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七夕秘密結社  作者: 常盤野信乃
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別れの宣告と出会いは突然に

「奥様の寿命はもって半年かと・・・・。」

 鉄平はその言葉に耳を疑った。母のためにカーネションはひらひらと宙を舞い、地面にポトリと落ちた。

 鉄平は母が入院している総合病院にいる。もちろん母を見舞うためにである。母がいる病室へ行こうとしていた時だった。カーネーションを手に持ちながら病院の廊下を歩いていたら、横目に診察室にいる父の姿が映った。今日、父は休日出勤だとか言っていて仕事にいっているはずだった。父は嘘をついたためにスーツ姿で医師の話を聞いていた。医師の指先は何やら画面をさしていて、会話に「奥様」ということを言っていることから母の容体について話していることがうかがえた。

 医師にも父にもばれないようにそおっと二人の会話を聞く。最初はよくわからない専門用語ばかりで理解できなかたったが、最後に医師が放った言葉は12歳の鉄平にもよくわかった。

「もうこれ以上は延命治療を施すくらいしか・・・・奥様の寿命はもって半年かと・・・・ですから、奥様と息子さんとよく話されて決めてください。」

 地面にポトリと落ちたカーネーションは花びらの形がくずれて、花の形を形成していなかった。しかし、鉄平にとってはそんなことどうでもよかった。母は本当にあと半年しか生きられないのだろうか。鉄平は気づいたら、診察室に足を踏み入れていた。

 おそらく足音が二人に聞こえたのであろう。医師は鉄平へと顔を向け、父は後ろを振り返ってわが子を見たのだった。二人の表情は対照的だったが、頭の中で考えていることは同じだと察せられた。医師はあくまで冷静な表情をしているものの、目の奥は焦りが募っていた。父はあんぐり口を開けて、大きく目を見開けて、わなわなと体が震えていた。この話はあとで鉄平とするつもりだったのであろう。まさかここで鉄平が聞いているだなんて思いもしなかっただろう。父も医師も話に夢中だった。

 鉄平が足を踏み入れた病室は薄暗く、医師が父への説明に使っていたモニターがよく見えるようになっている。鉄平にはそれが何を示しているのかはよくわからなかったが、とりあえずあれは母の容体が急変したことを伝えているのはわかった。相変わらず二人は鉄平を黙ってみている。

 鉄平にも父と医師の気持ちは理解できた。だが、鉄平は我慢ができなかった。不安と恐怖の質問を医師と父にぶつける。

「母さん、死ぬの?」

「鉄平、まだ死ぬと決まったわけではないよ。鉄平、今の話聞いていたのかい?」

 鉄平は父の質問に黙ってこくりと首をゆっくり縦に動かす。父は一つ小さくため息をつく。

「鉄平、いいか?落ち着いて聞きなさい。半年前母さんは体調が悪くなって病院に行って緊急入院だった。実はそれは母さんの体に悪性のガンが見つかったんだ。父さんも嘘だと信じたがったが、次、病院に来た時にはレベル3だと宣告された。実は手術もしていたんだ。しかしね、もう体中のいたるところにガンが転移していることを言われたよ。そして、もう母さんは延命治療を施すしか助かる道はないとも言われたよ。」

 最後の一言父は顔を暗くして下を向いた。鉄平も嘘だと心の中でつぶやき、驚いたというよりは雷に撃たれた衝撃のようなものが体全身にはしり目を大きく見開けた。

 鉄平はその場に立ったまま動けなかった。動けるはずもなかった。詳しく母の容体を聞きたい。どうしてあと半年なのかも。専門用語をたくさん言われてもいい。そして一番言って欲しい。「お母さんは大丈夫ですよ。助かります」と。

