ルルーチィの漂流生活・覚醒
あと一回で決着するつもりでしたが一万字を越えてしまいました。
投稿間隔も開きましたし、なので、また分断投稿させて頂きます。
すみません。
内容はハードバトルです。ドタバタギャグ嗜好の方、閲覧注意です。
ルルーチィを囲いつつある魔物達。
その範囲は視界百八十度を越えている。
(勝機、ないわ)
絶望的な状況。
(あの時の魔力、あのツメさえあれば……)
右手を握り締める。
以前にもあった絶望的な状況を乗り越え、今を生きていられるのはあの時の覚醒。
それは強力な魔力をおびた三本の鎌みたいなツメ。
どうやって出せたかのか、まったく覚えていない。
だが、その武器いや自分のツメだったがまさに無敵。
魔物達を次々引き裂いた。
(強大な魔力の固体化だったような)
あれ以来、何度か試したが成功したことは一度もない。
(ピンチじゃないと出ないのかも、と思ってたけどもう充分ピンチです。そろそろ出てきてくださいツメ)
右手指先に魔力を込めてお願いするけど、反応はない。
「ルルーチィさん! うしろ!!」とギグくんの絶叫。
(しまった! 廻りこまれてた?)
魔物の軍勢に立ちはだかりながらも、ジリジリと後方に移動していたルルーチィ。
後方は安全だと油断していた。
しかも、足場は砂場で足音はしない。気配も気付かなかった。
(いつのまにか前方の群れはオトリ役に変更になってたっての!?)
後ろから気配を消して近づいてきた一匹の魔物に羽交い絞めにされる。
(なっ、どんだけ戦い慣れてんだコイツら? ヤバイっ、このままじゃ弄られる一方だ!)
前方より近づいてくる魔物の群れ。
必死に足掻くルルーチィ。
だが、手立てがない。
(こなくそが!)
自由に動かせたのは頭だけ。
しかも、それすら腕をまわされギッチリと肘で固定された。
魔物の腕が首元を締め上げる。
(ならば、逆に好都合!!)
魔物の肘関節に顎の先をねじ込む。
そして口を開ける。
人間と獣人の間のハーフビーとはいえ、彼女も獣人の血を引く者だ。
八重歯みたいなカワイらしい牙を持っていた。
その牙に魔力注入。
魔物の腕に一気に噛み付いた。
『ギギ』と軋む音。
さらに魔力注入、顎の力も全開で噛み付く。
『バギッ』
『キンッ』
魔力と圧力に耐えられなくなった牙が粉砕する音と同時に魔物も消滅して開放された。
(牙、二本程度で済んだなら安いもんでしょ!)
口元から血を滴らせているルルーチィ。
「ルルーチィ!?」
「ルルーチィさん!」
心配するギイ親子に向かって腕を突き出し、制止の合図。
(まだだよ? 全然こんなものじゃない。絶体絶命のピンチなんてこんな軽いもんじゃなかったよ。あの時よりマシな状況だよ、こんなの。はははっ、笑っちゃう。だって、コンだけの軍勢率いて私まだ牙しか折られてないもの。はははっ、見てろ? 全員ぶっ壊してヤル!!)
戦士としての闘争心がピークに達する。
「フーウッ・シャアアアア!!」咆哮する。獣人の血がそうさせた。
「ヒュオオオオオォオオオ――」その咆哮に呼応した獣人のギイさん。
「フュ……フユ」ちなみにギグくんは若いからまだ咆哮出せなかった。
気合を入れ直したルルーチィ。
集団の正面に向かって特攻。
悠然と待ち構えている正面の敵。その訳は左右に横たわるクジラの上にいた仲間が同時にジャンプし、頭上から挟み撃ちに襲い掛かったからだ。
そしてこの動きを読んでいたルルーチィ。タイミングを計って急ブレーキ。
魔物の足元をくぐり、右に移動。
目標にかわされた左右の魔物はダンゴ状に一箇所に集まった状態で着地。
(いまだ!)
