9.
イリヤムはてっきりカーター親爺が足の捻挫を押して、艇に乗ったとばかり思っていたから、桟橋でカーターの艇からステラが降りるのを見たときは目が点になるほど驚かされた。
「すげえな! やっぱり操縦は覚えてたんだよ!」
イリヤムの歓声にステラは恥ずかしそうに笑った。
「久しぶりにこいつが飛ぶのを見た。いいもんを見させてもらったよ。あれなら軍でエースを張れるぞ!」
カーター親爺も驚いた様子だった。
浮遊島を正しい位置へと戻そうと西からの風が吹いていた。安全が確保され、王都行きの空路が近づくと、イリヤムとステラはラグタイムに乗って、カーターの浮遊島を出発した。
〈思ったんだけどな〉
王都行きの一一二号空路を飛びながら、イリヤムが言った。
〈ステラ、賞金稼ぎをやる気はないか?〉
〈え?〉
〈記憶を取り戻すまでやることがないなら、おれと組んでみないか? あれだけの技術があれば、二人でもっと大物の賞金首を狙えるぜ〉
〈でも、飛行艇は?〉
〈報酬の三分の一を条件に貸し出す店がある。それで金を貯めて、サルベージ業者を雇うんだよ〉
〈サルベージ?〉
〈海のなかに落としたものを探す専門業者だ。墜落地点の座標を記録しておいたから、ステラが乗ってた艇を海から引き上げれば、記憶を取り戻す手がかりが見つかるかもしれないぜ。行かなくちゃいけない場所も思い出すかもしれないしさ〉
〈行かなくちゃいけない場所……〉
〈まあ、サルベージ業者は高くつくから、しばらくは稼がなきゃいけないけど、あの腕ならそう遠いことじゃないぜ。どうだ?〉
〈……やります。わたし、行かなくちゃいけないこと、やらなきゃいけないことがありますから〉
〈そうと決まれば、王都へ急ごう。飛ばすから舌噛むなよ〉
イリヤムは巡航速度などくそくらえとばかりにスロットルレバーを全開にした。