「鉄平、母さんは一週間後退院するその時に話そう。久しぶりに家族で夕食を食べよう。しゃぶしゃぶがいいか?それともすき焼きがいいか?どっちがいい?」

 おそらく父は鉄平のことを思って言ったのだろうが鉄平にはそんなこと考えもしなかった。欲しいのはひとつだけ、「母の健康」。家族でわきあいあいと久しぶりの食事だの想像しても、楽しみにはなれなかった。鉄平には父の目がとても理解できなかった。父の目は確かに鉄平を心配してしてるように見えるが、母の心配はなかった。目の前にいる鉄平しか見ていなかった。父は鉄平は母のことによって、心に傷を負った。だから「自分が何とかしてやらねば」という表情をしていた。

 その目に鉄平は怒った。父は母よりも鉄平をみている。鉄平が深く傷ついたことを母親のせいにしていると感じた。母は悪くない。もちろん父も母のことを悪くは思っていないだろうが、しかし鉄平には父が母のせいにしているように感じられた。

 鉄平は優しく微笑む父の表情をかき消すがごとくじろりと睨んだ。鋭く目をとがらせ、突き刺すような視線で父を見る。さすがにこの表情に父も驚いたのか一歩さがる。優しく話しかけたというのに息子にこんな表情をされるとは思わなかったであろう父は腹が立ったのだろう。鉄平と同じような目つきで鉄平を睨み返す。しかし、鉄平は全く怖気づかなかった。むしろ、さらに怒りが増した。本当に母のことを気にしていない。一歩鉄平は前に出て、目つきを変えないで上目で父を見やった。

「お父さん、息子さんの気持ちも考えてやってください。」

 今まで黙っていた医師が二人の視線の攻防に口で割り込んだ。医師の目はただまっすぐと父をみているが、どことなく鉄平の気持ちを理解し、父への怒りを持っているように見えた。父はまさか医者までそんなことをするなど思っていなかったらしく、困惑した表情で息子と医師の顔を交互に見やっていた。

「先生、でも・・・・。」

「何が『でも』何です?お父さんわかってください。今は家族だんらんの話よりもお母さんの話をするべきでしょう。あなたの態度は息子さんにはとても理解できなかったです。ご自分の頭でどういうことを考えていたのかもう一度模索してください。そして、ちゃんと家族で話し合って、どうするか決めてください。私も次の診察があるのでここで親子ケンカされると迷惑なので外でやってください。」

 医師はそう言って、診察室から鉄平親子を出した。鉄平は廊下に落としたもう花の形をもたないカーネーションを地面から優しく拾い上げた。もちろん散った花びらもだ。これを拾った瞬間鉄平自身も自分に腹が立った。

 父は母を思っていなくて自分は母を思っていると今の今まで思っていたが、母のことを思うのであればなぜこんなことをしたのかと思った。母へ渡すためにこのカーネーションを買ったのに意味がない。こんな汚い花をあげられるはずもない。母のことを思うのであれば母のために買ったカーネーションを残すべきだ。少なくとも鉄平はそう思った。 

 母に会うべき顔がない。身勝手に鉄平はそう思ったのだ。鉄平は花を渡すとより父の胸へ押し込み、病院の廊下を思いっきり走った。何も見えなかった。

 気づいたら病院を出て、どこにいたかといえば、家の庭だった。鉄平は持っていたカギを家のドアのカギ穴に差し込む。家へ入ると、勢いよくドアを閉め、カギを閉めた。そのまま崩れるように玄関に膝をついて、玄関から上がるところで両腕を重ねその中に顔をうずめ、思いっきり泣いた。12歳にしては子供のように思いっきり泣いた。何も考えずに泣いた。ただひたすら泣いた。

 

 ドンドン、ドンドン、ドンドン・・・・・

 やけに激しくドアをたたく音で鉄平は目を覚ました。どうやら泣きつかれて寝てらしい。靴は脱ぐこともせず、体制も変えることもしていなかった。鉄平はおもむろに立ち上がると、ふらふらと、ドアのについている小さな窓に目を近づけた。もちろんこの窓はドアの奥にいる人物を見るためである。