一番手近なヤツの背後からロー・ハイ連続の二段右キック。撃破。
右足をそのまま前方に降ろし、一歩前進。コチラに振り返る次の獲物に左足でまた二段キック。再び撃破。
三体目は無理だ。相手も体勢を整え直してきた。
後方へワンステップ。距離を取り直すと、マヌケな一体が釣られて出てきた。
(絶好の獲物)
相手の右ストレートにクロスカウンターの左パンチ。続けざま右のスマッシュアッパー。そして撃破。
(私に比べて動きは緩慢だ。白兵戦なら勝てるのか? けど、この数はヤバイ。囲まれつつある)
距離を詰めてくる魔物達。
一旦、後方に下がって包囲網から抜け出す。
(コイツら陣形を崩さないよう、再展開するのか……)
両翼、再び、両外側に展開し直す。
(リーダーの知能が高い。指示を出しているのか? でも、ソイツさえ倒せば軍団は散る)
魔物の習性は破壊衝動とリーダーに対する承認欲求だ。そのリーダーを倒せば群れは自然解体する。次のリーダーを決定するため、お互いを様子見状態、冷却期間に入る。
(逆転のチャンスはそれしかない。でもこの数の中から探り出すのは一割る総数で一パーセント程度だよ、くそ)
こう着状態。
しびれを切らしたのか、対面の魔物五、六体が突進してくる。
「ギャギャ!」
(マズイ。数で押されるのが最悪なんだ)
切り込んでくるその数体の魔物は命令でか、それともソレを無視したのかは分からないが、単純に数で押されることがルルーチィにとっては一番キツイ攻撃なのであった。
(無駄な後退は望ましくない。相手がコチラに向かってくるのではなく、コッチが相手に向かっていってるという感覚で、距離を、間合いを計り――そして!)
半歩下がる、と同時に一歩前へ!
相手の出ばなをくじくとともに、自分の有利な間合いで攻撃するのだ。
(最初の一体が怯んだ瞬間、螺旋の軌道で相手集団の周回を移動。的を絞らせない。そしてジグザグに後退をしながら動きに誘われて先頭に出てきた相手から一体ずつ仕留める)
集団相手にその場しのぎの後手ではあっという間に詰んでしまう。数が不利な状況だからこそ指導権をもっていかれるわけにはいかない。先手、先手の手段を構築させなければならない。
その最初の一手。
先頭に突出している一体に右ストレートを打ち込む。
だが!
『ドシッ』ルルーチィの身体に衝撃が走る。
左肩から顔面にかけて魔物のぶん殴り攻撃がヒットしたのだ。
(な? 間合いも、コッチの動きも気にせず一直線に突っ込んできた。これじゃ私が相手の攻撃に突っ込んでいったみたいなもんだ。くそ、コイツ、なんも考えてねえ!)
意識がとびかけ、よろめくルルーチィ。
正確には相打ちだったが、相手の攻撃に突っ込んでいった分、逆カウンター状態になった。ダメージはコッチのほうがひどい。
(連携みたいに戦略的な行動が出来てるからと思ったけど、賢いのはリーダーだけだってことか? 読み違えた!)
当たりもしない間隔でブンブンとただ闇雲に腕を振り回しているその魔物。
(動け! 避けろ! 次の攻撃が来るぞ! 脳はダメージを受けた。しばらく情報は当てにならない。指先、と両足のつま先、位置を把握しろ! 感触で行動しろ!)
痺れている感覚。正確な状況判断はできない。
身体の感触だけで回避行動する。
『ドン!』身体を貫く魔撃。
回避行動は間に合わなかった。
衝撃でルルーチィの身体は弾き飛ばされて、傍のクジラに打ち付けられてしまった。
「くアっ!」
内臓が身体の中で二十センチくらいバウンドした感触。
普通ならダメージに耐え切れず、倒れ込んでしまうところだが、彼女は二本足で立っている。
それは戦うためにである。
(次が来る! 痛みや苦痛の情報はシャットダウンだ。動かせるパーツは全てを使って、動け!)
