ルルーチィの漂流生活・暴走
覚醒ときたら暴走がお約束なのに忘れてました。
追加です。
というわけで今回も決着しません。
「ま、ふええええいいい!」(待てええいい!)
あさっての方向から、びっこを引きずる格好で走り、ヨタスタヨタスタ戻ってくるルルーチィ。
バランス悪くて制御できない右半身は見限った。
「……」
だが、もう茶番に付き合う気もなくなたった魔物リーダー、ギグくんを殺したあと、ルルーチィをゆっくりと弄る算段。攻撃を止める気は無し。
「ギャシャシャシャ!」歓喜の咆哮?
(ヤバイ! あと二手! 辿り着くには五手? ダメだ! せっかく覚醒したのにこれじゃ意味がない! 一手でアソコまでいかなきゃ! 加速しろ!)
右半身の力はダメだ。微妙な制御ができない。
だが、ルルーチィの意識に反応した器官が唯一あった。
(しっぽ!?)
ルルーチィのズボンから飛び出たしっぽ。
やはり異形の形。
強固そうな固体群が蛇腹状に連なっている。
(しかも、ちょっと長くなってるし! むふふーぅ!)
そのしっぽが青色の魔力を帯び、ムチのようにシナル。
『パン!』そして空間を叩いた。
空間を弾いた勢いはそのままルルーチィの身体を突進させた。
『ボン!』空気の弾ける音を響かせ、ルルーチィの身体は魔物リーダーに急接近する。
(激突する?)
凄まじい加速。このままぶつかったら右半身はともかく元々の左半身が耐えられない。
だが、さすがはしっぽである。
しっぽ、空間を掻き毟り、急ブレーキ。
激突寸前で止まらせる。
(しっぽ、よくやった! あとは私が!)
右手のツメを振りかぶる。
『ギャン!!』
黒い鎌みたいなツメ、魔物リーダーの背中に食い込む。
(だが食い込んだだけ!?)
そのキズ自体から魔力が緑色の光を放ち、治癒されていく。この魔物リーダーの治癒能力の凄まじさよ。
(このツメを持ってしてもか!?)
でも、撃破はできなかったが相手はコチラを意識。
振り返る。
『ゴアアアア!!』
「にゅ!?」
その咆哮は魔撃の乗った咆哮攻撃だった。
弾き飛ばされ宙に舞う。
でも間に魔法壁展開したからノーダメージだし。
(このツメそんな程度なの?)
弾かれ、その落下地点でツメ確認。
立派なツメに不信感。
「ガギャ!」
「キキキ」
「キャキー」
そこへ集まる魔物の群れ。
完全に囲まれている。
覚醒前なら一大事だった状況。
でも、いまなら、ちょうどいい。
適当にツメを振り回してみる。
『ドッドドドドーン』
あり得ないことが起こった。
ツメに触れた魔物達、ことごとく連続して爆発した。
(なんじゃコレ? 魔物が爆発した?)
普通、魔物が倒された場合、存在がアヤフヤな感じになって粉と光になって拡散する。
今みたいに暴散して黒い煙をあたりに立ち込めるなんてあり得ない。
(やっぱり、このツメはスゴイ! ということは、あの魔物リーダーがケタ外れに強いってことだ)
改めて警戒。
大軍団を率いているだけあって、やはり並の魔物ではない。
(まさかコイツ、本当に伝説の大戦で登場する将軍レベルの魔物?)
正面の魔物リーダー、まだ余裕のご様子。
(だとしたら、覚醒できたとはいえ、私一人でなんとかできるモンなのか?)
言い伝えによれば、将軍クラスの魔物討伐にはエース級の三個小隊による連続波状攻撃が必要とされているが?
(それならコイツの撃破は一旦、置いておいて、先に雑魚を一掃するか?)
今のルルーチィには可能な作戦。ただし、どうやってギイ家族を守るか? が問題。
(……やっぱ、コイツを壊すしかないわ――だってそうしないとギイさん家族が殺される)
魔物リーダーと対じする。
(彼らは大切な家族だから、私の宝物だから。壊させない。お前なんかにない)
ツメに青白い魔力の力が灯る
なんか『シャシャシャシャー』と笑い声? がルルーチィの口元から響いた。
狂喜の笑み?
(なんで? お前ごときが? 私の物を?)
異形の形をした右半面のルルーチィの顔、その右目が青く、蒼く、碧く光った。
(アレは私のものなのだ。壊すなら私がお前を壊す……壊す私が……壊す……私が……壊す……だって、アレは私のモノなんだから……私が壊す……私が壊し……たい!)
『シャシャシャーシャー!!』
襲い掛かる。しっぽで加速、突進。
ルルーチィのしっぽの加速は誰も反応できないレベル。
『ドガン!』と体当たりした。ただし、全身に魔法壁を展開している。
受け止めた魔物リーダー、さすがによろける。
『ゴゴゴゴアアアアア!!』と咆哮してきた。
『シャシャアアアアアア!!』と咆哮返し。
打ち下ろされる魔物リーダーの太い腕。
だが容易く右手のツメでキャッチするルルーチィ。
『ゴゴ……』
『シャシャシャ?』
魔物リーダー、手加減なく容赦なく追撃。
叩きつけ攻撃の連打。
『ゴン! ガン! ドガン!!』
だが、ルルーチィの防御を崩すことならず。
唖然とした様子の魔物リーダー。
『ヒャッシャシャwww』
反撃する。ツメの連続斬撃。
『シャキ・ザキ・ギャキ!』と掻き毟るが、致命的ダメージは与えられない。
(すげーっ! コイツ、ダメージ、無効かよ?)
攻撃するはしから、傷口が緑色の魔法色を発して治癒されている。
(一撃必殺が? 必要かよ? ひゃは!)
『ゴガガゴアアアア!!』
魔物リーダーの咆哮攻撃。
魔法壁展開、受け止めながら後退する。
(なんか? なんだろ? へんなんだけど?)
『シャシャシャーシャシャ』笑いがこみ上げる。
(なんか、メチャクチャ、たーのーしー)
それは、もはや誰かを守るための戦いではなかった。
闘争本能に従った、ただの獣の戦い……




