33.
ラビス樹海には川もあるし、池もある。
樹木に絡みつかれた城が浮かぶ神秘的な湖だってある。
冒険では水の在り処を知っておくのは基本中の基本であり、いかに駆け出しの冒険家といえども、ラビス樹海の湧き水の在り処はだいたい把握している。
鳩の石の泉は根元に鳩の石像を埋めた巨大な緑樹の洞から水が滾々と湧き出ていて、それが段差になった根の上を滑って流れとなり、苔を底に敷いた美しい水溜まりを作っていた。
日も暮れかけると、池のまわりや雛壇状になった根と苔とシダの足場にはいくつものパーティーが野営をしていて、サマーキャンプのようになっていた。
ステラたちのパーティーもそこを野営地に選んだ。樹の幹のあいだにロープを張ってテントを作ると、カプロニが倒木の破片を斧で切って薪をつくり、鉄クズ市で買った四本の古いソケット式銃剣を使ってこしらえた手製のグリルの下にねじ込んだ。
ヴィルが火の術式でも最も等級の低い魔法を使って、種火を指先に生み出して、それを組み立てた薪に放り込んだ。
乾いた枝がパチパチ音を立てて、滑らかに踊る火が出来上がる。
そのあいだ、ステラはアレクと一緒にコンビーフ・ハッシュを作った。缶詰の塩漬け肉とハーブ、胡椒、それにじゃがいもを刻んで混ぜた。
大きな二つのフライパンがグリルの上に乗り、片方にはマカロニの缶詰とポーク・アンド・ビーンズの缶詰を開けて煮込み、もう一方のフライパンにはラードを一かけら放って、熱で溶けてフライパンの上を滑るままにした。
コンビーフ・ハッシュの生地が出来上がると、それでパンケーキをいくつか焼く。
マカロニのほうはトマトベースのチリソースがぷつぷつと細かい泡を立て、いい匂いのする白い湯気が鼻をくすぐった。
紅茶をポットに入れて、グリルの空いた場所に置く。紅茶自体は安物だが、水がいいので、きっとうまいはずだ。
引退した老冒険家たちが言うには、缶詰が発明される前、冒険家たちは倒したモンスターを食べたということだった。缶詰の発明者は少年少女の冒険に対し、栄養面で多大な貢献をしたということになる。
どんな環境であろうと、うまいメシがあれば、気分は上々のお気楽な少年少女たちは若さと情熱を夕食への熱意に変えて、それぞれ創意工夫を施した。
重いダッチオーブンをメンバーで交代で持ち歩いたパーティにはローストチキンとベーグルピザが約束されていた。他にもチーズ・スパゲッティ、にんにくと香辛料入りのソーセージ、コーン・フリッター、淡水ニシンのマリネなどがそれぞれのパーティ・メンバーの空腹を癒すべく、鋭意調理中だった。
「できた!」
アレクが言った。
コンビーフ・ハッシュとマカロニ、デザートのパンケーキをあっという間に平らげ、食後のコーヒーを淹れていた。
くすんだ銀色のパーコレーターを置いた焚火のまわりに集まり、のんびりとくつろぎながら、一日を振り返った。
カプロニが言った。
「今日の戦いぶりを見た限りじゃ、きっと使命も楽勝だよ」
「そうでしょうか?」
「そうそう」
「おれたち、いい掘り出し物に出くわしたよな」とヴィル。
「掘り出し物って骨董品じゃないんだから」アレクがたしなめる。「もし、ステラがいなかったら、きみ、今頃、トゲネズミの棘に貫かれて飾りみたいにされてたぜ」
「うるせー」
三人が笑い、ステラも笑った。
ふと、カプロニがステラのほうを向いた。
「もし、記憶が取り戻せて、果たさなければいけない使命をきちんと果たしたら、その先はどうするつもり?」
「それは……」
ステラは言葉につまって、うつむいた。そこから先のことなど考えたこともなかった。だが、何をしたいかはすぐに思いついた。
「もし、イリヤムがいいって言ってくれたら……イリヤムと一緒に賞金稼ぎを続けたいです」
カプロニは優しく微笑んだ。「きっとイリヤムも喜ぶよ」
「本当ですか?」
「うん。もし喜ばなかったら、ぼくらに言ってよ。三人でイリヤムをとっちめてやるからさ」
ステラはクスッと吹き出し、ぺこりとお辞儀した。「はい。そのときはお願いします」




