変なおんぼろビル
前回までのあらすじ
母の死を宣告されたどこにでもいる普通の少年追山鉄平は、平安時代コスプレの陽とであう。陽に願い事を叶えられるかもしれないと言われ、勇気を振り絞って願いを言うもあっさり無理だと言われ怒った鉄平は陽が入っていったおんぼろビルでの会話を盗聴していると、急にビルの扉が開いたのであった。
二人の視線がいっきにこちらへ向く。さすがに気まずいため、鉄平はアハハと苦笑いする。しかし、二人の邪魔だなこいつと思っていそうな視線は決して、その苦笑いに全く反応を見せなかった。むしろ目つきが鋭くなった気がする。
鉄平はそろうり立ち上がり、部屋から抜き足差し足で出ようとする。
「待て。」
静かな女の声は鉄平を静止させる。鉄平はビクンと肩をよせる。そしてぎこちなく女のほうへ顔を向ける。その目は焦りと緊張にあふれていた。
女はダブル輪っか髪の下に大量にある髪の毛を徐に耳にかき揚げ、にやりと笑った。またそれが無性に怖い。鉄平はまた愛想笑いで返す。すると、女のほうもにこりと笑った。ただし、目は全く持って笑っていなかった。怒っていているが、怒る気にもなれないといった風か。
「何様のつもりあんた?」
笑いながら鉄平に話しかける。怖い。こめかみから冷や汗がながれる。思わず目が泳ぐ。これが陽であったならば、すぐ言い返すが、相手は妙によくわからん女だ。そして何より、目に見えない怒りのオーラに押される。そのうえこのおんなの迫力は普通の人ではない。怪物か宇宙人かのレベルである。
「陽!あんたいかにも馬鹿ですみたいな顔を持つ人間連れてきてどうする。」
「はぁ!」
思わず女の顔を見る。確かに学校の成績はあまりよくないが、いかにも馬鹿そうな女に言われたくない。だいたい今時十二単に輪っかの髪型など現代において一人もいないだろう。鉄平はあまりの腹立たしさに、歯をむき出しに睨む。
そんな怒り狂う鉄平をケロッとした顔で見つめる女。なんとなくその表情が頭にくる。体がわなわなとふるえる。
「馬鹿に馬鹿言っても通じないわよね。そりゃ馬鹿だもん。」
「うるさい!」
「ほら、大きい声でわめくのも馬鹿の証拠。」
「うううううう・・・・。」
何も言えない。確かにここで大声で言い返してもただまたケロッとした表情で馬鹿言われるだけだ。悔しいが、相手のほうが一枚上手だ。
鉄平は国語五十八点、算数四十一点、社会五十点、理科四十点という合わせて百八十九点という半分も行かないというクラスで下から数えて四番目の位にいることを言ってしまえば、さらに馬鹿の応酬が来るだろう。
「ふーん。四〇〇点満点で一八九点ね。とことん馬鹿ね。どうしてこんなバカ連れてきたの陽!」
「織姫さん、織姫さんも今こちら側の情報ばっちりばらしましたよ。もう!それにこの子織姫さんがおもっているほど馬鹿じゃありません。」
「本当かい?」
織姫は度肝を抜かされたような顔をする。鉄平は救われたような顔を陽に向ける。
「この子は、大馬鹿なの。馬鹿じゃないです。」
一瞬部屋の中が静まり返った。鉄平も織姫も目をぱちくりして、陽のほうへ顔を向ける。なぜか陽は自信たっぷりなようで胸を張って両手を腰に手をあてている。
そして、織姫は面白そうに高笑いをはじめ、鉄平はショックで、思わず肩を落とす。
「陽、それでこの馬鹿・・・・いや大馬鹿はどんな願いを願ったのかい?」
「願いも大馬鹿だよ。」
陽がニコニコして、それを言うと、鉄平の何かがプチンと切れた。気づいたら、陽の背中は畳についていた。鉄平は上から陽をまたいでにらみつける。
織姫と陽の目はあきらかに鉄平に恐れている目をしている。それはライオンに恐れるウサギのように小さく震えるような目である。実際に小さく体も震えている。
鉄平は合気道は強くもなければ弱くもないという位置にいるが、スキがありすぎて、合気道を鉄平が習っていることを知らなければ一瞬で投げられる。
「は、はぁ?」
陽と織姫が一斉に声をあげる。少しスッキリして、鉄平はあることを思い出して、えっと声をあげ、眉間にしわをよせた。織姫のほうをすごい勢いで振り向く。そして、口を開けて、わなわなと震える。よく考えれば、確か陽は「織姫さん」と呼んでいた。ここで気づくべきだった。
