44.
三日が経過した。
ステラは意識を失ったまま。
療術士のフェリシティが献身の介護をし、癒しの術もいくつかかけてみたが、体が悪いわけではないので効き目はなかった。
「心の問題、でしょうか?」
「こころ?」
イリヤムがたずねた。フェリシティと、そして、もしかしたら気がついたかもしれないステラのために読書室で淹れたハーブティーをテーブルに置くと、ステラのベッドのそばにあるナイトテーブルを見た。
不思議な記録クリスタルが転がっている。
こんなカットの方法は見たことがないし、そもそも材質はクリスタルではない。もっと風との親和性の高い鉱石だがそれ以上のことは分からない。
素材加工屋の連中に見せて得た答えだ。
魔法使いたちもどうやってこの記録クリスタルから記録光を引き出せるのか、さっぱり分からなかった。
だが、この石からは光以上のものが込められている。
そして、ステラがこの石に触れた瞬間、イリヤムは見たのだ。
地獄を。
だが、それを見たのは自分とステラだけのようだった。
「フェリシティ。ちょっと頼めるか? 出かけないといけないところがあって」
「ええ。大丈夫です」
「そんなにかからない。すぐ戻る」
イリヤムはステラの部屋を出ると、階段を上った。
途中でヴィルと出くわした。
「ステラはまだ?」
「ああ」
「こいつはよくない。もしステラがこのまま目が覚めなかったら、おれやアレクやカプロニは誰を四人目にしてパーティ組んだらいいんだ? カタリーナ・ディ・シルベストロはだいたいアンディと組んでるし、ロブ・マクギルベリーが復活したと思ったら、今度はレイモン・ランルザックが風邪で寝込んでる。闇術士の連中は何考えてるのか分かんないし」
「その前にステラはおれの相棒だってこと忘れるなよ」
「そんなもん、クソくらえだ」
ヴィルは笑ったが、すぐ表情を引き締めて、
「大丈夫だ、イリヤム。ステラは強い。すげえ強い」
「そうだな」
差し出された拳固に拳固をコツンと合わせると、イリヤムは昇り階段の道を取っていった。
屋上には観測気球がつないであった。それを借りて、市街地の上に浮かぶ。
イリヤムはセント・エクスペリー荘を見下ろし、そして、王都ライムをざっと見渡した。
「やっぱりそうだ。間違いない」
ステラの機が見せた、あの異常な世界。あの地獄。
あの地獄は――。
気球がガクンと揺れた。
欄干から身を乗り出して、下を見ると、剣士や鍛冶屋といった力自慢の連中が係留ロープをぐいぐい下に引っぱっているところだった。そのなかにはクリスも混じっていた。気球が元あった場所に降りると、いつもなら「ボクに肉体労働させておいて」と皮肉の一つも言うクリスが息を切らせながらしらせた。
「ステラが目を覚ました」




