35.
新しい竜炎樹の実は前のものよりもずっと点火の質を上げた。これなら錐揉み失速に落ち込んでも、ボタン一つで態勢を立て直せるに違いなかった。
何せ普通の地面に生えていたのではない、玄竜の背中に生えていたものなのだから、その竜の力はエンジンの回転数すら上げてしまう付加効果がついていたくらいなのだ。
ラグタイムが復活した次の日、イリヤムとステラはサザンプトンズのプールサイドのレストランにいた。
若鶏のアップルソース、アップルジャムパン、アップルパイ、アップルジュース、アップルアイスクリームとステラの好きなリンゴ尽くし。
「うー、食べ過ぎました」
「ステラはほんと、うまそうに食べるよなあ」
「女の子らしくないでしょうか?」
「おれはステラらしくていいと思う。それにこんなんじゃ、まだ借りを返したうちには入らないからな」
「竜炎樹のことですか?」
イリヤムはうなずいた。
「いいんです。当然のことですから」
「当然?」
「だって、わたしたちは相棒ですから」
イリヤムはふと表情を崩した。これまで誰かと組むことなんて考えてもいなかった。セント・エクスペリー荘の連中には相手がいないいないと困ったふうに言っていたが、実際は探していなかったのだ。艇のことになると、イリヤムはどこか殻に篭ってしまう。
原因は分かっていた。
父親と――それにイビル・ティアマット。
失う恐さを知らないうちに心のなかに飼っていた。
そんな自分が突然、空から降ってきた女の子に気を許し、いや気が合って、こうして相棒にまでなった。
「あの――どうかしましたか?」
「ん?」
「わたしが相棒だといけないでしょうか?」
イリヤムはステラの表情にハッとなった。
何かを恐れているような、そんな感じだった。
笑い飛ばしたい。
そんな感情にイリヤムは心をゆだね、大笑いした。そして、少し意地の悪い顔をして、
「さあー、どうだかなー?」
ステラの顔が変わった。暗いものが消えて、明るい不機嫌に頬をプッとふくらませた。
「んもう! イリヤムは意地悪です。もう知りません!」
ステラの不機嫌はアップルシャーベットで治った。
同時刻、王都ライトの中央駅。
プラットホームのベンチに山高帽をかぶった黒いコートの男が座っている。特徴らしい特徴のない男は日刊紙『ジュエリス・タイムス』を広げている。
その隣に修道院付き学校の制服を着た少女が座る。
黒いコートの男は新聞を畳むと、それをベンチに置いて立ち去った。
女学生が新聞を取り上げ、広げる。
スポーツ欄に二つの封筒が挟まっていた。
一つ目の封筒には少女の写真、少年の写真。どちらも隠し撮りされたらしい。
少女の写真には〈ステラ〉、少年の写真には〈イリヤム・ロメッツ〉と殴り書きされていた。
二つ目の封筒には二人が乗っている飛行艇の写真があった。
任務遂行の目途が立ち、女学生――ハンザ・フォン・ブランデンブルクの口角がかすかに上に持ち上がる。