 ドアの奥に映っていたのは父だった。すごい剣幕だ。目つきは鋭いし、顔も全体の筋肉がこわばっている。これはドアを開けた瞬間首根っこをつかまれ、ものすごい近距離で唾とともにたくさんの怒りの言葉が耳につきさされるだろう。想像しただけでも身震いする。

 しかし、開けないのはもっとまずい。仕方なく鉄平はそろうりとカギをあけ、そのままダッシュで2階の自分の部屋へ向かった。そして、ベッドに駆け込み、布団を自分の体全体にくるませた。そして、恐怖に体を震わせた。さっきの威勢のよさはどこへいったのやら。

 ぶるぶると身を震わせながら、父の2階へあがる足音を待っていたが全く聞こえず、不思議に思い、布団からそうっとカタツムリのように頭と首だけ出すと、もうそこにはうなだれてれている父の姿があった。地べたに正座している。いったいここまでどうやって足音を鳴らさずに来たのかわからないが、とりあえず父の怒りはないことだけはわかった。

 鉄平は父に話しかける気はなどなかった。反省してくれいるのだったらそれはそれでこのままにしておきたいため、そのままベットに寝転がり、目を瞑った。母との思い出が鮮明によみがえる。

 母はもともと体の弱い人だった。いつもいつも大切な時には風邪や熱など体調を壊し、運動会や授業参観に来てもらったためしがない。しかし、確かに鉄平は信じていた。いつか母が学校行事に来てくれることを。それが叶ったのは2年ほど前のことだろうか?母はいつになく元気で、いつもは体の弱さのせいかのろのろ家事をやっていたのにその日だけはテキパキと家事をこなしていた。いつもの母をみていると、これは現実なのかと疑いたくなったものだ。

 その日は授業参観があった。「今日は行けるよ授業参観」と言われたときどれだけ嬉しかったことか。みんな鉄平の母がいることにびっくりしていた。親が授業参観に来ることを恥ずかしく思う子もいるかもしれないが、鉄平にとっては母がいる安心感に包まれていた。そして、いつも自分の体調を気にしなくてはならない母がその日に限って鉄平をみてくれていることがとてもうれしかった。

 しかし、その日以降母があんなに元気になることはなかった。父はそんなこともあるさと言って、鉄平はとても悔しくてベッドの中で大泣きした。

 鉄平は寝転がりながら落胆してる父に背を向けて寝返った。あの時の願いは「母が学校行事に来てくれる」ということだった。しかし、今はそんな軽いものではない。「母の健康」いや、「母の永遠の健康」だ。叶うものなら叶えてほしい。

 確かに母は自分の体調せいで鉄平にたくさん嫌な思いをさせていたかもしれない。だが、それでも、それでも自分のおなかを痛めて生んでくれたのである。それでもう一生分の恩を頂いているようなものだ。出産というのは母にも多大な負担とストレスをあたえる。それにたえて鉄平を生んでくれたのだ。それで十分だ。そして、母は母なりの愛情を鉄平に注いでくれた。なのに、鉄平は何もしてやれない。

 母は自分の伸長が鉄平に遺伝したことを悔いて小柄でも大柄なやつと戦えるように合気道を習わしてくれた。そのおかげでというのは大袈裟かもしれないが、でも確かに合気道を習っているといっただげで大柄なやつは鉄平を馬鹿にはしなかった。

「なぁ、鉄平・・・・。」

 父はか細い声で鉄平に話しかけてきた。鉄平はもちろん無視する。こんな奴かまうもんか。

「鉄平・・・・母さんとちゃんと話そう。お前も。父さんが悪かった。なぁだからさ。」

「父さん、自分のどこが悪かったと思う?」

「母さんを思わないこと・・・・さっきの父さんは確かにお前のことしかみていなかった。母さんのことをなぁんにも考えていなかった。」

「そうだよ。ねぇ、父さん。母さん本当に死ぬの?」

 父が反省していることは確かだった。声とともにひしひしと彼の罪悪感が心に伝わってくる。やはり鉄平には母の容体は信じられなかった。もう一度確認という名の不安を父へぶつける。

