9.激しいバトルの馬あああああ
次に現れるのは平凡な右コーナー。
コーナー手前の限界まで加速→からの急ブレーキ!
コーナー旋回中は我慢我慢。ボディを安定維持。
クリッピングポイントを抜け、出口が見えたら即加速!!
コーナリングテクニックの基本――
『スローイン・ファストアウト』
(ゆっくり進入してすばやく脱出)である。
それが定石。
荷馬車馬、コレを忠実に実行する。コーナー手前で急減速。
だがタローの馬、減速を『ほぼなし』でコーナーに突っ込んでいく。
お陰で荷馬車馬をコーナー手前でリードできたが?
『バカか? ドリフトする気か?』
荷馬車馬の驚きも、もっともである。
なぜなら、タイヤが路面を掻き毟り『キィキィ』スキール音を響かせ、コーナーを斜めに駆け抜けてゆく―― そんなド派手な『ドリフト』は、実は見た目だけの曲芸。
速く走るためのテクニックではない。
勢いよく突っ込んだせいでコースアウトしそうになっているのを、無理やり立て直しているだけなのだ。オーバースピードでコーナーに進入した失敗を、フォローするための技でしかない。
そのため、実際には――
『ファストイン・どスローアウト』
(速く進入、そしてノロノロモタモタ脱出)である。
レースには使えない。
ドリフトは観客を湧かすだけの曲芸。
もし、しかたなく使ったレーサーがいれば、それは他のレーサーにとって迷惑なヘタクソでしかない。
だが馬はファストイン(速く進入)してしまった。
『ドリフトでノロノロとコーナーを這いずてっる間に、オーバーテイク(追い越し)するぜ?』
『どうかな?』
馬、余裕のフリをしている。
(この馬、なにかやらかす気だ!)
直接跨っているタローには、隠し切れない馬の緊張が伝わってきていた。
……」
だが、馬は何もせず――
(?)
『?』
『っふう!』
馬は何もしなかった。
そして、何も起きずに、そのままコーナーをクリアした。
リードは保ったままに、である。
『ファストイン・ファストアウトだと!?』
荷馬車馬の驚愕が伝わってくる。
『ファストイン・ファストアウト』
それは究極のコーナリングだった。
速く進入して、速く脱出、そうすれば最速。
そんなの子供でも分かる。
だが、そんな理想ムリだから、それぞれに速さの方法を模索する。
けれど、やっぱり最後にいきつくのは――
『シンプル・イズ・ベスト』だ。
そもそも、コーナリングにCPとかスローインファストアウトとか関係ない。
結局、いかに速く曲線を進むことができるか? なのだ。
『さすがにブルルったぜ』
これは超常現象ではない、ちゃんと物理法則に習っている。
『曲る』という行為は、実はそれ自体がブレーキになっている。
馬はそれを応用した。
摩擦が起きている蹄に『減速』と『慣性変更(旋回)』と『加速』、その三つの抵抗を、同時に処理させた。
相反する三つのモーメントを最大公約数で処理したのだ。
普通ならあり得ない。
でも、それは超一流のドライバー(馬)にならば……
『クッフフフ。認めてやるよ? 小僧』
『フッ――どうも』
荷馬車馬と馬、分かり合えた?
だがしかし。
やがて馬達の死闘は佳境を向かえ、最終決戦へと辿り着く。