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その殺し屋、元医者にて  作者: 虎一揮
一章 戦闘王国カルガンテ
2/19

新しい身体

闇の中から意識が飛び出ては、また闇に飲まれる。

その繰り返しを数度繰り返し、俺は意識が覚醒した。

目を開くとなんの変哲のない素朴な部屋のベッドで寝転んでいた。

転生が終わった、か。

俺は天井見上げ、木の目をぼんやりと眺める。

じわじわと波が広がるようにして、感覚が全身へと伝わっていく。

感覚が全身に行き渡るのを感じとり、俺は試しに右手をグーパーと握っては開いてを繰り返した。

うん、違和感は特にないかな。強いて言えば前世の時の疲労感が無いことと、若い身体だからか身体の動作がしなやかで軽いことくらいか。

さて、次は少し身体を動かそうか。

ゆっくりと身体をもち上げる。

身体は全身凝り固まっていて、上手く身体を動かせない。

ギシギシ、と身体を捻り、強張った身体をコリを無くしていく。

最後に両手を組んでググーッと身体を伸ばし、ストレッチを終了。

そして部屋を右周りに部屋を見渡す。

まず太陽の光が溢れる方を振り向く。

木で作られた窓枠があり、その中から太陽の光が漏れ出している。

大きさは顔が少し出せる程度。

採光の役割をしているんだろう。

そこから右回りに眺めると、ホコリの被った古びた机と背もたれのない椅子が備え付けてある。

相当な年数が経っているようで、ホコリが数センチ程積もって雪のようになっている。汚いけど。

机の上にはホコリ以外に蝋燭を乗せる台があり、蝋燭は全て使い切られ、底にロウが固まっている。

ふと椅子の方を見ると、椅子の上に1枚の紙が置かれている。

前世のような紙ではなく、羊皮紙のようだ。

何かが綴ってあるようだが、ここからでは何も読めない。

他には何もなく、椅子もうっすらとホコリが積もっている。

机と椅子のセットから右に視線を向けると、外に出るドアがある。

凝った意匠は施されてなく、部屋を区切る、という役割のみだけのようだ。

ドアの隙間から生温い風が時折入ってきて少し気持ち悪い。

それ以外はこの部屋には何もないかな。

後は木でできた壁がこの部屋を囲んでいるだけだな。


俺はベットから降りて立ってみる。


「うわっ」


視界が高い。

前世の時より身長が一回り大きいのか、見えている景色が変わった。

試しに片足立ちやジャンプなど基本動作をして下半身の感覚の確認と視界の移り変わりに慣れる。

ジャンプをすると床がギシッと呻き、床が抜けそうになる。

もう一度片足で強く押すと、メキメキと鳴り、ささくれが足の周りに浮かび上がる。

結構脆いな…。

と、そういえば俺は麻で編まれた服とズボンを着用してるっぽいな。

服装の色はシンプルで、服は薄めの紺色一色でズボンは黒から色が少し脱色した感じ。もちろん何の細工もない。

ズボンにはポケットの備えは何もなく、ただ履くだけのもののようだ。

肌触りは前世の時のよりは悪く、所々に肌に引っ掛かっているような気がするけど、まあ慣れるだろう。

さて、行動に移すか。

俺はとりあえず、椅子の上にヒラリと落ちている羊皮紙を手に取る。

そこに書かれている文字群を目で追っていく。

日本語じゃない、な。

知らない言語だが、まるで以前から知っているかのように、頭の中に情報が淀みなく流れ込んでくる。

羊皮紙に書いてあることは

・転生する際に言語理解は予め習得済みになっている

・転生場所は戦闘王国カルガンテという場所の郊外の廃屋

初心者援助(ビギナーズ・サポート)として10万ビリトがベットの下に隠されている模様

・ギルドと呼ばれる機関に赴き、冒険者登録をまず一番にと推奨

と、こんなところか。

しょうもない言葉が並んでいて羊皮紙一面にか来られてあったけど、情報は羊皮紙の半分にも満たないな。

あの神?は結構感情的なのな。


と、全てよみおわったらその羊皮紙の文字群はサーっと消えて未使用の状態に戻った。

異世界転生の痕跡を無くすためなのだろう。

俺はその羊皮紙を持ち、ベッドの中にある10万ビリトの詰まった布の袋を取り出した。

それは結構重たかった。

中を開けると、10枚の光り輝く金貨が入っている。

この世界は紙幣を使ってない、か。

片面にはなにやら誰か有名な人物なのだろうか、肖像画が彫られている。

そして円周上に肖像画を囲むように文字が連なる。

もう片面は王冠のような絵が刻まれ、その下には二つが交差している構図になっている。

戦闘王国の金貨であることを示しているのだろう。

金貨があるってことは銀貨や銅貨、また質の下がった貨幣も存在するのだろうな。逆も然り。


「さて、最初の命令(オーダー)(といってもこれが最初で最後なんだろうが)のギルド登録に行くとするか。まあ戦闘王国とやらのところに行ったらあるだろ」


俺は金貨の考察を終了し、羊皮紙を金貨の袋の中に突っ込んで廃屋から出て行った。



廃屋から出ると、辺り一面に赤みがかかった草原が広がっている。

遠くの方を見れば霞がかかった綺麗な山脈が連なっており、それらの頂上付近は雪化粧を施している。

その反対側。

