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俺の目覚めは早い。
日の出と同時にベットから起きると、軽くストレッチをし服を着る。
今住んでいるのは畑に程近い、開けた草原だ。
そこにログハウスを建て、住んでいる。
この世界には『魔法』が存在し、火を起こすのも水を精製するのも魔法で出来る・・・
が、俺は『加護無し』の『能無し』なのでそれらは使えない。
まぁ出来ない事を嘆いても仕方が無いんで、ささっと準備を済まそう。
カマドに燃え易い雑技や乾燥させた草を放り込む。
その後原始時代の如く木同士を擦りつけ、摩擦で火を起こすのだ。
俺は太めの薪を2本手に取り、1本ずつ持つと擦りつける。
シュバッッ!!!
ボッ!!!
瞬時に薪が燃え上がる。
ソイツをカマドに入れ湯を沸かす。
それとは別に、桶を取り出し、水を張って顔を洗う。
「ふぅ」
タオルで水分を拭うと、再び桶へと目をやる。
そこに映るのは現在の俺だ。
髪の色はくすんだ茶色と言った所だろう。
1人で髪を切るのにも馴れ、現在は短髪である。
眼の色はファンタジー宜しく紫掛かった青。
顔立ちは・・・まぁ悪く無いがけっしけ滅茶苦茶イケメンでもない。
所謂「モブ顔」とでも言う所だろう。
その後仕度を整え、水を汲みに数キロ離れた山の源流へと瓶を持って行く。
家の瓶には大体50リットルは入る。
源流へは3回程度の往復が必要なのだが、手間ではない。
今は春先なので道も良く、2~30分程度で終わった。
沸いたお湯でパン粥を作り、フライパンでベーコンと取れたての卵、作った野菜の炒め物を作り味を確かめる。
「うん、良い出来だ」
1人で食べる分には十分な程の量が取れているが・・流石に塩は畑では出来ない。
なので今は町で売る為の野菜や果物も作っている訳だ。
前に居た村とは未だに交流が無い。
別に此方から関わるつもりも無いので如何でも良い。
家族やマリーからの連絡も無し。
上手くやってるんだろう。
食事を終えると皿を石鹸で洗い、午前の仕事に出る。
畑の規模は結構でかくなった。
どれ位と言えば・・一応見える範囲がそうだと言える。
山の上の気温が低い場所、洞窟の中、森の中等々・・
振り分け的には町に売る為の作物用が5割、畜産用の餌の為に作ってるのが3割、自分で食う分と実験や交配用の畑が1割ずつだ。
愛用の石作り農具と共にリュックを背負い今日も農業に勤しむのである。
(しかし・・・この石、全く壊れねーな)
ふと雑草を刈る手を止め、長年愛用している石農具の1つである鎌を見る。
偶々山の上へ行った時に見つけた洞窟に在った石だ。
真っ黒で硬く、鉄のナイフで叩いてもびくともしなかったので気に入り、石同士で叩き、磨いで作った無骨な農具である。
この石が何なのかは未だに判らないが、相当硬いと言う事だけは判る。
鎌の他にも、ナイフ、鉈、斧、鍬・・・等思いつく物は全て造った。
お蔭で開墾や森林伐採が捗ったのは言うまでも無いだろう。
午前中の仕事が終われば、家畜に餌を与える時間だ。
取り合えずサツマイモモドキと、売れない野菜を乱雑に切り、混ぜたものを与える。
家で飼っている畜産は合わせて20頭程だ。
牛・・なのかは良く判らないが、野生で暴れていた牛のようなえらくゴツイ生き物を捕獲し、乳牛として5頭程飼っている。
角の生えた猪・・モドキは食用として11頭、普通の鶏と大きさも凶暴さも段違いな鶏が4羽。
と言った所だ。
「ガウガウッ!」
「お、ロボ、お疲れさん」
そいつ等を見張っているのがこれまたデカイ・・・地球で言う所のライオンや虎より1回り程大きい狼だ。
4年程前に怪我をしていたこいつを保護してやった所、何故か懐き、今では俺の仕事を手伝ってくれている。