だが、根性だけではママならない場合もある。
ルルーチィの身体はこれ以上の行動は、自分自身で身体自体を破壊することになると判断。
生命維持本能に従って、本人の命令を無視して稼動停止してしまった。
(なんで動かない? 死ぬぞ?)
痙攣する自身の身体に問いかけても反応はない。
ブレーカー(安全装置)が落ちた状態なのだ。
(くる!)
魔物は動かないルルーチィをメッタ打ちにする。
魔力を使って魔法壁で防御してはいるものの、これも数分と持たない。
(ここまで、なのか……)
絶望の予感。
だが、救いの手が差し伸べられるのだった。
「……」
魔物の動きが止まる。
「?」
見上げると、その魔物、顔面に、タコ付いてる。
しかも、ブシュウウって墨ブッかけられて真っ黒になった。
「ルルーチィ! しっかりしろ!」
「ルルーチィさん! 負けないで!」
ギイさんとギグくんの応援。
きっとタコは彼らが投げつけたモノなのだろう。
「ぷーっ、ふふふ(そうだ。私一人の命じゃないんだ)」
二人に元気を貰った。
「フーッ・シャアアアア!」
気合い入れなおしの咆哮、そして目前の魔物に二段蹴り。撃破する。
そして、それだけでは終わらない。
拡散しかけの魔物を通り抜け、向こう側にうって出る。
ヘイトがギイ親子にも集まり、攻撃対象を迷っていた魔物にとってコレは不意打ちだった。
連続攻撃を受け、次々撃破され、その場最後の一体になってようやくルルーチィを目標にしたのだが、もはや手遅れである。
その場にいた魔物を撃破したルルーチィ。
(よっしゃ! 作戦が成功した。まだヤレル!)
突出してきた魔物を撃破し、希望を取り戻す。
「ハァ、ハァ――ふうううう」
乱れた呼吸を整えた次の瞬間。
「げぼっ! かはっ」
ノドの奥から血の塊がとび出してきて、それを砂浜にぶちまける。
(はは、内臓から出血してるっぽい。あーあ、戦闘に勝ったとしても死ぬわコレ――)
死期が迫っている。
だが、なんとかギイ家族は助けたい。
「うわああ!?」
「ひ!?」
ギイさんとギグくんの悲鳴。
見ると魔物に襲われている。
「な!? なんで?」
駆け出すルルーチィ。
(まだ囲まれてはないはず。別働隊をまわり込ませたのか……いや、まさか?)
ギグくんを庇って魔物達にメッタ打ちにされているギイさん。獣人だけあって人間よりも丈夫。でも限度がある。
「このっ! コッチが相手だ!」
背を向けてギイさんに攻撃している魔物に飛び蹴りをいれる。
「くっそ!」
ヘイトがコッチに移らない。苦悶の表情でメッタ打ちに耐えているギイさん。
(このままじゃ、間に合わない)
右足に魔力を込める、その量はいつもの倍。
その足で魔物に蹴りをいれる。
『キン』と音がして撃破。一撃である。
同じ要領で取り囲んでいた魔物達を撃破。時間は半分で済んだ。
だが、ただでは済んでいない。砕けた牙同様、過剰な魔力集中で両拳の骨にはヒビが入り握り締めることも不可能に。右足首の関節も脱臼は軽くない。
「二人ともしっかりして!」
「うぅぅぅ」
「お父さん!」
ギイさん、声も出せないほどのダメージの様子だが、ギグくんを支えにしてヨロヨロと立ち上がった。
「踏ん張りどころです。逃げてください。後は私がなんとかします」
「……」
「で、でも――」
怯えたギグくんの視線をルルーチィも追った。
背後の林にも赤紫色に輝く魔物の瞳が数十以上の数でコチラを見つめている。
「あ、ああ……(魔物の群れは海岸線の一部隊だけではなかったということか)」
悪い予感が的中した。
島の反対側からも魔物の群れが上陸していたのだった。
(じゃあ、森に隠れてたギコくんは? いや、この状況、今更、心配しても意味はないのか)
周囲を圧倒的な数で突然包囲された。
