ごはんっ、ごはんっ、でも
船が港に着いたといえど、密入国者たちが堂々と下船出来るわけもなく。
少数の仲間グループに分散させられ、それぞれが貨物用のコンテナの中に入り込まされる。
そして荷物として荷下ろしされるわけだ。
下ろされたコンテナは港内の倉庫にそれぞれ配送される。
輸送手段は馬車には文字通り荷が重いので、使われるは魔法原動機のついた輸送車だ。
舗装加工された港内敷地、その場専用の車は速度こそでないがトルクフルな力持ちである。
重いコンテナを易々運んでいった。
とある倉庫に運び込まれたコンテナ。
開封され、中からタローたちが現れる。
「よい人生を――」
ポーターのアンチャンが素っ気なく言葉を口にした。心底どうでもいい感じだ。
「うお、この地面の安定感。やっぱいいな」
「私はなんか身体が揺れてるような」
「ふふ、麻痺してた三半規管が逆に作用してるんじゃないかな?」
「そんなことよりご飯――」
四人それよう。
でも、チィルールの指摘はもっともだ。
まだ時間は昼前だったが、いつもの船の中では、朝ごはん兼用の昼食の時間はこの頃合いだったからだ。四人とも胃袋が養分を求めている。
「はは、でも、まだこの時間、店は開いてないよ?」
『えーっ!?』と三人の抗議。
「ええ?」後ずさりさせられるトロイ。
「なんで?」
「いや、だってさ、獣人って基本、夜行性だよ? この時間は彼らにとってはまだ明け方の早朝だもの」
「マジかっ!」
「お寝坊さんか! けしからんの!」
「だったら店主を叩き起こせばいいんじゃないですか?」
『……』
マフィア構成員のリリィーン、さらっと乱暴な発言。
「でも、まあ、開いてるとこもあるにはアルけどね?」
「じゃあ、ソコで」
「ふふ、その言葉に二言はないね?」
「あい(まーた、トロイさんがもったいぶった言い回しをする)」
「じゃ、いこうか。でも? 後悔しないようにね? ふふふ」
「あい(なにが、ふふふ、だ)」
トロイに連れられてご一行、とある場所に。
「ビールだーっ!! こっちにスタウト! 三つ!!」
「乾き物、もってコイヤ! ただし、イカはカンベンな?」
辺りからドッと笑いが起きる。獣人族の定番ギャグに定番に反応した獣人仲間だった。みんなそれぞれ個性的な耳を頭上から生やしている。
「こっちはピルスナー、四つだ!!」
「それと乾き物、イカでもいいぜ? チーズもよこしな!」
と、言ったのは人族の集団。
「ケッ! 甘いビール飲んでイカなんか食ってりゃ、ひ弱な人族の完成ってな」
獣人の軽口。『ハハハっ』と反応する仲間。
「んん? イカが食えない動物がなんか吼えてんぞ? イカみたいに旨いもんが食えないとかカワイそうになあ?」
人の軽口。『ヒャハハッ』と反応する仲間。
「あああっ!?」
「おお!?」
合い立つ両陣営、一触即発、険悪なムード。
「ココって?」
タローがトロイに問いかける。
「ああ、飲み屋だよ」
「飲み? 居酒屋?」
「そうだよ」
「なんで朝っぱらから?」
「っはは。だって彼らは漁師さ。早朝に海に出て漁を行い、仕事が終わる。今が彼らにとっての夕食の晩酌時間なのさ」
「はぁ(そういう社会もあるんだろうけど、どーすんのコレ? 修羅場じゃねーか)」
店を真っ二つに分けて敵対するマッチョな男集団。
巻き添えだけは避けたい。
ので、店には入りたくないタロー。
「じゃ、行くか」
チィルールが何事もなさ気に店に入ろうとした。
「アホか?」
タローが前に進んだチィルールの頭を後ろからワシ掴みした。
「な、なんじゃ?」
「なんで修羅場に特攻するの? かなーぁ!?」
「男同士のケンカなぞカワイイものではないか」
「あー、そうか! お前らは女で魔力あるもんな? いざとなったら魔法で防御できるもんな? けどさ、オレはどーなんのかな? メキメキマッチョのドタバタに巻き込まれてマキマキのモッキモッキにされるんじゃないかなーぁ? あァあー!?」
「お? オおぅ?」
「おぅ、じゃねー! お前、もうちょっとオレを労われや? なぁ?」
「無論だが?」
「はぁぁぁぁ……」
「なぜか?」
「お二人とも、そんな心配は杞憂と思われますよ?」
トロイが二人に割って入る。
「なんで?」
「なぜか?」
「だって、ホラ。起きて来ましたヨ? あの人が、くくく」
厨房の奥の通路からキシキシ、トタ、トタ、と物音がする。
誰かが近づいてくる気配。
普通ならそんな微かな物音聞こえる訳がない。
でも、店内静まり返り、その気配に集中している。
ヘンだ。乱闘寸前の状況だったにも関わらずである。
皆、その気配の方を伺っていた。
「なんね? 騒々しいことへ? 目が覚めてしもうよ……」
現れたのは寝巻き乱れた金髪翠眼の女性。
「お客はんたち、なんね? なんか不手際あったかえ?」
容姿は二十そこそこだが、趣きはアラサーの若熟女?
