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タクミが盗賊に絡まれる数週間前、王都内のとある場所に1人のメイドが居た。
時刻は深夜、様々な書類や情報を纏めた本などが綺麗に揃っており、目的のモノを探すのには打って付けだ。
既に防犯魔法も、装置も解除してある。
偽装も完璧。悠々と目的のモノを探していた。
(有った・・)
目的のモノを見つけると、手に取りページを捲る。
それは数百年も昔の口伝だ。
伝説の『魔王城』の存在を示す情報の1つ。
(やっと・・・やっと全ての情報を手に入れたわ!)
彼女は数十年前から『魔王城』情報を集めていた。
あらゆる場所、国、遺跡・・全てを回って。
全ては己が仕える主の為に。
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その魔王城、外壁は絶対の防御力を持つ。
その魔王城、内部は亜空間となり無限の広さを持つ。
その魔王城、無限の魔力を用い絶望の破壊を齎す。
故に、『絶凶魔城』と呼ばれ、恐れられた也
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その後、集めた情報を元にその魔城が眠る大地を割り出す事に成功する。
==その場所は聖王都から大分離れた辺境の・・地下深く==
(現在は・・・プラスキー・ヒーエル辺境伯爵が治める領地のさらに奥!山岳地帯に程近い、森に囲まれた場所!)
彼女は震えた。
これまでの苦労がやっと実るのだと!
・・・だが彼女は知らない。
今、その場所ではある人物が畑を耕し作物を作っている事を。
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「・・・いや、止めましょうよ。こんなガキの荷物盗っても美味しくありませんって」
「うるせぇ!とっとと寄越しやがれ!!」
如何にも盗賊とか、山賊風の格好をした人々に絡まれ、ゲンナリとしてしまう。
と言うか、何処の異世界でも盗賊が跋扈し、治安が悪い!
・・なんて事ばかりじゃないと思わないか?
実際、この世界では追いはぎ等の犯罪は少なかったりするらしい。
だってこんな僻地で追いはぎ盗賊なんざやって、捕まって犯罪奴隷(強制労働員)だの死刑になる位なら、そこいらのモンスター狩ってた方が金になる。
そもそも盗賊なんてのはもっと金の集まるデカイ町や都、そこへと到る道なんかで、金持ちを狙って行うべきである。
ハイリスク・ハイリターンで華々しく散るべきなのだ。
「うるせぇ!!!んなこと解ってんだよ!!」
「あ、声に出してた」
そんなやり取りをしていたその時、
ゴスッ!
ばきゃん!
不意に俺の頭へ衝撃が走る。
「「「「「「は?」」」」」」
そして俺以外の全員が呆けた顔をした。
(なんだ?)
衝撃を受けた所を手で摩ると、細かい破片が手に当たる。
振り返ると、刃が著しく欠けた手斧を持ち、固まってる男が居た。
「あ?もしかしなくても・・俺、手斧で殴られた?」
「ひっ!?」
何気なく聞いただけなのだが、手斧を持った男は酷く狼狽し顔色を失う。
それは周囲に感染し・・・
「「「「「バ、化け物ぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
全員が一斉に駆け出す。
「あ、ちょっと!?そっちは・・・!?」
俺は親切心からその後を追いかけ言葉を掛けようとした。
が、残念ながら間に合わなかった様だ。
「あれ!?」
男達の1人が間抜けな言葉を発した瞬間、男達全員の姿が消える。
「「「「「ぎゃああああぁぁぁぁ!!!!!」」」」」
この前の雨で崩れた大地が急勾配の崖となって口を開け、そこに男たちは残らず飲み込まれて行く。
「・・・帰ろ」
結局俺は余計な時間を取られた上、殴られ損をした事実にゲンナリとしながら再び帰路に着いた。
けれどソレを遠い場所から見ていた者が居た事なぞ、俺には気付く筈も無かった。
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森の奥には不釣合いなメイドの格好をした女性がナワナワと震えている。
紅い髪をしっかりと纏め上げ、闇夜でも怪しく映る金色の目を大きく見開く。
「な・・・何なの、アイツ!?」
整った顔立ちが驚愕の事態により歪んでいる。
唯の子供、しかも人間だ。
その大人の、しかも手斧で後頭部を殴られれば、普通は死ぬ。
先日、この領地に来てからも情報を集め、『絶凶魔城』の眠る場所は現在『ある人物』が所有している事を突き止める。
「タクミ」と言う人間の子供だ。
彼女的にはソノ程度の存在など如何でも良かったのだが、少しでもリスクを減らす為に動くのは当然の事だった。
月に1度の遠出に合わせつり橋を落とした。
万が一を考え、盗賊達を『魔法』で操りこの場所で待機もさせた。
そしてつり橋を通れずに引き返した所で亡き者にし、『つり橋からの転落事故』で死を装う心算で監視をしていた…
筈だったのに!?
