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ヴァンパイアの花嫁

作者: シュウ@広島

 その町は都会から車で一時間ほどかかる、昔ながらの暮らしの残る田舎町だ。

 この町にある少女が住んでいた。

 名前はケイト、生まれつき心臓が悪く医者からは二十歳まで生きられないと言われている。心臓の手術をするためには莫大な費用が必要で、いくら寄付を募っても到底、足りるはずもなく色々なボランティア団体に両親は連絡をとったがいまだに解決策は見つかっていない。

 ケイトは両親が口にしなくとも、薄々、感じていた。

 自分の命が長くない事を…。

 そうだ。いくら神に祈っても奇跡など起こらない。

 自分はもうすぐ死ぬのだ。そう思うと虚しく毎日が過ぎていくのだった。

 今日もケイトはベッドの上でただ時間が過ぎていくのだけを感じていた。

 時々、両親に言いたくなる。

 何故、自分だけが生きられないのかと。生きたい。私はもっと生きたい。そして、窓から見える景色の中を思いっきり走り回りたい。自由が欲しい。何処にでも行けて、何でもやりたい事の出来る人達が羨ましい。自分にも自由が欲しい。そう!自由に成りたい。

 ケイトは心の底から願っていた。誰でもいい。私をこの病気から解放して欲しい。自由を与えてくれるなら何でもいい。誰でもいい。私を自由にして!この世界に生まれてきた意味を教えて?私はなぜ生まれてきたの?ただ、病気で死ぬ為だけに生まれてきたの?何の為に私は生まれてきたの?苦しむ為だけなの?

 今日もケイトの頭の中は自分の存在意義について堂々巡りを繰り返していた。

 窓からは丘の上にある古い城が見える。

 石組は蔦で覆われ、屋根には穴があき、ただ朽ちていく。ケイトは自分と古い城を重ね合わせていた。

 あの城もかつては綺麗で栄えていたんだろうに。しかし、今は住む人もなく荒れ放題だ。自分もやがては死んでいくのだろう。誰にも知られずにこっそりと…。ケイトは自分と古い城が同じ仲間に思えた。


 そんなある日の事だ。

 ケイトがカーテンを開けて、窓の外を見ていると。城に沢山の車と職人らしき人達が集まり城の蔦を取ったり、屋根を修復したり城で何かしらの作業をしているようだ。誰か住むことになったんだろうか?まさか、あんな城に?ケイトは次第に綺麗に成っていく城を見てると、羨ましくなってきた。


「そう…。貴方は誰かに救われたのね。良かったわね!」


 ケイトはベッドの上で自分だけが取り残されたような気がして寂しくなった。何故、自分には救い主が現れないのだろうか?

 私にも誰でもいいから、救いの手を差しのべて!そう願った。

 母親のスーザンがお昼ご飯を持って部屋に入ってきた。

 ケイトは訊ねた。


「お母さん、お城に誰か住む人が現れたの?」

「そうみたいよ。何処かのお金持ちがお城を買ったらしいわ。」

「どんな人なのかなぁ?素敵な人だといいな。」

「分からないわよ。吸血鬼みたいな人かもよ?」


 スーザンは笑ったがケイトは笑わなかった。ただ、昼食を食べながらお城を見ていた。スーザンは娘の様子に少し戸惑いながらも昼食が終わると、部屋から出て行った。

 ケイトはお城に住むことになった人が王子様だといいなと儚い期待を抱いた。そんな事、あるわけないのにと思いながら。


 しばらくして、ケイトの住む田舎町はある噂で持ちきりになった。それは新しく城に住むことになった住人の事だった。

 その住人の容姿は長い黒髪に涼しげな瞳をした男性だというのだ。かなりの美貌の男性らしい。しかし、町にある商店に注文がくるときはいつも夕方で、荷物を届けるのは夜にしてくれと連絡が入るらしい。住人達は本当に吸血鬼なんでは?と興味本意で噂した。しかし、住人の女性達はそんな美貌の持ち主なら王子様だと憧れを抱いた。誰もが、新しい城の主に興味を持った。

 ケイトも母親に新しい城の主について、質問を繰り返していた。

 スーザンが凄い美貌の持ち主らしいと伝えるとケイトの表情は明るくなった。スーザンはそれが嬉しくて、町で新しい噂を聞くとケイトに報告した。いつしかケイトはまだ見ぬ城の主に憧れを抱くようになっていた。

 そんな一日も終わり、夜になった。

 ケイトは窓から見える、お城の景色にうっとりしていた。

 あそこには素敵な王子様が住んでいるのだ。いつか、自分も王子様に逢いたい。それが、今のケイトを支えていた。

 生まれてきて初めての感情だった。

 お城の主の事を考えると胸が熱くなり、頬が火照るのだった。

 ケイトはそれが初恋である事さえも知らずに、眠りについた。


 その夜の事だった。

 夜中に何かが窓をノックしているような音がしてケイトは目を覚ました。何だろうと思いながら、カーテンを開けて窓を開けた。

 その時だった!