「なんだよ。あんた。そんな顔をして。」
さっきの投げに少し恐れているのがよくわかる。あきらかに鉄平警戒をしている。鉄平はそんな織姫と同じような顔をして、叫んだ。
「お、お、お、おり、織、織ひっ、織ひっ、ひっ、織姫!」
「何言っているんだ?織姫だけど?それがどうしたんだい?」
「本当にあの・・・・あの七夕伝説の・・・・織姫?」
「たなばたでんせつ?・・・・・あっ、あぁ!確か人間世界であたしと彦星君の悲恋話を口実に毎年願い事を叶えてもらおうなんて思っているとても小ずるいやつ?」
あきらかに聞こえが悪い。鉄平がうんと首を縦に振れば、その人間が悪いということを正しいとしている風で頷けない。仕方なく目線をそらす。決して織姫が言っていることが間違っていないので否定できない。
「やまてつ、急に投げないでよ。僕何か変なこと言った?」
「お前にとって人が願うものってどういうものだと思っている?」
「ただの人の願い。それを僕が叶えりゃいいとおもっているよ。願いは願い。」
陽はケロッとした表情で言う。まるで自分が賢き良き王だと威勢を張るように。鉄平はそんな陽を目を細めて睨む。ゆっくりと口を開く。
「お前も大馬鹿だ。人の気持ちなんら考えていないよね。少しは理解しようね。俺にはお前の言っている規定とかよくわかないんだけど、そんな風に人の気持ち・・・・いいや願い事を踏みいじるような行為やめろ。マヌケ。」
「えっ?」
陽が一瞬ひるむ。いつも自分が正しいという目が揺れる。その一瞬、今度は感情的にならず、陽を投げた。陽は何がおこったかわからないという目で、宙を舞った。鉄平は陽に馬乗りになって、陽の両頬をつまんで伸ばせた。鉄平はにこっと笑った。パッと手を放す。
「また投げられた。何で投げらたと思う?お前さ。」
「・・・・・・わからない。」
鉄平はまたぐいっとさらに今度はさらに強めで両頬をひっぱった。さすがに陽もこれには痛そうだ。引っ張れる分だけ引っ張ったあと、勢いよく放した。
「何で理解できないの?」
「いつも、そう言われてきたんだ。天帝様に。叶児はとりあえず人間の願い叶えときゃいいって。それを僕はずっと信じてきたんだ。天帝様は人間の願い事など欲深いものばかりで美しいものなど一つもないって。」
陽は視線をずらす。困惑している表情だ。さすがにかわいそうだから、鉄平は馬乗りをやめる。そして、ように質問する。
「天帝?」
「織姫さんのお父さん。かつての僕の師匠。王様でもあるんだ。僕らの世界の。強くで立派で、いつかあんな人になりたいと思うくらいかっこいい。僕にとってあの人が言うことは絶対だった。」
「だった・・・・?」
急に明るくて、自信過剰なようの態度が一変した。何かに縮こまるように目を細め、首をしたにたらす。
「陽、語りすぎだ。」
陽は何か考えたのか少しだまって下を向いた。そして、織姫ほうへ顔を向ける。
「いいじゃん。もう・・・・・だってこの子大馬鹿だけど、強い気持ちを持っているよ。だって見ただろ。あんな早業。気づけば僕は背中を畳にくっつけ天井見上げている。僕が彼を馬鹿にしたからそうなったんだよ。彼は自分を馬鹿にされて怒ったんじゃないと思う。二回目投げられて、頬を引っ張られてわかったんだよね。ううん、まだよくわからないけど、僕が否定されて、いつもなんとも思わない僕への否定が今日はなんとも思わなかった。叶児である僕が彼に負けたんだよ。織姫さん、僕が彼を認める。彼と一緒に一回組みたいんだよ。話しながら、今思ったよ。」
「陽が負けを認めるなんて珍しい。ところで、陽一回こいつとあっているのかい?」
「河原のほうでね。実はさ。」
陽は今まで鉄平との経緯を話す。織姫はその話を聞いて、アハハと笑った。そして、陽、あんたそれはいけないといった。
「勝手に無理だと言って、突っぱねるのはよくないよ。確かにここまでやられると、大馬鹿者だってわかっていてても、話してたら陽の気持ちにもなるよ。」