渓谷を軽く飛び越えるわ!
殴った筈の斧の方が欠けるわ!
訳の解らない現象が立て続けに起こった。
(くっ!?あの人間に一体何が有るというの!?)
彼女は急いで自らの『特性技』を解放した。
彼女の『特性技』は『鑑定眼』
見るものの『ステータス』を覗き見る事が出来ると言うものだ。
この特性を活かし、彼女は組織で高い地位を得ていた。
(鑑定!)
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タクミ ♂ 14歳
加護 ----
レベル ----
筋力 1721⇒1774
体力 1562⇒1601
器用さ 1723⇒1788
俊敏性 1422⇒1479
知力 987⇒1002
魔力 1002⇒1029
抵抗 1284⇒1322
生命力 12009/12046⇒12201
精神力 10312/10230⇒10621
スキル【農業】
熟練度
開墾技術 MAX
伐採技術 MAX
作物育成 MAX
加工技術 MAX
交配技術 MAX
肥料作成 MAX
収穫の勘 MAX
家畜育成 MAX
家畜調教 MAX
解体 MAX
料理(初級 MAX
鍛冶(初級 MAX
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(・・・・・・・・・・・・)
暫くそのままの体勢で固まる。
「うん、私疲れてるんだ。疲れすぎてて幻影をみたんだね☆」
誰に言うでも無くそう呟き、再び『鑑定眼』を発動させる。
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タクミ ♂ 14歳
加護 ----
レベル ----
筋力 1774⇒1776
体力 1601⇒1603
器用さ 1788⇒1790
俊敏性 1479⇒1481
知力 1002⇒1003
魔力 1029⇒1031
抵抗 1322⇒1325
生命力 12009/12201⇒12205
精神力 10312/10621⇒10624
スキル・・・・・・
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「さっきより増えてるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
訳が判らなかった。
加護が無いのも、レベルが無いのもそうだが、何よりその『ステータス』の数値が異常過ぎて意味不明なのだ。
「ハッ!?まさか!私の『特性技』に異変が!?」
その可能性に気付き、彼女は慌てて先ほど崖の下へと落ちた男の1人へ『鑑定眼』を使う。
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モーブ ♂ 36歳
加護 頑丈
レベル 12
レベルボーナス
筋力 22+24
体力 41+22
器用さ 18+10
俊敏性 23+15
知力 12+8
魔力 10+7
抵抗 17+10
生命力 3/64
精神力 29/29
スキル【戦士】
熟練度
武器技能 4
防御技能 5
盾技能 3
クイックムーブ 3
技量上昇 4
重量軽減 4
パワーストライク 4
ダブルスラッシュ 4
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『鑑定眼』は正常・・
「・・・・・・・・」
その事実に彼女は白目を剥き、口から何かを洩らしながら体を硬直させつつ、暫く意識を飛ばすのであった。
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「あのぉ・・・」
「え?」
その娘が来たのは、品種改良中であるトウモロコシの手入れをしていた時だ。
何故かメイド服に身を包み、眼にも鮮やかな赤髪をアップポニーで纏めている。
傍目から見てもかなり整った顔立と身体つきで、前世だったらモデルとして通用するだろう。
澄んだ緑色の眼が此方を見遣っている。
「どうかしました?」
俺は作業の手を止め向き合う。
「お願いします!私を此処で働かせて下さい!」
「・・・は!?」
・・・・これが俺の日常を後にハチャメチャな物へと変えて行く1歩目だった・・
なんて思いもしなかったわ!!!
「酷い責任転換ですね!!」
「うっさい!」