この位置からでは端が見えない程のとても大きい頑強な市壁が聳え立っている。

その高さは実に10メートルは超えるので、その都市の難攻不落さを伺える。

市壁の大門から此方に向かって草を刈り取った大きな道が伸びている。

その道路は往来がかなり激しいようで、しっかりと踏み固められている。

ちょうどこの廃屋の手前を通るようにして山脈の方に向かって真っ直ぐに伸びているようだ。

その道の脇には少し間を開けて市壁と山脈を繋ぐ川が流れている。

水はとても澄んでいて、川の底が濁りなくはっきりと見える。

魚もちらほらと散見でき、山脈から市壁へと流れる川に沿って下流へと泳いでいる。

俺が前いた川とは全然違うな…。

俺は都会に縛られていたから、このような人の手がかかっていない自然の創作物を拝むのは久し振りだ。

異世界に来たんだなぁ…、と改めて感じる。

俺は川まで歩いて行き、両手で水をすくい、おそるおそる口に運ぶ。

すごく美味い!!

泥や砂とか不純物の味が全然無くて、水道水のように薬っぽい味ももちろん無い!

天然で浄化された水はこんなにも美味いのか…。

喉を通った水は俺の乾きを癒し、活力を漲らせてくれる。


「もう一杯…」


俺は満足するまでガブガブと水を飲み続けた。


「よし、こんなもんかな」


次はあの荘厳な市壁へと向かうとするか。

なんとなく名残惜しい廃屋を片方の目に収めて都市へと足を向けた。

けどそこには廃屋がポッカリと消えており、草原が澄み渡っているだけだった。

うん、神の情報隠蔽なのだろう…、とそう思い込んで歩き出した。


歩き始めてから数分、俺の背後辺りで怒号がかすかに聞こえ、それがだんだんと大きくなって来た。

たまに獣の遠吠えや威嚇の唸り声が聞こえてくる。

なんだ?と後ろを振り向けば、少人数の団体が小道を通ってこちらにものすごい勢いで走ってくる。

真ん中にいるのは商人のようだ。

彼は、馬車の御者台に座り、鬼気迫る顔で馬を引っ叩いてできるだけ速く走らせようとしていた。

彼の周辺には走って追随する護衛者たち。

身体能力が高いのだろう、暴れるようににして走る馬に引けを取らない。

前に2人先行し、荷台の両隣に1人ずつ並行して走っているようだ。

後ろにも人がいるだろうけど、こっからでは荷台に隠れて見通せない。

その後ろには狼のような獣のが散開して追いかけている。

一匹が荷台の左隣にいる護衛者に襲いかかる。

その護衛者は即座に盾をかざす。

狼は縦にぶち当たって地面に転がり、置いていかれる。

ひょっとしなくてもあの獣、魔物だよな…。

獣の周りにはうっすらと暗澹が立ち込めており、体内から魔力は漏れ出しているように見える。

牙の隙間から出る空気は妙に赤黒く見える。

普通の狼と違って全長は牛並みにデカく、敏捷性はその巨体に反して物凄く素早い。


俺、こんなやつらに勝てるわけないだろ!

戦闘経験皆無な上に身体能力は一般人の何ら変わりな無いわ!

このままじゃ俺も食われちまう!

俺はすぐに振り返り、死に物狂いで走り出した。


距離が詰まる。

走り出してすでに10分。

アドレナリンが分泌しているから全然疲れないが、身体能力の差で追いつかれる!


「やばいやばいやばいやばいやばいやばいィィィ!!!????」


市壁まであと目算500メートルある!

それに対して後ろはもうすぐそこ!

間に合うか!

転生早々死ぬとか何なんだよ!

勘弁してくれえ!


冷や汗やらなんやらでびっしょりと服を濡らす。

前へ前へと足を進める。

後ろの馬車の車輪が回る音と人や獣の走る音がもう少しでここに到達する。

もう間に合わない。

と、思ったらヒョイっと地から足が離れた。


「おい!何やってんだ!死ぬぞテメェ!死にたく無いならジッとしてろ!」


俺は今ガタイのいいおっさんに担がれた。

なんて膂力なんだ…。

いちよう俺大人なんだけど、それを軽々と持ち上げて普通に走っているよ。

すげえ…。


俺はその驚きに一瞬呆然とし、その間にもぐんぐんと市壁へ近づく。

は、速えな。

景色が見る見ると変わって行き、市壁までもう5メートルを切った。


「おい!警備兵!援護頼むわ!あとこの(荷物)預かってくれ!」


「わかった!」


「あとタルニャさん!このまま突っ切って市壁の中へ!」


「ああ!後で護衛代弾ませるよ!後でまた会おう!」


「ああ!あんがとよ!」


「えっ、ちょっと!俺をどうすんだよ!」


「こうすんのさ!」


その護衛人は身体を少しひねってタメを作った。


「お、おいまさか…」


「そりゃあ!!!!!」


「うわあぁぁぁ!!!!!!」


俺は思いっきりぶん投げられた。

ビューンと野球ボールのように空を飛び、市壁の中に待機していた警備兵にキャッチされる。


「グヘェ!」


「よっと!」


警備兵ナイスキャッチ。

俺はそのまま警備兵に横抱きにされ、都市の中に入り込んだ。

後ろを振り向くと、狼と戦う警備兵と護衛人の姿がチラリと見え、その後すぐに市壁が閉じられた。



戦闘王国カルガンテは結構長くなる予定です。

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