「そうでしょ。さっきまでは見栄を張っていたけど、負けた。織姫さん僕たちのこと全て話そう。」
「陽がそこまで言うなら仕方ないね。名前?やまてつだっけ?」
「追山鉄平です。」
織姫に半場呆れながら鉄平は言う。
「鉄平、あたしたちは人間じゃない。」
「へっ?」
鉄平は思わず上ずった声をあげてしまう。いきなり現実離れした話をされて、頭が混乱し始めている。わけがわからない。
「あたしたちは、地球人でもない。あたしたちは、遠く、遠くの惑星から来たんだ。いわば宇宙人・・・・かな。」
「えっ?」
鉄平は目をぱちくりさせる。また現実から飛びすぎた話だ。
「ほら、七夕伝説ってあるだろ?あれは本当の話。実話。どういう経緯でこの惑星に伝わってのかよく知らないけど。」
「んん?」
いまいち理解できない。すると、陽が助け船をいれる。
「やまてつ、いいかい、僕らはこの星のつまり、地球人ではないこれは理解できる?」
「あ、まぁ。でも人間じゃないって?」
「織姫さんそっちの説明先に。」
「本当に大馬鹿者だね。宇宙人だし、人間みたいにほかの動物に頼らなくては生き提携ものではないということさ。」
「どういうこと?」
鉄平は即答する。そんな鉄平に織姫は一つ溜息をつく。どうやら呆れているらしい。
「人間は牛を食べる。間違いないかい?」
「うん。食べるけど・・・・普通に。」
「あたしたちにとってそれは食べ物ではない。牛ってもう一つ人間に与えてくれるものがあるだろ。わかるかい?大馬鹿者。」
「最後の一言は余計だけど、えっと・・・・・・・・・・・肉じゃなきゃ・・・・・あっ!牛乳か!」
「そう。牛乳。これはさすがにあたしたちも与えてもらっている。」
「飲み物は必要だけど、別に食べ物は月に一度パン一つだけでおなかがふくれる。そこがこの惑星の人間と全く違うことかな。つまり、あたしたちと個々の人間の体のつくりは違う。ということさ。理解できたか?」
「馬鹿にするな。それで、何でここに来たの?」
「さっき確かあの七夕伝説は本物の話だといったよね。覚えている?」
「うん・・・・んん!本当の話なの?本当の?」
「ああ。そうだよ。話は覚えていたけど内容を理解していないのかい・・・・本当に大馬鹿だね。」
「ひどい・・・・・・俺、そんなに馬鹿?」
さすがに大馬鹿、大馬鹿と言われグサッと心臓刺されんばかりの痛みが走る。鉄平はうなだれる。
「馬鹿だね。」
「大馬鹿。」
陽と織姫、全く鉄平のことを思っていない。考えてもいない。まぁ、そんなのじゃないとこんな発言できないか。鉄平は一つ溜息をついて、気持ちを切り替える。もう馬鹿言われても、気にしないことにした。
「本当なんだよね・・・・・七夕伝説。」
鉄平は探るように聞く。
「本当だよ。昔々あるところに織姫と彦星がいました。二人はある日恋に落ち・・・・。」
「その説は知っているから、省いて。」
「おや、大馬鹿なのによく知っているね。じゃあ七月七日一度だけ会えるって話になった続きから言おう。一度しか会えないのをあたしたちは守っていたよ。四年くらいは。」
「短い!」
「愛する人に年に一度しか会えないんだぞ!考えてみろ。我慢できるか?」
「はい。続きをどうぞ。」
あまりの迫力に後ずさる。
「その五年目くらいかな?我慢できなくなったあたしたちは別の惑星に駆け落ちしちゃったんだよね。すると、あたしの父親天帝、本名霧楼は、怒り、そして、駆け落ちしたあたしたちを取り戻そうとして、惑星一つ分ぶっ壊した。」
「はぁ?そのお父さん神様?」
「似たようなもんよ。天帝はそのあとあたしたちを許してくれたんだけど、また駆け落ちしちゃった。」
「馬鹿だろ!」
「あぁ!」
「すいません!」
すぐに鉄平は謝る。織姫の迫力もそうだが、見ためとのギャップにやられる。七夕伝説の織姫はもっとかわいらしく、おとなしく、清楚なイメージだったのに、こんな強情な性格だとは思わなかった。鉄平は小さく織姫が見えない場所で溜息をついた。怖すぎて、言い返すこともできないし、意見することもできない。
「それで、その駆け落ちは成功したかなと思ったんだよね。さすがに四〇〇年も続けりゃ。でも来ちゃったよ。天帝が。」