(唯一の勝算はこの数の中からリーダーを見つけ出し倒すことのみ。だが、どうやって? どうやって見つける? どうやってそこまで辿り着く? どうすれば……)
手段がない。
「ギギギ」
「ギー」
「ギチギチ」
林の中の魔物が騒がしい。
激しく動きまわっている。
「なに?」
コチラを攻撃の準備でもなさそうだ。
慌しい様子は何かから逃げ惑っているようにも感じる。
「ガフッ! ゴッフッ!」
林の中から一体の魔物が姿を現した。
それは他の魔物とは姿が違った魔物。
他の魔物が半魚人なら、コイツは半魚熊。
魚の頭を持った熊のような姿をしている。
しかも、人でいう鎖骨のあたりから角が生えていた。
そして右手にはギイさん愛用の石斧が握られていた。
途中で拾ったのだろう。だとしたら家も粉砕されたかもしれない。
「ガガッ!」
その魔物、やや嬉しそうな咆哮の後、ルルーチィに目掛けて石斧を投げつけた。
避ける間もない勢いで、あの重たい石斧を投擲。圧倒的な力だ。
『ガッシャーン』ルルーチィの発生させた魔法壁に激突した石斧はガラスが割れるかのように粉々に砕け散った。
(いまので、魔力からっぽだ……)
なにもかもがなくなった。
「ははは、今更、ラスボス登場ですか」
攻撃手段も防御手段すらなくなった状況にである。
おそらくはこの魔物こそが群れのリーダーなのだ。
倒せば一発逆転なのだが、すべがない。
「というか、この状況だからこそ、姿を現したということかな?」
魔物リーダーは答えない。
だが、知能が高い魔物である。あり得る話しだ。
「意外に健闘したので称えにきましたか? それとも、舐めプ、ですか……」
答えない。が、表情がないはずの顔が醜く歪んだように視えた。
「このぉおお、魔物があああ」
グニャグニャになった拳を握り、びっこを引きずりながら突進するルルーチィ。
もはや策も力もない。だが気持ち、プライドだけは残っている。
(プライドに賭けて一撃だけでもいれてやる!)
魔力の尽きた今、それは魔物に通用しない通常攻撃だ。でも理屈ではない。自分の命に誇りを持った者の最期の行動手段。
(すみません。先に逝きます)
その途中、ギイさん親子に目配せ。それは、謝罪の気持ちとお別れの挨拶。
「シャアアア!」
突進するルルーチィ。
それに反応して、前へダッシュする魔物リーダー。
衝突する寸前、魔物リーダーは右肩の角を突き出す。
(内にかわせば腕の攻撃は数手後だ)
ルルーチィはコレを読んでいた。内側、正面に潜り込む。そうすればあの太い腕の攻撃より早く相手に攻撃できる。
だが、そのパターンは相手にも分かっていた。
ルルーチィが避けると同時に自分の身体も右にスライド。
(んな!?)
ルルーチィの正面に魔物本体はなく。目の前にあるのは魔物の太い左腕。
その肘が、彼女の首にめり込む。
「ド、ヒュ、グ、シッ」衝突音と悲鳴と歯と顎が砕ける音。
魔物リーダー、そのまま腕を振り切る。
車に撥ねられた子ウサギのように宙を舞い、クジラの身体に激突する。
しかも、それでも勢いは殺せずに、ルルーチィの身体はクジラの身体にめり込んでしまった。
(かっ、はっ!)
悲鳴にもならない悲鳴。数秒、意識がとんだ。
「……」
(んん? 終わったのか。なるほど、ここが私の死に場所か。血の匂いしかしない。ひどいもんだ)
裂けたクジラの身体の向こうにギイさんとギグくんの姿が見える。
絶望的な表情でコチラを見てる。
(ごめん。無理。力も魔力も全部だしたし、覚醒もしなかった。やっぱ、都合よく覚醒なんて起きるのは物語の中だけだわ。ムリ、私もう死ぬわ)
視界の先、ギイさんとギグくん、近づいてくる魔物のリーダーに怯えてる様子。
(なんで、こんなのが最期に見えちゃうんだよ! 神様は私を呪ってるの?)
