10 初依頼・中
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連続投稿十日目
アリエステルに言われて護衛依頼だけを受けて、ヘルプさんに幾つか質問することにする。
しかし、ヘルプさんのことをアリエステルに話して良いものかどうか。
さて、信頼を取るか情報の優位性を取るか。
いや、一人で思い悩んでても仕方がない。
「悪いちょっとトイレ借りていいか?」
「ええ、勿論、左手にある待合場所の奥にあります」
「ありがとう」
そう言ってトイレに急ぐように歩いていく。
トイレに入り一人になったところでヘルプさんを呼び出す。
「ヘルプさん聞きたいことがあるんだが、いいか?」
『はい』
よかった。
へそまげて答えてくれないとかなくて。
「とりあえず俺の技能の技能取得と技能封印ってどれくらいの人が持ってる?」
『現在この世界においてはフショウ様のみが取得している技能です』
「そうか、なら次の質問だ。
この技能がバレたらどうなる?」
『公にしてしまうと最悪処刑される場合があります』
「ですよね~」
人の技能を殺して奪う技能だ。
権力を持っている者は、間違いなく手に入れたがるだろう。
もし手に入らないのであれば脅威以外の何物でも無い。
ならばと誰にも手に入れられないように何より自分の不利益にならないように処刑台に送られる可能性があるのだ。
今、致命的なのは、技能取得の技能がばれることだ。
一つは、教会で技能を調べることを余儀なくされる状況になること。
こちらは、まだなんとか回避することはできるだろう。
問題なのはゲリラ鑑定だ。
俺みたいに何となく鑑定してくる奴がいるととても困ったことになる。
しかも気づかれないうちに知られるというのが取り分けヤバいだろう。
「技能を隠す方法ってあるか?」
『はい、隠蔽というものがあります』
「隠蔽を持っている魔物はこの近くにいるか?」
『いいえ、この町周辺には存在しておりません』
「そうか、じゃあ隠蔽以外で鑑定を防ぐ方法はあるか?」
『二つあります』
「なんだ?」
『一つはこちらから先に鑑定を持っている者を探します』
「もう一つは?」
『もう一つは、出会う端から殺していくと言う方法です』
「最後のは却下だ」
『はい、では、今現在できる対策としては鑑定を行っていくという方法が最適だと判断します』
「しかし、人が多くなると鑑定持ちを探すことをするなんてことはできないだろう?」
『マップの機能に検索というものがありますのでそちらから検索をかけて割り出すことができます』
「そんなが機能あったのか」
『はい』
「他に機能はあるのか?」
『アイテムや生物を見つけることができます』
「へえ、凄いな。
よし、それじゃあFランクをぱぱっとやって護衛もぱぱっと終わらせよう」
その前に
『メニュー』『マップ』『検索:鑑定』
いないな。
『メニュー』『クローズ』
とりあえずは、探し物を見つけるか。
……えっと、何を探すんだったっけ?
犬? 名前とかなんだったっけ?
……まあ、見に行けばいいか。
受付の前に戻るとアリエステルがいなかった。
「あれ?」
「あ、フショウ様、アリエステル様と入れ違いになったようですね」
「入れ違い?」
ギルド内で入れ違いなんて、……ああ、そういうことか。
間の悪い、って言っても俺が先か。
「ちょうどいいか」
「はい?」
「Fランク依頼のペットの名前を教えてほしいんだが」
「ええ、いいですよ。
と言っても書いてありますが、えっと、ムニエルちゃんですね」
「ムニエル、何ていうか美味しそうな名前だな」
「そうですか?」
「まあ、いいや、ありがとう」
「いえいえ、これも仕事の内ですから」
あれ、さっきのポイント稼ぎまだ引きずってる?
まあ、いいや小声で能力を発動させる。
『メニュー』『マップ』『検索:ムニエル』
するとマップが表示されて、赤い点が表示される。
この情報が正しければすぐにでもFランク依頼は達成できるな。
さて、問題はアリエステルを待つべきか否か。
「護衛依頼って集合は何時だ?」
「明日の朝方になります」
「わかった。 ありがとう」
余裕はあるか。
アリエステルに俺の能力の一部を知ってもらっといたほうがいいか?
情報は共有できるものはしておいたほうがいいのは確かだ。
ただ、この能力の情報は致命的になる可能性がある。
記憶が無くなった理由もわからないのだ。
あるいはこの能力のことを知っている人物が居るかもしれない。
そして、その人物が俺を狙っていないとは言い切れない。
「フショウ様? どうしたんですか?」
あ、考えている間に帰ってきた。
「とりあえずムニエルを探しに行こう」
「はい」
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町の外れ、おそらく貧民街と呼ぶに相応しい暗さを纏った場所に着いた。
入り口から見える人は皆ボロを纏っていて、人としての尊厳のかけらも持ち合わせてなさそうだ。
「フショウ様、ここは貧民街です。
近づかない方がいいですよ」
「でも俺の勘がこの先に居るって言ってるんだよな」
勘ではなくマップだが、しかし、貧民街に突入するには勘と言うのは少々弱いか?