 何かしらの黒い影が部屋の中に入ってきた。

 そして、それはむくむくと部屋の中で大きくなり、人の形になった。


「誰?誰なの?」


 ケイトは怯えた声で影に向かって言った。


「私はヴァルキリ伯爵。ヴァンパイアだ!」


 ケイトの暗い部屋の中で二つの赤い光が妖しく揺れていた。

 その影は、窓辺で月明かりに照らされているケイトに近づいてきた。

 ケイトは息をのんだ。

 すると、そこには黒髪で美しい青年が赤く目を光らせながら近づいて来ていた。

 ケイトはどきりとした。その青年の美しさは、テレビで観る俳優よりも色が青白く、口の中には大きな牙があった。

 ヴァルキリ伯爵がケイトの顎を右手で軽く掴むと顔をケイトに近づけてきた。

 ケイトはたまらなくなり、ヴァルキリ伯爵の頬を平手打ちにし、慌てて彼から離れると部屋のベッドの壁際で、ぬいぐるみを抱えて座りこんだ。


「何をするの!」


 するとヴァルキリ伯爵は驚いた顔をしていた。

 そして、ケイトに平手打ちされた頬を左手でなぞった。


「何故だ?何故、お前には私の魔眼が効かないのだ?」

「貴方は失礼よ!知らない女性にキスをしようとするなんて!」

「キスを?馬鹿な!何故、お前は平気なんだ?」


 そう言うとヴァルキリ伯爵はケイトをじっと見つめた。


「なるほど。お前は心臓が悪いのか。そして自分が永く生きられないと知っているのか。なるほど、死を覚悟している人間には私の魔眼は効かないな。」


 ケイトは顔を真っ赤にしていた。冷静に見れば凄い美貌の持ち主だ。ケイトは、はっと気がつくとヴァルキリ伯爵に質問をした。


「もしかして…。貴方はあのお城の王子様?」

「王子様だと?何の事だ?確かにあの城に住んではいるが…。」


 ケイトの中には今は恐怖心はなかった。憧れたお城の王子様が目の前にいるのだから…。


「貴方はヴァンパイアなの?」

「そうだ。」

「どうして、ここに?」

「若い女性の香りがしたからだ。」

「私の血を吸うの?」

「いや、止めておく。」

「どうして?」

「お前はもうすぐ神の前に召される。」


 ケイトは愕然とした。

 この男性はなんて残酷何だろうと。

 ケイトが一番恐れていた、死を目の前に突き付けたのだ。


「何故、泣くのだ?お前達、人間は神の前に召されるのが夢なのではないのか?」

「貴方は残酷な人です。」


 ケイトは溢れる涙を堪えきれなかった。口を手で覆い声を殺してわなわなと泣いた。


「わからんな?何故、泣くのだ?神の前に行きたいのだろう?」

「違うわ!神の前になんか行きたくないわ!貴方にわかる?生まれた時からずっとこの部屋で窓の外ばかり見て、いつか私も外に出たい。あの景色の中を走り回ってみたい。そう思いながら、明日、死ぬかもしれない。明後日、死ぬかもしれないとそればかり考えて生きてきた女の子の気持ちが!貴方は残酷な人!私の死を目の前に突き付けたのよ!ひどい!ひどいわ!あんまりよ!」


 ケイトは溢れる涙を堪えきれなかった。そうか、自分はもう永く生きられないのか。人並みの女の子のようにお洒落したり、恋をしたり、結婚したりする事もないままこのままここで死んでゆくのか。そう思うと堪らなかった。