乱れた寝巻きから覗く豊かな胸の肉厚感。
ギャラリーの視線が集まっていることもお構いなしに揺らしている。
「店長ー、キター!!」
その場の客全員が『ウオーッ!』って、大はしゃぎ。
「キター!! を引用するなもし」
再び、『おオーッ』っとドヨメク店内。
「やれやれ、男衆はいつまでたっても乳離れできないイ子ものなんしな?」
その女性、自らの武器である豊かな胸をギャラリーに向かってタユンタユンって揺らして見せた。
見えるか見えないか、ギリギリの攻防。
角度によっては誰か見えた?
『おおおおおおおおお!!!』
ソレを見た男衆、大感動! もはやヒト族も獣人族も関係なく抱擁し合い、涙ぐんでいる。
それは当然だ。
なぜなら、このレアキャラである店長を誘い出す為に、毎朝、ケンカしあっていたのだ。
そしてついに、ようやく、ようやくなのであった。
「うおおお! 酒だ!! 祭りだ!! 今日は奢らせてくれ。ヒトのお前ら!」
「ふざけんな! 俺等こそ奢らせろ! こんな、いいもん、こんなぁ、いいもん、くっ」
「な、兄弟、今日は飲もうぜ?」
「――お、オオよ!!」
なんか種族を越えた友情が出来てた。
それは多分、男にしか分からない友情だった。
「見えたか?」
「いや、お前こそ?」
「お前は?」
「ちょっと、見えたような?」
「な! なにいい!!」
詰め寄る群集。ヒトの獣人も関係ない。
「え?」
「色は?」
「形は?」
「大きさは?」
「どんな味がしそうだったか?」
「お前の自分の乳首と比較して検討と考察、報告しろや!」
「あひゃ?」
その者、上着を引き裂かれた。
上半身裸。
「ひい? ――ひゃああああ!!」
そしてその発言者、群集に飲み込まれた。無事であれば良いが?
「あら? そこの?」
だが当の本人はあっけらかん。
「トロイなの?」
こちらに意識。
「やあ、久しぶりだね」
「ほんと、百年ぶりくらいカシラ?」
「んっふ! んふん・んふん? んふ!!」
「まあ。相変わらず、ですのね」
「それよりも! 食事したいんだ。ボクの仲間達がね」
「ボク? 一人称は、『我』ではなくて?」
「んーふうん!! うふん!!」
「変わりなくて羨ましいでありんす……」
「君こそ相変わらず、だね。その遠まわしな言い様。トゲを感じるね。嫌われそう」
「お互い様なんし」
「ははは」
「うふふ」
(お前らどっちもどっちだよ!)とタローは心の中で突っ込んだ。
居酒屋、店長として現れた女性。
金髪で翠の瞳で、耳が尖がってて、胸が大きいのはイレギュラーだけど、妖精の典型パターン、どう見ても『エルフ』でした。




