真っ白に塗りつぶされたはじまり
「というわけで、あなたは医療保護入院となります。よろしいですね」
「全然、よろしくないです。何かの間違いです」
女医はそれ以上何も言わない。
きっと何かの間違いだ。そんなはずない。両手足は自由自在に動くし、肌の血行もよくて最近化粧水のノリもいい。
「ご家族さんに何か言い残すことは?」
「死ぬんですか?ねえ、これ。死んでしまうんですか。どうして」
女医はそれ以上何も言わない。
こんな意味不明な場所からはさっさと逃げて行ってしまおう。
そう思い、ドアノブに手を伸ばす。だが伸ばせなかった。両腕を父親に羽交い締めにされてしまったから。
「やめろ!!」
なにがやめろ。なんですか?ねえ?お父さん。マジっすか。こんな高度なギャグ見たことない。
入院なんて絶対に嫌だ。けがをしたならともかく、まったくもって健康なのに。どうして。
平然としている女医の涼しげな顔が腹立たしかった。
見捨てられた。裏切られた。父親に。
図られた。策にはめられた。女医に。
信じられない。今までざわざわといろいろなことで頭がいっぱいだったのが、清潔で殺菌された白いペンキでどんどん塗りつぶされていく感覚に飲み込まれまいと、じたばたともがいてみせる。
「看護師を呼んで下さい」
女医の冷静でひっそりとした声を耳にしながら、なおさら暴れる。殺される。私が社会的に殺される。こんな納得のいかないまま入院なんてあるはずがない。入院は個人の意思が尊重されるものではないのか。
女医を蹴り、駆けつけた複数の看護師をはねのけ、じたばたもがき苦しむ。そのうち看護師の数が増えていき、男性看護師も現れた。それでも暴れる。殺されたくない。こんな殺され方いやだ。まるで何かの小説で読んだ悪役のような無様で後味の悪い殺され方じゃないか。
「しゅ、就職は?就職はどうなるの?わたし、もう22だよ?ほかの子はみんな就職決まってるよ。働いてるんだよっ!!?」




