日・・目。
不眠で見張っているにも拘らず・・奴は休息を・・取る・・気配すら・・見せ・・ない・・
5日目
思い切って奴に聞いて見た。
「あ~・・俺、不眠不休で1ヶ月は動けるみたいなんだわ」
私はそのままベットへとダイブした。
7日目
このままでは埒が明かない。
薬物を使用して何とかならないかと試す。
「夕飯を作りました(眠り薬その他入り)」
「あ、どうも。頂きます」
「・・・・あの?何でもありませんか?」
「ん?美味いですよ?」
「・・・・そうですか」
その後鑑定したら奴の抵抗が上昇していた。
どうやら並みの毒や薬ではもうどうしようも無いらしい。
ハハハ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「って言うかもうどうしろって言うのよ!!」
昼間、あの男が作業に出た後、私は森に入り溜まった鬱憤をそこいらにぶつける。
魅惑魔法?誘惑魔法?とっくに使ったわ!
効く訳無いじゃない!アイツの抵抗今1500位有るのよ!!
私の魔力の10倍以上よ!?10倍!!
(このままでは・・魔王様の悲願が叶えられない・・)
自らの不甲斐なさに涙が零れそうになった。
と、私の体に一瞬影が差す。
次の瞬間、私の目の前に大きな黒い鷲が存在していた。
私はすぐさま跪く。
するとその鷲は聞き慣れた声を発した。
『久しいな、フェルノース』
「ご足労させ申し訳有りません。魔王様」
『よい。・・して、成果は如何程だ?』
「はっ、現在『絶凶魔城』が所在する場所を占拠している男を排除中です」
『ふむ・・・』
「・・・・どうかなさいましたか?」
『フェルノース・・それは必要な事なのか?』
「え?」
『いや、『絶凶魔城』の存在を確認すると言う任務に置いて・・その男の排除は必要なのか?』
「・・・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・ハイヒツヨウデス」
『何だ今の間は!?お前もしかして!?』
「そそそそんなことあり、アリマセンヨ~」
『・・・・・まぁいい。吉報を期待して置く』
その言葉を最後に、黒い鷲は光に飲まれる影の如く風景に消えた。
私はソレを見届けると同時に悶絶する!
「ああああああ!!!やってしまったぁぁぁ!!!」
そもそも今回は「『絶凶魔城』の存在確認」任務、それが何で排除する事にシフトしてしまったのだろうか!
普通に接触し、情報を聞き出すだけでよかったじゃない!
相変わらず暴走して突っ走る自分のポンコツっぷりに自分の頭が痛くなった。
兎も角仕切り直しだ。
明日からはもう少しフランクに行こう。