12.
管理係の部屋は三階と四階に吹き抜けた二人部屋で魔法使いと地図職人が暮らしていた。
セント・エクスペリー荘は生半可なダンジョンよりも複雑な構造をしている上に、廊下がふさがったり、誰かが壁に大きな穴をぶちあけて新しい通路をつくったりする。さらに半年に一回、これまで見つかっていなかった部屋が見つかるので、地図は常に更新しなければいけなかった。
「新しい部屋?」
魔法使いがイリヤムの言葉に顔をしかめた。
「そうだ。女子向けの部屋。一つか二つあるだろう?」
「さあ、どうだろうな。おーい、キャンベル!」
一度呼んでも、シーンとしていて反応がない。魔法使いは魔法の杖をふわりと浮かばせると、二階のロフトへと飛ばした。
間もなく、ゴツンという音とともに、
「いたいっ!」
と声がして、うめきつつ椅子を引く音、そしてロフトの欄干へ近づく足音が聞こえた。
魔法使いはきちんと務めを果たして帰ってきた杖に「よくやったぞ」と声をかけていた。
ロフトの欄干から鉛筆を耳に挟み、寝不足なのか目の下に大きな青いクマができている地図職人が顔を出した。
「なんだよ?」
「イリヤムが部屋を一つご所望だ」
「イリヤムはもう部屋を持ってるだろ」
「そうじゃないって。イリヤムが連れてきた女の子のための部屋だ」
「その子、何をやって稼ぐつもり?」
魔法使いはそう問われ、イリヤムを見た。イリヤムは、
「おれと組んで賞金稼ぎをする」
と答えた。地図職人は耳の鉛筆が落ちないよう器用に頭を掻きながら、
「じゃあ、あそこだ。あそこがいいんじゃないか?」
「あそこってどこだよ?」
魔法使いが言う。地図職人は、
「だから、あそこだよ。あそことあそこのあいだにある部屋」
「だから、どことどこだよ?」
「ティー・ルームと図書室のあいだにあるやつ」
「図書室ったって二つあるぞ」
「『ミジンコにもわかる地図作成入門』が置いてあるほうの図書室」
「わかんないよ、それじゃ」
「本棚が丸い柱みたいな図書室だよ」
「ああ、わかった。あそこか。階段と階段のあいだの中二階みたいになってる部屋だな?」
「そう。そこ」
「ちょっと待て」イリヤムが遮った。「おれにもわかるように説明してくれ」
「心配すんなって、イリヤム。後でちゃんと案内するから」
「近所は誰が住んでる?」
イリヤムがたずねると、魔法使いは下階の本棚から住人名簿を出した。重く分厚い住人名簿を書見台に置いて、ページを繰る。
「階段を下ったほうにはクリス・ホイッティングワースが住んでる。クリスは知ってるよな?」
「ああ。役者のクリスだろ?」
「そう。そのクリスだ。で、上がったほうの階段部屋に住んでるのは……ええと……あ、三人用の大部屋だ。全員女子。闇術士と銃術士と剣士が住んでる。変な取り合わせだな」
「ダンジョン探索で組んでるんだろ。それよりもその部屋は家具つきか?」
「ちょっと待て」
魔法使いはロフトへ声を張った。
「おーい、キャンベル! その部屋は家具つきか?」
寝不足のキャンベルはテーブルに突っ伏したまま、弱々しい声で、そうだあ、と答えた。
「だとさ」
「じゃあ、そこを見て、本人が気にいったら決定だ」