目をつむった。
そして思い出した。
(そうだ、あの時――あの時も! 私は、親友の一人が死ぬところを見て、それで……)
昔、絶体絶命のピンチを覚醒した能力で脱したことを思い出した。
(大切な人の死を持って覚醒する? そんな……。じゃあ、今、二人のどちらかが惨殺されるのを見たら私、覚醒する? そおいうことなの?)
発生条件は、たぶんそうだ。
事実、魔物のリーダーに弄られているギイさんの姿をみて、何かが『ドクン!』と高鳴った。
(逆転できるっての? 大切な誰かの犠牲を持って?)
ルルーチィ、身体を動かそうとする。
「ぎゃが!」
だが、全身に激痛。
(いける。痛覚があるってことはまだ繋がってるってことだ)
身体、悶える。
「ふぐああ!」
激痛にも負けない。
(手遅れな状況で覚醒しても意味がねえええ! 動け! 覚醒しろ! しないならソコまでだ。そんときは死んでやる!)
動く。
「きゃく、きゃくせえ、しろおおおお!!」砕けた顎で絶叫。
だが、反応はしない。
それどころか、視界の先で弄られ倒れたギイさんを庇って、震えるギグくんが魔物の前に立ちはだかっている。
(だから! 誰かが死んだあと本気だしても、おせーっんだよ!!)
全身を痙攣させるルルーチィ。
魔物の腕はギグくんに振り下ろされる。
ギグくん、泣きそうな顔してうつむいた。
そして……
『ドン!』
クジラの一体が爆発した。
魔物もギグくんも動きが止まる。
「……」
状況に戸惑い、すべてが止まる。
「カーハーアーカーハー」息継ぎ、でも変な音。
その場に現れたのはルルーチィだった者。
四つん這いで息を整えている。
「やっひょ、きゃふへいへきた」(やっと、覚醒できた)
喋ったが、言葉になっていない。
「ひゃい? ほれ?」(なに? これ?)
自分の姿に気付くルルーチィ。
(ツメは出たけど、手は? どこいった?)
右手には黒光りした三本の大鎌みたいなスゴイツメ。だが、そのツメ、指先からじゃなく、手のひらから直接生えてる。しかもその手のひら自体がない、というか、三本の関節でしかない。その関節を束ねる腕も異様だ。鎧の手甲を被せてるように見えるが、それにしては細い。この中に自分の腕が包まれているとは思えない細さだ。
(なんじゃコレ?)
あっちの一大事だが、今はこっちの様子に驚いてこう着状態。
だから急いで自分を確認。
異様なのは右手だけでない、右足もだ。頑丈そうなゴツイ関節。その関節を繋ぐ細く固そうな棒状の脚。カブトムシなどの昆虫を思い起こさせる異様な姿。しかも、変化があるのは右半身だけ、左は今までどうりの姿。だが、怪我などは完治しているのが分かった。ついでに魔力も回復、いや元々の十倍はありそうな活力を感じる。
「ひょーなって?」(どーなって?)
うまく喋れない。当然だ。顔も右側半分が異形になっている。
そして右目は青色に妖しく光っている。
(前とは違う。イケルのかコレ?)
立ち上がる。その動作だけで左右のバランスが悪いことに気付く。
歩く。そして転んだ。
(身体バランスがメチャクチャじゃん)
右と左、交互にケンケンして試す。
右のケンケン、空まで行きそう。
(やっぱ、右の出力がケタ違いなんだ。元の身体じゃ追いつかない。右側だけで戦うしかない)
大体は分かったつもりだった。
(いくぞ!)
魔物のリーダーに向かって右足だけで踏み出す。
『ドン!』と空を斬る音。
「はにゃああ?」
スゴイ勢いで、あさっての方向へ飛んでいったルルーチィ。
いなくなった。
「……」
しばらく経った。
「……」
顔を見合わせるギグくんと魔物のリーダー。
「ギッシャー!」
「ひぃぃいいい」
そして魔物リーダー、再び、ギグくんを狙う。
最後はいつも通りにです。