「ふむ。なるほど。人並みの幸せか。永遠の時を生きる私には分からない感情だ。つまり、生きたいのか?」

「当たり前でしょ!私はまだ、何もしてないのよ。人並みの幸せさえ私には与えられてないわ。人並みの幸せを願うのは悪い事なの?贅沢な事なの?」

「ふむ…。」


 ヴァルキリ伯爵は考え込んでいた。そして、ケイトが驚く言葉を発した。


「どんな形でもいいから、生きたいのか?」

「そうよ!生きたいわ!私は生きたいのよ!」

「一つだけ方法がある。」

「え?今、なんて?」

「お前が生きられる方法がある。但し、今までよりかなり不自由になるが…。」

「どんな方法が?」

「それは、お前もヴァンパイアになる事だ。そうすればお前は永遠に生きられるぞ。」

「私がヴァンパイアに?」


 ケイトは戸惑った。まさか?自分がヴァンパイアになれば死ななくて済むのか?生きられるのか?ケイトの頭は混乱した。


「どうする?どんな方法でも生きたいというのなら、お前をヴァンパイアの花嫁にしてやる。しかし、不自由だぞ。昼間は外に出られないし、いつ心臓に白木の杭を打たれて殺されるかもしれん。十字架を恐れて生きなければならない。それでもいいか?」