名前の由来は・・知っての通り、前世で有名な賢狼・・と言っても香辛料の方じゃ無い方だ。
「コイツは飯だ」
「ワゥン!」
此処に来る前に森へと入り、丁度居た鹿・・・モドキを仕留め、ソイツを丸ごとやれば尻尾を振りながら齧り付く。
俺はその様子を眺めながら、品種改良中の果物・・・今はグレープフルーツを真似て作っている柑橘を齧った。
(しかし・・・此処最近モドキが増えたな)
ソレが増え始めたのは3年程前からだ。
元々存在はしていたのだが、数は多くなかった筈なのだが・・
(そう言えば・・巷じゃ魔王が復活したとか何とか、噂になってたなぁ)
まぁ『勇者』なんて言うのが存在するのだから、そう言うのも居るんだろうなぁとは思って居たけど。
昼休みを終えると、午後は水をやる仕事だ。
水は飲料用ではないから近くの沢で十分なのだが、それでも何往復もしなくてはならない。
最近じゃ面倒になって水路でも引こうかな・・と画策中なのだが、まだ実行出来てない。
仕方が無いので水が100リットル位入る樽を、背中に背負えるように改造し、動物の腸をホース代わりに取り付けて水を撒く。
水撒きを終えれば時間的には15~6時位になる。
これでも体内時計は正確な方なのだ。
俺はもう一度森に入り、獲物を仕留めると、ロボの元へ向う。
夕方過ぎになると森に住むのであろう狼などがロボの元に集う。
一様にロボの前で伏せていたが、俺が来たのに気付くと、一斉に尻尾を振り歓迎してくれる。
「んじゃ、夜の警備宜しくな」
「「「「「「「アオオォォォーーーーーン」」」」」」」
食料を提供する代わりに、畑の夜間警備を委託する訳だ。
賢くて助かる。
そんな感じで夜を迎えると自宅に戻り、食品の加工や、品種改良の為のアレコレを始める。
そうこうしている内に夜は更け・・再び朝を迎えるのだ。
ん?俺が寝てないって?
あぁ確かに。
けど、今の俺はほぼ睡眠が必要なかったりする。
もっと言えば休息すらあまり必要としてない。
睡眠は1~2週間に3時間程度で済むし、休息にいたっては取らなくともぶっ続けで1ヶ月は動ける。
その秘密は・・俺の『ステータス』に有った。
この世界では『加護』や、ソレに伴う『レベル』と言う物が存在しているのは前に話したと思う。
だが、それとは別に、基本的な能力・・所謂『ステータス』も存在する。
こいつは任意で見ることが出来る。
どういう仕組みでそうなってるのかは判らないが・・・
因みに今の俺のステータスはこうだ。
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タクミ ♂ 14歳
加護 ----
レベル ----
筋力 1721
体力 1562
器用さ 1723
俊敏性 1422
知力 987
魔力 1002
抵抗 1284
生命力 11932/12046
精神力 10100/10230
スキル【農業】
熟練度
開墾技術 MAX
伐採技術 MAX
作物育成 MAX
加工技術 MAX
交配技術 MAX
肥料作成 MAX
収穫の勘 MAX
家畜育成 MAX
家畜調教 MAX
解体 MAX
料理(初級 MAX
鍛冶(初級 MAX
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コレが凄いのかどうかは良く判っていない。
比較の対象が無いからな。
ただ休み無しで働けてる以上、高いんだろうな・・とは思っている。
スキルの方は・・ほぼ休み無く作業を数年続けてたらこうなった。
お蔭で作業効率は凄まじい。
広い畑を1人で管理出来てるのも、スキルとステータスのお蔭だろう。
ふと、壁の簡易カレンダーを見れば日時に○が付いている。
「あ・・今日は出荷の日か」
月に1度、町へと向う日だ。