「ちょっと、待って。四〇〇年ってどういうこと?」
「あぁ、あたしたちが住んでいる星の平均寿命は5千年くらいかな。」
「ご、五千年!」
鉄平はびっくりしてあんぐり口をあげた。人間の何倍生きるのであろうか?鉄平はあまりの数字の大きさにごくりと息をのむ。
「またその惑星壊しちゃって。惑星が膨張して爆発なんて話はあるけど、人工的に惑星を破壊したら、ほかの星々に関係はないから、うちの父親すぐ気に入らないことがあると、バンバン壊しちゃうから。それで、まぁさすがにこれには天帝も堪忍袋の緒が切れた。彦星君を勝手に牢屋にぶち込んで、八〇〇年も閉じ込めた後、あたしと別れると言ったら、出してやるって言った。すると、彦星君かっこよくて、いやだって、断ってくれて、とっても嬉しかったなぁ~。」
だんだん織姫の声が甘い色になり始めている。よほど愛し合っているんだなこの二人。と鉄平は思う。
「織姫さん、早く続きを。」
先ほどまで織姫の話を淡々と聞いていた陽が溜息をついて、先を促す。織姫はハッと我に返り、続きを話し始める。
「怒った、父、天帝は、彦星君に死刑宣告をした。」
「それだけで?」
「うん。でもさすがにあたしもあんたと同じ気持ちだった。どうして、そのくらいのことでと思ったよ。だから、父に頼み込んだ。もう一度、もう一度だけ、許してやってはくれないかとね。そうすると、父は、一つ条件を出してくれた。元来私たちの『人』は願いを叶える能力を持っている。だから、その能力を使って、毎年都合よく願い事しているある星の『人』の願い事を十万個叶えたら、許してくれると。そこで、あたしは立ち上がったてわけさ。」
「ちょ、ちょっと、待った。えっ?じ、じゅう、じゅうまんこ?」
「うん。それも期限付き。」
さらっと織姫がおそろしいことを言う。
「その、期限って何年間くらい?」
「8年。」
「は、は、はぁ、八年?」
あまりの衝撃に鉄平はひっくり返りそうになり、あわてて、手をつく。ブリッジの体制になる。そして、そこからまた直立にもどる。
「体、やわらかいねぇ。」
織姫は全く鉄平が驚いていることに興味がないのか、全然関係ないことを言う。鉄平はそんな織姫を無視して、身を乗り出す。
「ど、どういうこと?十万個の願いを8年で叶えるということ?」
「おっ、大馬鹿ななのに珍しく物分かりが早い。つまり、そういうこと。」
「そんなのんびりしていて大丈夫なの?だってさ、8年しかないんだぞ。どんどん叶えないと・・・・。」
「それが、そう簡単にいかないんだよねぇ。」
織姫を陽は同時に溜息をつく。
「天帝は簡単に願いを十万個叶えないよう難しい条件を与えたんだよ。」
鉄平はピンときた。おそらく陽が自分の願いを叶えられないといったのはそういう意味ではないのか。つまり規定というのは天帝がだした条件のような気がする。
「全部で五ヶ条あって、
1 彦星が死刑宣告を受けてから、8年以内に願いを十万個叶える。
2 人の欲望を叶えてはいけない。
3 頼っていい人間は十人までとする。
4 勝手に人の寿命を延ばさない。
5 無理矢理勝手に願い事をつくらせて叶えたりしてはいけない。
以上。
また出てくると思うけど。」
「黙って聞いてたけど、聞きたいことがあるんだけど。一つ質問していい?」
「いいよ。大馬鹿。」
「いちいち大馬鹿、大馬鹿言うのそろそろやめてくれないかなぁ。名前か苗字でちゃんと呼んでほしい・・・・。」
「ぶつぶつ唱えてないで、さっさと質問言え!アホ!。」
織姫が鉄平の耳をひっつかんで大声で言う。
「頼っていい人間というのはどういうこと?」
「ああ、それね。あんたは私たちが一人で願い事を叶えたりしていると思っている?」
鉄平は首を縦に振る。ただ、陽が願玉だの叶後だの言っていた気もするが、まぁ気にしないでおこう。
「しかしながら、人間の願いは一言いうなら、『宇宙人には理解不能です。』ということなんで、人間つまりこの星の人に頼むというわけよ。それで願いを叶える。」
「どうやって?」