 ケイトは戸惑った。まさか自分がヴァンパイアになる事で生きられるなど思いもよらなかった。ケイトは返事が出来ずにいた。

 するとヴァルキリ伯爵が言った。


「そなたの名前は?」

「ケイトです。」

「ケイト。三日後にまた来る。その時までに考えておけ。」


 そう言うとヴァルキリ伯爵は窓から去っていった。

 後には窓の外から吹き込む風がカーテンを揺らしていた。


 翌日、スーザンがケイトの部屋に入ると珍しくケイトは起きていた。そして、何か考え事をしていた。


「おはよう、ケイト。カーテンを開けるわね。」


 窓から優しく輝く太陽の光が差し込み、部屋のなかを照らしていた。しかし、ケイトの表情は真剣で、何かを思い詰めていた。


「どうしたの、ケイト?具合が悪いの?」


 スーザンはケイトが心配になり、ベッドに座りケイトの髪を優しく撫でた。


「ねえ、お母さん?」

「どうしたの?怖い夢でも見たの?」

「違うわ。ねぇお母さん。私ね、生きたいの。もっと生きたいのよ!」

「えぇ、そうね。神様にお祈りしましょう。あなたが長生き出来るようにね。」


 スーザンはケイトの額に優しくキスをした。


「お母さん。たとえどんな形でも私に生きていて欲しい?」

「当たり前でしょ!あなたを失ったら、どれ程悲しいかなんて想像出来ないわ!朝から変な事を言うのはやめてちょうだい!」

「そっかぁ…。どんな形でもかぁ…。」


 ケイトは何か吹っ切れたような表情になった。そして、明るく笑うと言った。


「お母さん。お腹が減ったわ。朝御飯は?」

「はいはい。いま支度するわ。待っててね。」


 スーザンはもう一度ケイトの額にキスをすると、朝食を作る為に部屋を出て行った。

 すると、今度は父親のマークがドアをノックして、部屋に入ってきた。


「おはよう、ケイト。具合はどうだい?」

「ありがとう、お父さん。今日は気分がいいわ!」

「それは良かった。愛してるよ、ケイト。」


 そう言うとマークもケイトの額にキスをして、部屋を出て行った。

 ケイトの瞳は強い意志がみなぎっている。どうやら何かを決断したらしい。

 しばらくするとスーザンが朝食をケイトの部屋に運んできた。ケイトは美味しそうにそれを食べながら言った。


「お母さん!私、頑張って生きるね!」

「えぇ、そうね。一緒に頑張りましょう。」


 スーザンは何故か明るいケイトの雰囲気に不思議な物を感じた。




 約束の三日目がきた。

 ケイトは窓の鍵を開けて、ヴァルキリ伯爵を待っていた。

 ケイトの心は決まっていた。例え、何があろうとも自分は生きたい。生きて今まで出来なかった事をしたい。人生を変えたい。

 その思いで一杯だった。

 窓に黒い影が浮かんだ。どうやらヴァルキリ伯爵が来たらしい。

 ケイトは窓を開けた。

 するとヴァルキリ伯爵が部屋の中に入ってきた。


「どうやら、決心がついたようだな?」

「はい!私は生きたいです。どんな人生になってもいい。貴方と共に生きます。」

「分かった。ケイト、お前を花嫁として迎えよう。後ろを向いてくれ。」

「あっはい」


 ケイトはヴァルキリ伯爵に背を向けた。するとヴァルキリ伯爵はケイトの肩を軽く抱くと、首筋に牙をたてた。

 不思議と痛くなかった。むしろケイトは人生で初めての恍惚感を覚えた。


「これでいい。さぁ行こう!」

「あの…。ヴァルキリ伯爵のお名前は?」

「キース!キース・ヴァルキリだ。」

「キース様。私をここから連れ出して!私に本当の自由を教えて下さい。」

「分かった。共に生きよう。私達二人の世界で!」


 キースはケイトの腰を抱き抱えると疾風のように走り始めた。

 そして、キースの住む城についた。

 城の中では、大勢の使用人達がキースとケイトを待っていた。


「お帰りなさいませ。ご主人様。」

「今夜は盛大な宴だ。この女性が私の花嫁となった。皆、よろしく頼むぞ!」

「ようこそいらっしゃいました。さぁ奥様!まずは着替えましょうか?」

「うむ。支度をしてやってくれ!」


 するとメイド達がケイトを案内した。

 部屋に入ると、沢山のドレスがケイトの目を引いた。


「奥様!まずは髪から整えましょう!」


 そう言うとメイド達がケイトの髪を優しく結い上げた。

 次にケイトは生まれて初めての化粧をしてもらった。ケイトは自分の顔に驚いた。そこには別人かと思われる素敵なレディがいた。次に下着を変えてもらい、ドレスに袖を通してケイトの支度は終わった。

 ケイトは生まれて初めての化粧をしてもらった事が嬉しくて、笑顔が溢れていた。こんなに高揚したのは生まれて初めての事だった。

 キースは気に入ってくれるだろうか?

 一抹の不安がケイトの頭の中をよぎった。


「奥様の入室です!」


 ドアを開けてもらい、ケイトはキースの前に立った。

 少し不安そうにケイトはキースの顔を見た。


「おぉ!素晴らしい!綺麗だよ、ケイト!」


 ケイトは生まれて初めて、綺麗だと褒められた。そこには自分に自信のなかったケイトではなく、レディの美しい自分を褒めてくれる王子様がいた。


「さぁ、奥様。どうぞ、こちらに。」


 ケイトはキースにエスコートされてテーブルに着いた。

 テーブルにはケイトが見た事がないご馳走が並んでいた。


「さぁ、宴の始まりだ!今夜は盛大に祝うぞ!」


 キースの声で、皆が楽しそうに踊り始めた。

 ケイトは人生で初めて、華やかな社交界の空気を味わい料理を平らげた。

 すると、キースが言った。


「一曲、ワルツを踊って頂けますか?奥様!」

「でも…。私は今までろくに運動もしたことなくて…。」

「大丈夫!私がエスコートするから!さぁ!」


 ケイトはキースに促されて、席を立つとキースの差し出した右手に自分の手をそっと置いた。

 その途端にキースはぐいっとケイトを抱き寄せるとぐるぐると回り始めた。


「キース様!もっとゆっくりお願いします!目が回るわ!」


 それでもケイトはキースのエスコートで楽しくワルツを踊った。

 楽しい時間はあっという間に過ぎた。

 外では鶏が鳴き始めた。


「いかん!すぐに地下室に行くぞ!ケイト!」

「キース様!どうされたのですか?」

「もう、お前は人間ではない。太陽の光は私達には禁物だ。急いで地下室へ!」


 そう言うとキースはケイトを強引に引っ張って地下室に連れていった。そして棺桶の蓋を開けた。


「おやすみ!我が妻よ!次の夜が来るまで眠るといい。」

「あっはい。おやすみなさいませ。キース様!」


 使用人達も次々と地下室に降りてきた。

 ケイトは生まれて初めての充足感を味わった。



 一方、ケイトの家では大変な騒ぎになっていた。体の悪い娘が部屋から消えたのだ。マークとスーザンは警察に連絡し娘が行方不明になったと告げた。すぐに警察が家に来て、色々と調べ始めた。

