51.
世界の命運は二人の少年と三人の少女にゆだねられた。
敵は邪悪な蛇の神と墜としても墜としても復活する兵器たち。
五人の操縦技術と負けん気だけが世界が奈落へ落ちるのを防いでいた。腕が痺れ、操縦桿を握る感覚がなくなり始め、瘴気のような空気を吸い込むたびに目がかすむ。
いくら倒しても蘇る敵の前に絶望が高波のように鎌首をもたげる。
疲労、絶望、逃避、敗北。そして、死。
それらを跳ね返すのは勇気や使命感ではない。
彼らのあいだでやりとりされる通信に答えがある。
〈だーかーらー! あたしの獲物取るなって言ってんでしょ!〉
〈いいだろ、べつに! 実家、金持ちなんだから!〉
〈実家関係ない!〉
〈通信は必要なときだけ使え!〉
〈うるせえぞ、サヴォイ!〉
〈なんだと、この××××!〉
〈え? い、サヴォイさんが〉
〈あ、ち、違うのです、ステラさん! これは、イリヤムが――〉
〈けっけっけ。ついに化けの皮が剥がれたな〉
〈イリヤム! この××が!〉
〈ちょっと、サヴォイ! 騎士の務め、騎士の務め!〉
〈おい、お前たち、真面目に戦え――そ、その、わたしを仲間外れにするな!〉
信じているからこそ叩ける軽口。
底抜けの明るさが戦いを支えていた。
みなが勝利を信じていた。
そして、勝利の先に何が起こるかも分かっていた。
一人の少女と引き換えに世界が救われることも。
だが、ひるまなかった。
ステラの覚悟を知っていたから。
「見えた、リヴァイアサン・コアだ!」
イリヤムは確かにコアを見た。
巨人機が墜とされ、リヴァイアサンの胴体が兵器を生み出すために開いた瞬間、その胴体の上、肋骨が重なり合う奥にコアを入れたガラス水槽が確かに見えたのだ。
イリヤムは通信チャンネルを全員に対して開いて、コアの場所を教えた。
〈駄目だ、狭すぎる〉
そう言ったのはサヴォイだった。
〈狙える時間が小さすぎる〉
〈胸をこじ開けるだけの火力もない〉
五機のなかで一番火力のあるハンザが言う。
〈どうするの?〉
〈四機が一度に巨人機を墜とす。そうしたら、あの蛇頭が巨人機を食らって、あの胴体から一度に放出するはずだ。そこを狙う〉
〈わたしにやらせてください〉
ステラが言った。
〈わかった〉
イリヤムはすぅっと息継ぎをして、気合の入った声で言った。
〈ステラ以外の四機は巨人機を狙う! タイミングを合わせて一度に倒す! 残りの燃料と弾薬だとチャンスは一度きりだ! できるか!〉
答えが返ってくる。当然だ。まかせてっ。無論だ。
そして、ステラの凛とした声が、
〈はい!〉
と、こたえた。
四機はそれぞれの受け持った巨人機目がけてターンしていった。
巨人機はやられてリヴァイアサンに飲み込まれると、護衛機付きで復活していた。イリヤムたちの艇は翼や胴に何発か命中し、ゴーグルは煤で汚れ、翼のあいだに張り渡されたワイヤーが何本か切れていて風の中で生き物のようにのたくっていた。無茶なマニューバをするたびに翼やエンジンが悲鳴を上げた。それでもガンポッドを破壊するたびに降り注ぐ炎と酸の雨をかいくぐりながら、何度も巨人機にかじりついた。リベット一本ずつ剥がしとるように仕掛け続けた。巨人機がエンジンを破壊され、尾翼の一部がちぎり取れ、機首の鷲の頭が吹き飛ぶたびに、ステラが消えてしまうことが脳裏にかすめた。ステラ・マリスはリヴァイアサン胸部の高度を保ち、一五〇〇メートル離れた位置で円を描いている。準備が完了したら、ステラに通信が入り、ステラはリヴァイアサンへ突撃する。
サヴォイから通信が入る。
〈こっちは残りエンジン一つまで追いつめた〉
〈こっちも似たようなもんだ。マリンとハンザは?〉
〈合図を待っている〉
イリヤムの照準鏡の向こうでは左右の両端のエンジンが吹き飛び、装甲板が剥がれ、鉄の枠組みがあらわになった巨人機があった。底部一ポンド砲用の弾薬庫が露出し、そこに数発撃ち込めば、巨人機は致命的な一撃を被ることになる。
だが、巨人機はリヴァイアサンの蛇の首が伸びる位置にいた。
撃墜すればリヴァイアサンが食らう。
その邪悪な蒼白い喉のなかで巨人機が再生する。
だが、一度に四機が再生する。
そして、胸部が大きく開いた瞬間。
その瞬間に全てがかかっている。
〈よし、やるぞ〉