「まぁ、待て。ただの人間だったらいいわけじゃいけない。どうせなら頭のいい人間がいいわけだ。なぜだかわかるか?」
鉄平は先ほどから大馬鹿だの情緒不安定だのアホだの散々罵られてきたため、理由はすぐにわかったが、首を縦には振らなかった。自覚したくないからだ。
「馬鹿は困るんだよ。人の願いを理解できないから。間違えて五ヶ条の願い叶えてみろ。彦星君は即処刑だよ。だから、四〇〇点満点中一八九点の奴なんざこんな話したくねぇんだよ。」
「それ、俺だよね。」
「他に誰がいる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
鉄平は織姫の鋭利な刃物のような視線を鉄平に向ける。四〇〇点満点中一八九点は悪魔みたいな数字だとでも思ったのであろうか。ただし、鉄平は馬鹿と言われても馬鹿じゃないと言い返せないから、黙って下を向く。
「気持ちだと思うけどなぁ・・・・。さっきわかったことだけど。織姫さん、これまで僕たちがスカウトしてきた『頭のいい』子たちでやまてつみたいな子ってたぶん一人しかいないよね。よく考えればその子が願いを叶えた数ってほかの子たちに比べてダントツだったよね。」
また黙って聞いていた陽が口を開く。冷静物事言っているためか、小柄だとは思わなくなってきた。
「うん・・・そういえば確かに。全国模試全国二位の実力者だけど、この大馬鹿と性格を似ているね。賢いから全然気にしていないけどさ。」
「織姫さん、だから僕は頭いいだけじゃだめだと思うな。織姫さんの言う通り頭のいいがよくて願いを願いと簡単にわりきれる子をそろえれば冷静に判断し、願いを叶えられると思うけど、もし願いが叶えられなければすぐに捨ててしまう。いい言葉言うなら、割り切るだけど。全国模試全国二位は、叶えられない願いでもすぐには捨てようとはしないで、叶えられる範囲で、願玉の内容を言い換えしたよね。それと一緒。やまてつもいつか同じことしそうだなと思って。願いを多く叶えるものは、その人の気持ちをくみとって、いかにマイナスをプラスに変えるかと思う。」
織姫は意外だったのか口をあんぐりあける。
「アンタ、変わったね。」
「さっき、投げられて、とっても気持ちがこもってて・・・・あぁ何だろうね。もっと意思を尊重してもいいかなと思って。天帝様はそうは言ってなかったから、そう思っていたけど違うって否定する僕がいたことに気付いたのかもしれない。織姫さん、やまてつに早く続きを。」
「えっと・・・どこまで話した?」
「ご、五ヶ条?それを守らなければ、彦星は即処刑ていうところまでかな。」
「わかった。願い事は人の気持ちの強さによっては体内からでて人魂みたいにその人の肩にのっているときがあって、それはあたしたち人魂をとれるんだけど、そんなのほとんどないからさ、やく九九パーセントは体内にある。でもあたしたちはとれない。とうわけで、人間にその体内人魂をとる方法を教え、協力してもらう。あっ、人魂っていうのは、私たちの用語で願玉というわけさ。」
そこまで聞いて、鉄平はまだ自分が玄関先にいることに気づく。
「あがっても?」
「いいよ。たぶんまたすぐに出ると思うけど。」
織姫の言っていることは理解しかねたが、とりあえず、サンダルをぬいで、畳に座る。ただし、普通にあぐらをかこうとしたら、織姫に正座しろとしつこく言われたので、正座をする。
「他には?まぁ質問は一つって言っていたけどさ。」
パッと頭の中に母の笑顔がうかぶ。鉄平は一つフゥと息を吸って、母のことをいう決意を固めた。
「大馬鹿ものそれはダメだね。その願いは残念ながら無理だね。」
えっ、と鉄平は目をぱちくりさせる。何で、無理と先にわかってしまうのだろう。
「織姫さーん。本日二度目ですいい加減やめてください。それ、一日一〇回以上使うと、織姫さんの彼死の死は一年早くなってしまいますよ。」
「うっ・・・おい、大馬鹿もの!さっきも五ヶ条で言っただろう。『人の寿命は勝手に延ばすな』とな。お前の願いはその部類に入る。」
「・・・・・。うん。わかった。」
「ずいぶんはやく理解するね。」
「ハハ・・・。」