 町の人達も協力を申し出た。すぐに町中で捜索が始まった。

 町中で捜索をしたが、見つからない。警察や町の人達も諦めかけたその時だった。

 警察がマークとスーザンに訊ねた。


「後、探してないのは何処でしょうか?」


 マークとスーザンは顔を見合わせて言った。


「後、探してないのはあのお城でしょうか。」

「なるほど。探しに行きましょう!」


 警察と町の人達も加わり、皆がお城に向かった。

 警察がお城の呼び鈴を押したが、返事がない。警察は強引に中に入った。


「ヴァルキリさん。いらっしゃいませんか?ヴァルキリ伯爵?」


 中は暗くて、よく見えなかった。警察は懐中電灯をつけた。

 そこには食事の後が残っていた。

 皆で手分けをして、一階から全ての部屋を探したが誰もいない。

 後、残されたのは地下室だけだった。

 皆は警察官を先頭に地下室に向かった。

 そこで、警察官も町の人達も異様な光景を見た。

 地下室には沢山の棺桶が並んでいた。警察は一つ一つ棺桶を開けると中を確かめた。なかなかケイトには辿り着けなかった。

 しかし、一番奥の部屋にある棺桶を開けるとそこにはヴァルキリ伯爵が眠っていた。そして、その横の棺桶を開けると、ケイトが

 綺麗にお化粧をして、ドレスを着たまま眠っていた。

 マークとスーザンが叫んだ。


「ケイト!あなたこんなとこで何をしてるの!」

「くそっ!ヴァルキリが娘を拐ったんだな!」


 するとキースが目を覚ました。

 目は真っ赤に燃えるような色をしていた。魔眼だ。警察はそれを見て動けなくなった。町の人達も同じだった。

 キースが言った。


「我が眠りを妨げる、不埒な人間どもめ!地獄に落としてやろうか!」


 キースはそう言うと立ち上がった。キースは背が高く、警察官や町の人達を見下ろした。すると警察官が銃を発泡した。


「馬鹿目!そんな物が効くか!」


 キースは長く伸びた鋭い爪で町の人達や警察官の喉を掻き切って回った。地下室の中はパニック状態になり、町の人達は逃げ出し始めた。


「逃がさんぞ!虫けらどもが!」


 キースが一人の人間の喉を掻き切った時だった。後ろからどすっという音がしてキースの心臓を鉄の杭が貫いた。

 マークがキースの隙を見て、鉄の杭を刺したのだ。


「ぎゃあぁぁぁぁ!」


 キースはみるみる間に骨と皮だけになった。

 スーザンは急いでケイトの元に向かった。


「ケイト!ケイト!起きて!目を覚まして!ケイト!」


 するとケイトが眠そうに目を覚ました。


「ケイト!無事だったのね!ケイト!良かった!」


 マークもケイトに近寄ってきた。


「ケイト!私だよ!分かるか?」


 ケイトは眠そうに周りを見渡すと、キースの姿を探した。


「キース様は?」

「あぁ!私がヴァンパイアを退治したよ!一緒に帰ろう!ケイト!」


 するとケイトは骨と皮だけになったキースを見て、悲鳴を上げた。


「落ち着け!ケイト!もう大丈夫だよ!奴は退治したよ!」


 ケイトはキースの骨と皮だけになった物を抱き締め泣き始めた。


「なんで泣くんだ!早くここを出るぞ!ケイト!一緒に帰ろう!」


 するとケイトはマークの手を振り払った。


「おぉ!キース様!あなた達はなんて事を!」

「何をしてるの?ケイト!早く帰るのよ!」


 すると今度はスーザンの手を振り払った。


「あなた達はなんて事をしたの?私の命の恩人を殺すなんて!」

「何を言ってるんだ!気がおかしくなったのか?帰るんだ!さぁ!」


 ケイトは二人の腕を強引に振り払った。その力は以前の病弱なケイトとは思えなかった。


「あなた達はなんて事をしたの!キースは私をヴァンパイアにする事で私の命を救ってくれたのよ!あなた達にわかる?生まれた時からずっとベッドの上で同じ窓の景色だけを見て、今日、死ぬか?明日、死ぬかもしれないとそればかり考えて生きてきた女の子の気持ちが!私だって普通に生まれたかった。普通の人生を生きたかった。他の女の子達のようにお洒落したり、お喋りしたり、美味しいものを食べたり、お化粧をしたりしたかった!だけど、それは私には叶わぬ夢だった!何もしてないのよ!何も楽しい事を私は知らずに生きてきたのよ!ようやく、その夢が叶ったのに、あなた達は私から全てを奪った。自由も夢も希望さえも!」

「ケイト…。」

「お前は…。」

「あなた達が私から全てを奪ったわ!もう、生きていたくない!せっかく素敵な王子様に巡りあえて、素敵なレディにしてもらったのに!ようやく恋が出来たのに!初めてだった!初めてだったわ!人を好きになったのも、素敵な夢を与えてもらったのも!」

「ケイト…落ち着け!落ち着くんだ!」

「触らないで!あぁ…私の愛しい旦那様!キース様!私も後を追います。さようなら!地獄であなた達を呪ってやるわ!」


 ケイトは走りだすと、窓に掛かっているカーテンに手をかけた。

 そして、カーテンを開けた。

 次の瞬間だった。

 太陽の光が差し込み、ケイトに当たるとケイトはあっという間に灰になった。


 マークとスーザンはケイトが着ていたドレスを抱き締めて泣いたが遅かった。





 

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