「母さんは・・・・・・。」

 父はそれ以上何も言わなかった。いや、おそらくは言えなかったのだろう。鉄平は父の気持ちを理解しつつ、ゆっくりベットからおりた。どこか罪悪感と寂しさにくれた父を放って鉄平はリビングに行く。鉄平の家は父が30年ローンで買ったマイホーム。3LDKの家である。

 広く間取りがあるリビングの奥にあるキッチンの冷蔵庫からお茶を一杯飲む。まだ心の中のもやもやは消えていないが、とりあえず勢いよく飲み干す。そのまま鉄平は家を飛び出した。

 靴は適当に今日はいていたものではなくサンダルで鉄平の足より数倍大きく、いちいちパカパカ鳴っている。さすがにこれは恥ずかしいなと思いつつ、家へと引き返そうとすると、土手の下の川に目が留まった。悠々と流れ、光で反射しキラキラと光っているその川はよく母と行った川であった。

 母はあの時ほど体調がよかった日はなかったが、たまに外出するくらいなら大丈夫な日もあった。そこでよくこの川に遊びに行っていたものだ。母何もせずただ土手の階段に座って、鉄平を見ているだけ。鉄平はいろいろと遊んでいた。たまに川に誤って入りそうになると母は必死で弱い体で鉄平を川から引き離していた。そんな思い出が頭の中を駆け巡る。

 鉄平は無意識に土手を降りて、しゃがんで、両足を両手で組む。そして、川のせせらぎを見る。自分の情けない顔が水面下に映る。

 鉄平の顔は父にも母にも似ていないと言われる。クリッとした大きくもなく小さくもない目に薄い唇鼻は低めである。顔は日本人顔の丸顔。そして、童顔である。父も母も鼻筋が通っていて、鼻は高め。さらに輪郭は丸顔に若干近いのは母で、父は全く丸顔ではなく細長い顔のつくりである。

 鉄平は一人そんな情けない自分に溜息をつく。何でこんなことになってしまったのか。鉄平だって母に何にもしてやれていないし、もっと子供として甘えたかった。でも、本当に母はもう、あと半年で死んでしまうのだろうか?この世から消えてしまうのだろうか?

 そんなの嫌だと思う感情が溢れ、ついには涙が出てしまう。しかし、不格好だから頑張って抑えようとして、唇をかむもやはり大粒の涙がぼたぼたと零れ落ちる。その涙は川の中へボッチョンボッチョンと音をたてながら入っていく。ああ、情けないと心中で思っていてもやはり止められなかった。さっき泣いたばかりなのに。

「君、なに泣いてるの?」

「うるさい。ちょっと黙って。」

「え~。やだ。」

「黙ってよ!・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」

 鉄平は思わず顔を声のする方向へ顔を向ける。

 そこには、鉄平より小柄で、水色の柄がないシンプルの胴着みたいなものだが、袖のほうは肘より少し短い。黄色の細い紐を胸のあたりで胴着がはだけないようにくくられている。剣道みたいにチョウチョ結びではなく単に真結びが一回下だけの軽い結び方である。袴は灰色で、袴の下の部分を足のくるぶしに織り込んでいる。肩の胴着みたいなものは切れ込みがあってその下から青色の生地が見えている。まるで奈良時代後半から平安時代の服装だった。髪は現代の少年位の長さである。

 大きく開いた瞳に薄い唇、顔は丸顔で饅頭みたいである。しかし、体系はぽっちゃりとはしていない。

 こんな服を着ていればどこを言っても浮くだろうに、町行く人々はそんなコスプレを気にも留めていない。

「君、どうして泣いていたの?」

「それより何でそんな服着ているの!絶対変だから。あと、馴れ馴れしくしないで。俺、君のこと全然知らないから。俺が泣いていた理由は悲しいことがあったから。お前誰だ!」