貧民街は、犯罪に巻き込まれやすい場所だ。
貧民街に入って犯罪に巻き込まれても笑い話にされるだけだ。
そんな話を聞くと無法地帯のように思ってしまうが、一応まとめ役は居るだろう。
「では、それなりの準備はしましょう」
「準備って?」
「まず、盗まれるようなものは極力持ち込まない。
武器類は、しっかりと保持する。
顔を隠す。
とりあえずはこの三点でしょうか」
まあ、治安が悪い所にわざわざ価値がある物を持っていくのはアホのすることだろう。
武器は示威行為に使える。
多少は抑止力になるだろう。
そして、女性であるアリエステルは格好の獲物だ。
美人のアリエステルが狙われない訳がない。
なので、アリエステルは顔を隠す必要はあるだろう。
勿論、数に囲まれたらどんなに相手が弱くともやばいだろう。
そして、そんなことになり得るのが貧民街だろう。
その状況を切り抜けるための道具も用意しておいたほうがいいかもしれない。
「ひとまず相互組合専属店に向かいましょう」
このまま貧民街に突入するよりはある程度準備したほうがいいか。
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相互組合専属店、正式名称は冒険者相互扶助組合専属派遣店舗組合という少々混乱する名前だ。
この店は基本的に冒険者ギルドの隣にあるためギルドに付属している店だというのがわかりやすくなっている。
冒険者にとって必要なものを一通り揃えている店だ。
武器なども売ってはいるが、質は良くない。
あくまで間に合わせだ。
この店の最も良いところは冒険者の必需品の消耗品を買うことが出来るところだ。
どんなものがあるかと言えば、いろいろと言うしか無い。
それはもう、松明に始まり脚絆にピッキングツール果てはテントなんかも取り扱っているらしい。
「いらっしゃいませ!」
店内に入ると元気な声で店員の女性が出迎えてくれた。
店内には、いろいろな道具が飾られている。
「フード付きのローブを探しているのですが」
「はい、それはこちらになります」
そう言って服関係のコーナーに案内される。
そこには鎧からボロボロの明らかに浮浪者が着てそうなローブまで色々あった。
「なかなか揃えられてるな」
冒険者に必要そうなものがそこそこ取り揃えられている。
「そうでしょうね。
ここで売られている物の一部は所有者不明のものですから」
アリエステルの言葉に俺は首を傾げる。
「所有者不明?
それは、どういう意味なんだ?」
「わかりやすく言うなら所有者が死んだりして誰が所有者か分からないものがここで売られているってことです」
「それって、どうなんだ? 何か問題が起きたりしないのか?」
「いえ、むしろこうしないほうが問題が発生しますので」
俺は、アリエステルの言っていることが理解できなかった。
「所有者不明の商品が持ち込まれて、後でそれは俺のだとか言い始めるやつがいそうだが」
「勿論、そこら辺の調査はしっかりとしています。
少なくとも誰が持ち込んだかとかは控えてありますし、頻繁に持ってくる人は警戒対象となります」
「あ、メリアさんお久しぶりです」
「誰だ?」
唐突に話に入り込んできた女性にアリエステルが反応する。
思わず俺はその女性を睨んでしまう。
「これは、唐突で申し訳ありません。
この店の店長を勤めさせていただいております。
メリア・ラグリーズと申します」
慇懃に頭を下げるメリアさん。
「店長さんか。
よろしく頼む」
メリアさんは、アリエステルほどではないにせよ顔は整っている。
体も女性らしく出るところは出て締まるところは締まっている。
極端な容姿ではないが、体幹がしっかりしているところを見ると何かしらの訓練は受けていることは想像に難くはなかった。
「はい、よろしくおねがいします。
それで、先程の続きですが」
「えっと」
何の話だったっけ?
「この店に拾ったものを持ってこないのは基本的に疑惑の対象となりますのでこの店で売るのが一番なんですよ」
ああ、なんでわざわざ所有者不明の物を買い取っているかということだったな。
「所有者不明の物の中には、高貴な人物が落とした物などもあります。
そうした人物とどこの馬の骨ともしれない冒険者を会わせるわけにはいかないのでこういった形になったというのが一番大きい理由です。
他にも色々、ありますが、あまり愉快な話じゃなことや機密もありますのでこれ以上理由は話しませんが、予め言っておかなければいけないことがあります」
「はい」
「ギルドは、ギルドの看板に泥を塗るような事があれば王族であっても容赦はしません」
メリアさんの瞳に宿る焰に似た意思が見て取れた。
それで彼女が言った言葉が決して伊達や酔狂で言っているのではないということはよくわかった。
しかし、そんなことを言って大丈夫なのだろうか?