鉄平は笑いでごまかすが、やはり母の命はもう死への道のりを進むしかないんだなと思い、割り切れない部分があった。まぁ母の健康永遠してくださいということはそもそも傲慢だったのだ。そう、そんなのもとから叶えられないものだったのだ。しかし、もしかしたらと思って、織姫や陽に頼ってしまった。期待もしていた。そんな甘いものではなかった。
「やまてつ・・・・・!」
気づいたら、目から塩辛いものが出てきていた。しょっぱい。
「ハハ・・・・ハハ・・・。」
「無理しなくてもいいのに。案外馬鹿の割にはしっかりしているよね。」
何も考えられない。ただ母の笑顔や母と過ごした思い出が脳裏に浮かぶ。あぁ何でこんな胸が締め付けられるのだろう。なんでなんだろう。まだ一二歳の鉄平には理解しがたい気持ち。
「落ち着け。・・・・無理か。無理だよな。」
「織姫さん・・・・。」
織姫はもう何年も彦星に会っていない。鉄平以上に寂しいはず。同じように仮ではあるが愛する人の死を宣告されている。しかし、鉄平には理解できない。そんなの知らない。
「鉄平!」
陽の矢のような鋭い言葉が鉄平の体に突き刺さる。涙を拭いて陽を見ると、鋭いまではいかないが、眉をかなりあげて鉄平を見ていた。
そして、陽は鉄平の襟首を右手で持ち、背中から、鉄平を壁にぶつけさせた。鉄平は背を壁に接触させながら足が数センチ浮いた状態になる。
「お前ひとりじゃねぇんだよ!苦しいのは。僕は確かに両親もいるし、弟や妹もいる。平和に暮らしている。それでもな苦しいよ。僕は・・・・僕は・・・・・織姫さんだって・・・・・あんただけ泣けるのは反則だ!」
「陽!その辺にしとけ。それより、今から陽、お前を叶児としての命与える。鉄平、叶児というのは願いを叶えられる子供たちなんだ。さっきは我々の一族は願いを叶えられるなんて言ったが、二〇〇〇歳を超えないと無理なんだよ。しかし、訓練したら叶えられる。叶児はそうやってできるんだ。陽も天帝を師として、叶児となったんだ。陽!よく聞け!今までお前は優秀だか天帝のせいで人の気持ちを読み取れないかった。それで叶児としての命を避けてきたが、今日初めての命を与える!」
陽はパッと鉄平の襟首を持っていた手を放し、立膝を織姫の前でつく。鉄平は畳に勢いよくしりもちをつく。
「我が主織姫よ、我に何なりとお申し付けを。我は主の体の一部。我は主と一心同体。主は我の父母なり。」
陽がそう言うと、スっと織姫は手を陽の頭に乗せた。
「そこの少年追山鉄平とともに、人間の願いを一つ叶えろ。」
「うっ・・・・。」
陽が思わず声を詰まらせている。さっきあんなことがあったばかりだ。ともに人の願いを叶えるなんて、難しいことをうんと簡単に言えるものか。
「どうしたかできないのか?さっきは僕はこいつと一度組みたいとか言っていなかったっけ?」
織姫が思わず口角をあげているのがわかる。わざとやっているのが、わかる。
「で、できます!四〇〇点満点中一八九点の奴でも情緒不安定のやつでも馬鹿な奴でも僕はどんなにアホなやつでもペアを組めます!できます!」
絶対に鉄平のことだ。全て鉄平に言ったことではないか。鉄平は自分自身に呆れてしまう。
「よろしい。・・・・・・じゃあ行ってらっしゃい!」
さっきの真剣な表情とはうってかわり、満面の笑みもとい何かを企んでいるような笑みで織姫は手を振る。
「いくよ。鉄平。」
「えっ?やまてつじゃ・・・・。」
「鉄平だ。行くよ。早くしないと、ここ閉められるから。門限午後四時なんだよ。」
「本当に願いを叶えに・・・・?」
「あたりまえだよ。何言ってるの?それに一度君と組みたいといったの僕だし・・・。」
「わ、わかった。」
本当はよくわからないが、とりあえずうなづき、あのまたパカパカするサンダルを履く。陽が先にでてしまったため、鉄平は慌てて飛び出すのであった。靴をパカパカ鳴らせながら。
続く
次回予告
少しギスギスしながら進む二人。ケンカもしたり・・・・果たして、願いを持った人間を見つけられ、見事に叶えられるのだろうか?次回をお楽しみに!
-あなたの願いは羽を伸ばして天に届くー