 母の死によって悲しみに暮れていた気持ちは、目の前のコスプレ少年がケロッとしてこの場にいることのほうが不思議でたまらないという気持ちに切り替わる。

「僕は、陽!君は?」

 先ほど泣いていた少年にこんな元気な挨拶をしていいものかと思ってしまうくらい、陽の自己紹介はきはきとしていた。思わず鉄平はうなだれる。本当にこの少年は人の気持ちを理解するということができないのか。

「何でそんな困った表情しているのさ!さっきは泣いていたり、今度は首を垂れてさ。君、情緒不機嫌なの?」

 全く人の気持ちを理解していない。何をどう思ってそう理解されるのか鉄平自身よくわからない。

「君の名前教えてよ。君の願いを教えてよ。」

「はぁ?」

 思わず上ずった声をあげてしまう。願いを教える?何馬鹿なこと聞いているんだと鉄平は思う。今日会ったばかりの人間にはいそうですか僕の願いは何とかですという風に教える人は世界中を見回してもほぼいないだろう。

「何したいの?お前?」

「君の名前が知りたい。」

 一貫してそれであった。思わず変なことにあきらめの悪さが光ることに鉄平はおもわず溜息をつく。鉄平もこれくらい信念を曲げないようにできるだろうか。多分無理だ。

「追山鉄平。」

「やまてつはどんなことが叶えられればいいなって思ってる?」

 勝手にあだ名を作られている。そして、今日初めて会って、明らかに鉄平は年上に見えるはずなのに馴れ馴れしい。

「ねぇ、やまてつ聞いてる?」

 お前のほうだろ。人の話を聞いていないのは。心の中でツッコミを入れた。

「やまてつ、願いは何?さっき泣いていたから悩みあるよね。その悩みを願いに変えて、僕に願ってよ。叶えられると思うから!」

 頭がおかしいのかこの子は。願いを叶えられる?神様かなんかなのかこの子は・・・・・。

 鉄平は唖然としてポカンと口をあける。

「ねぇ、願いは?」

 陽は身を乗り出して、こぶし一つくらいの顔と顔の距離になる。正直言ってとても話しにくい。

「早く言ってよ。」

「ち、ちかい・・・・・えっ、と、俺の願いは・・・・・。」

 のどの奥まで言葉が出そうなのにつっかえる。本当にこんな子に言っていいのかという気持ちがくる。

「あぁー、どうして叶児かなご願玉がんだまを手に入れることができないの!どうして人間の願いを勝手に聞き取れないの!」

 ふいに陽は近い距離だった顔を放し、川のほうへ顔を向ける。そしてサラッと結構びっくりするようなことを言う。というより、この子が話している内容が理解できない。

「あのさ何?願玉がんだま叶児かなご?」

「やまてつの願いを教えてくれたら全部教えてあげるからさ!」

 ごくりと鉄平は唾を飲み込む。聞きたいという欲にかられる。昔から好奇心はあまりなかったが、この話は聞きたい。よくわからないコスプレ少年がどうしてこういう格好をしていることがわかるなら・・・とも考えられるがやはり母の命に関することをこんな少年に話していいのだろうかという気持ちも出てくる。

「絶対叶える!やまてつの願い!」

 陽のまぶしいくらいの瞳に鉄平は吸い込まれる。もし、母の命がこの子によって救われるなら・・・それはとても願ってもいないことだ。鉄平は意を決して口を開く。

「俺の願いは母さんが死ぬまで健康でいるとこと。もう母さん、余命半年なんだよね。」

「あっ、そりゃ無理だわ。ごめん。じゃあ。」

「へっ?」

 陽は先ほどのまぶしい目とうってかわって、何かを突き刺すような冷たい目で何かに失望したような目であっさり無理だと言って、鉄平から去ろうとする。

 人の願いをあっさりとそっけなく断り、自分は無理だからどうでもいいという目で人前から去ろうとする。その人がどんな思いで願いを持っていたかということも聞かず、約束も守らない。・・・・本当に人の気持ちを理解しない野郎だ。願いってそんな軽いものじゃない。人にあっさり言えるものじゃない。鉄平は心の中からふつふつと激しい怒りが舞い上がる。