王族であってもって、不敬罪にならないのか?
「あら、つい熱くなってしまいました」
口元を抑えフフフと笑い声を漏らすメリアさんにゾクリとしたものを感じた。
「つい最近、不逞の輩が出たものですから。
しかし、ギルドに喧嘩を売るようなことをしない限りは大丈夫ですよ」
「全く、メリア、まだ落ち着かないの?」
「ええ、不肖ながら」
なんだか恐ろしいものを垣間見たような気がした。
「ところでお二方は、何をお探しでしょうか?」
先程の冷笑が嘘のように温かい笑顔になるメリアさん。
「ああ、貧民街に入るための準備をしに来たんだった」
「貧民街にですか? 失礼ですがなんの御用で?」
さっきの今だからメリアさんの視線が冷たく感じるよ……。
「ペット探しの依頼を受けて貧民街に入っているところを見かけたんだ」
とっさに適当なただし全くの嘘というわけではない言い訳を伝える。
「入って行くところをですか?」
「ああ、そんなところだ」
「そうでしたか。
失礼いたしました。
貧民街に向かうのであれば対人用の装備を整えるのが良さそうですね。
それならオススメの商品があります」
そう言ってメリアさんは、服掛けに掛けてある一つのボロローブを取った。
「こちらのローブは見た目とは裏腹に魔道具となっております。
性質は、魔力減退効果が付与されていて、魔法による攻撃を少し弱めてくれるらしいですよ」
見た目は本当にただのボロローブだ。
しかし、説明を聞くととても高価な装備品だと思える。
説明が嘘でなければだけど。
しかし、それこそさっきの今で、ギルド直営店らしいこの店に泥を塗るようなことはしないだろう。
それに知り合いであるアリエステルがいるんだから大丈夫……だよね?
そう思いながらアリエステルを見ると興味深そうにローブを見つめるアリエステルがいた。
「これは珍しい、蜘蛛の糸で編まれたローブですか。
それもかなり特殊な蜘蛛ですね」
「鑑定でデスペルスパイダーの糸で編まれているのがわかってます」
「それはすごいですね。
どうやって作ったんでしょうか?」
なんだかよくわからないが珍しいことには間違いなさそうだ。
けど、そんなに珍しい物でなくとも構わない。
寧ろ、意外に目敏い人物に目を付けられる可能性がある物はやめておいた方が良いような気がする。
「ローブはただのボロローブでいい」
「そうですか」
「どうせ買うならこれからも使える方がいいと思うのですが」
「どうせ性能の高い装備を買うならちゃんとした店で買ったほうが良くないか?
あくまでこの店の商品は間に合わせのような物って言ってたじゃないか」
「それもそうですね」
そして、俺とアリエステル二人のボロローブを購入した。
一着銅貨一枚と言う値段は高いのか安いのかよくわからないが、アリエステルが、納得している以上、ぼったくりではないだろう。
その後もいろいろあるのを見たが買った物は、煙玉とボロいランタン、そして、少し大きめの袋だ。
「その袋は、何に使うつもりなんですか?」
「犬を抱いて貧民街を歩くわけにはいかないだろう?
そのためにこの中に入れる。
怪しい行動をとった方が貧民街では不自然じゃないから目つけられにくいだろう?」
「いえ、貧民街に入るなら案内人がいない限りは、目を付けられますよ?」
「「え?」」
あれ、何でアリエステルまで驚いてるんだ?
「はあ、名のある人物に護衛してもらわない限り狙ってくださいと言っているようなものですよ」
メリアは、呆れたように溜息をついた。
「まあ、面倒ごとに巻き込まれるかどうかは、運次第ですが、案内人がいる方がいないのより面倒ごとに巻き込まれる可能性は低くなります」
案内人とか雇うと完全に足が出るんじゃないか?
まあ、最初の依頼だから採算は気にしていないとは言え極端な出費は抑えておきたい。
俺のお金じゃ無いんだけど、何故かアリエステル財布の紐が緩いように感じるから、俺が引き締めないとあっという間になくなりそうだ。
「まあ、何とかなるだろう。
けど一応煙玉もう二つぐらいは買っておこうか」
「それもそうですね」
って結局使わせちゃってるよ。
いや、これは、必用な物なのだから仕方が無い。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
「気をつけてくださいね」
メリアさんに手を振りギルドストアを後にしたのだった。