「おい!なんだよ!それ!」

「だから、僕には無理って言っているのだけれど?」

「おかしいだろ。俺の願いを話してくれれば、自分のこといろいろ話してくれると言ったじゃないか!それに、お前は人の願いどう思っている?」

「怒っているの?君?」

 陽はわけがわからないと言いたいのか、眉間にしわをよせる。そんな陽にさらに腹が立つ。

「俺の質問に答えろ!」

「だってさ、僕には叶えられない。・・・・いや叶えることはできるけど・・・・。」

 陽はふいに申し訳なさそうな目をする。目線は下を向いている。

 それよりも鉄平にしてみれば、叶えられるのに叶えられないということに腹が立った。何で?という言葉がずっと脳みそに繰り返される。

「何で無理なんだよ!何で!」

「それは、規定なんだよ。それだけさ。」

 陽はそれだけ言って去ってしまった。思わず鉄平は悔しくて唇をかむ。規定だから・・・?そんなのただの口実にしか聞こえない。そう、叶えられないことを隠すための口実に。

「人の願いはそんな軽いもんじゃない。」

 鉄平はそうつぶやき、まだ背中が見える陽の後を追う。こうなったら、自力であいつがどういうやつなのかを調べるしかない。本人の口からきくことは絶対できない。悔しいからという理由だけであるが。とりあえず鉄平は尾行する。

 陽が歩いていく方向は家の方向とは真逆だった。川を北に上っていくと。商店街が向かって左に見える。陽はその商店街へ入る。商店街を抜けると、住宅街が立ち並び、鉄平が通う小学校が見えてくる。小学校と一番近い家とのわずかな間を進み、見えてきたのはおんぼろビルであった。

 パイプの柱は今に崩れそうなくらいボロボロで、水道管もへこんでいる。人は住めなくないが普通は住めない。もの好きだけだこんなところに住むのは。

 靴はいまだにパカパカ音を立てていたが、車や自転車の雑音で消されていたのか、陽には聞こえなかったらしい。ビルの右端にあるむき出しになっている階段を陽が上っていくのを確認すると、鉄平も登ろうとする。しかし、靴がパカパカと音を鳴らすので、鉄平は靴をぬぐ。適当に履いてきたサンダルのため、その辺において盗まれても大丈夫だろう。そして、適当に家を出たため、はだしである。ゴミがあるところや、犬のふんがあるところを交わしながら、階段をのぼる。

 階段をのぼり終えると、トタンの扉があった。ドアノブがあるが今にも壊れそうである。そして、あまりにも古いため、部屋の会話は筒抜けである。そっとドアに耳をあてる。

「それで、どうだったんだい?その情緒不安定人間は?」

 ドアの奥から女の人の声がする

 話している内容はおそらく鉄平のことだろう。少し、鉄平は馬鹿にされて腹が立つ。

「無理。規定に反する。あー、都合よく見つからないかなぁー。規定に会う人。」

「そうそういないよ。そんなの。それより、陽、あんたまたその変なハイテンションで何かやらかしていないわよね。」

「えっ、怒らしたりはしたけど、別にいいでしょ。」

「よくなーい。現に今変なことが起きているんだよ!」

 女の声は声をあらげた。それと同時に自動でトタンの扉が開き、完全に体重をドアに乗せていた鉄平はそのまま、耳から地面に直撃しかけた。何とか手をついて、直撃をまぬがれた鉄平だったが、直後顔をあげたときの光景に目を疑った。

 そこには十二単に頭のてっぺんが、わっか二つ並んである髪型の美少女が高級そうなソファに座り、陽が壁にもたれていおり、天井にはシャンデリア、地面には畳といった和洋折衷な光景があった。

〈次回予告〉

 変な頭の美少女と変なハイテンションの陽の正体とは?そして、鉄平が来てしまっったおんぼろビルはとてつもなくすごいところであったが、とてつもなく大きなことを成し遂げようとしていた。


                             ―あなたの願いは羽を伸ばして天に届く―

                                       次回をお楽しみに!

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