ルルーチィの漂流生活・絶望への前奏曲
無人島の生活。
みんな大人だから、あれから何事もなかったように暮らす。
ルルーチィはメンバー唯一の女で魔力が使えるから、ソレを使って深海の狩りにチャレンジ。
深海とはいっても、深度二、三十メートル程度だ。
だが、普通の人には無理だ。息継ぎの問題はもとより気圧の関係である。
でも、魔法を使えば、空気を身体の周りにまとわりつかせられて呼吸もできるし、身体の気圧も問題なくクリアできる。
そして、獣人族の血を引くハーフビーの瞬発力! 海底を這いずっていた獲物をやすやす鷲掴みする。
まさにすべてが魔法、ファンタジーだ。
そして、手に入れられる獲物は……
「じゃーん!」
海中から姿を現し、誇らしげに獲物を掲げる。
「すごい! ルルーチィさん! 最高です」
「ヤッター! また、おいしいのゲットだあ!」
ルルーチィの両手には、巨大なカニと海老が一杯ずつ。
そして、最初の潜りで捕まえていたカニが二杯。続けてこれで計四杯。一人頭一杯ずつ。充分な収穫である。
「昼食には充分だよね?」
「はい。贅沢すぎますよ」
ルルーチィが来るまではめったに獲れない獲物だったらしい。
一杯獲れれば三人で分けて、少しでも喜んで食べたそうだ。
その後、昼食でそれらを焼いたのだが、一杯しかない海老を誰が食べるかでちょっと議論。お父さんの権威か? ルルーチィの女性の権威か? でも、結局四等分して食べました。カニもそれぞれ全部ですよ? みんな仲良しです。
そして、昼下がり。
ルルーチィは先日とある場所に干していた木の葉っぱを回収しました。
その葉っぱを大貝の鍋に投入、水を加えて煮出します。
「お姉ちゃんが、葉っぱ、茹でてる! へんなのー!」
とギコくんにも笑われたけど、煮出した汁をギイさんに。これまた小さめのコップがわりの貝の器で持って行く。
「ウマイ! 上等な茶だぞ! 久々だ!」
「確かにですけど、ニガい」
「ブベーッ」
渋い茶だからギグくんとギコくんには不評だったけどギイさんに喜んでもらえて、なによりのルルーチィ。
「ほら、ギグくんが採って来てくれた木の実もありますよ?」
サクランボみたいな小さな木の実。でも熟してるはずなのに、まだ、黄緑色い。
「これかー、結構、エグイんだが……」
「でも、少し、甘い感じがあります」
「これ、すっぱいの!」
「でも、試してみて?」
ルルーチィにうながされて口にする。
「んん? 甘めーぞ!」
「ほんとだ。甘い!」
「きゃあー! 甘いー!」
みんな大喜び。だって無人島で不足しているのは『甘味』だったからだ。
そして、ルルーチィの淹れたお茶には甘みを増幅させる効果がある成分いっぱいです。
渋い木の実だってたちまち立派な午後のお茶デザートに。
「このお茶には甘みを増幅させる効果があります。それに、他にも、イロイロ薬草がありましたよ? この島、けっこうお宝物かもしれませんよ?」
「マジか? そういうの、シティボーイの俺には分からんから……」
「お、お父さん……」ギグくん、ちょっと、つんのめる。
「ん? ねえ? シティボゥイってなに?」ギコくん素直な疑問。まぁ当然か?
「ナウ! な、ヤング! って意味だ。カッコいいってことだ」とギイさん。でも……
「あーっ! それ、古くてダサいって意味だ。幼稚園の頃、先生に習った」
「……」
みんな沈黙しました。
なんか、もう本当の家族みたいに仲がよいですよね。
そして、昼過ぎ夕暮れ前――
家、小屋の中で二人。
「夕食どうしよっか?」とルルーチィ。
「タコは?」とギコくん。
「えーっ?」
「だってお姉ちゃんなら、捕まえるの簡単でしょ?」
「そうだけど、あのさ、素手だよ?(あのグニョグニョ)」
「うん?」
「はい、はい、わかりましたー」
「やったー! おいしいの、ちょうだい!」
「はあい、いい子にして待ってることー」
「うん!」
なんかすでにお母さんと子供みたいな会話。
でも、タコは食べれなくなった。
なぜなら……
「おい! 肉だ! 肉が山盛り来たぞ! お前らもコイ!」
興奮状態のお父さん、ギイさんが乱入してきて二人に呼びかける。
「入り江だ! 入り江にクジラが打ち揚げられている。取り放題だ!」
「はあ? 取り放題?」
「いいから来い! すごいぞ!」
よくわからないけど行くしかない。
「な? これは?」
入り江に打ち揚げられたクジラ、その数、二ケタ台。
百には満たないがすさまじい数だ。
十メートルオーバーサイズがメインでこの数だから入り江は満杯状態。
「取り放題だけど、これ二、三日後にどうなるの?」
ルルーチィの予想通り、腐って大惨事、間違いなしです。
「肉だー! 肉だー!! 食べ放題だー!!」
と、ギイさんは、はしゃいでるけど?
「焼肉? ヤッター!!」
お父さんにつられて、ギコくんも大喜び。
(仕方ないか、私も肉、久々に食べたかったし)
その後のコトは、またその時に。
とりあえず、この状況をプラスに考える。
(火を用意しないとね――ん?)
ルルーチィだけが、この状況に違和感を感じた?
(クジラが浜に打ち揚げられる話しは珍しくもない。地磁気の異常か、なんかでだ。でも、これとかあるか?)
夕食にするはずの予定のタコが浜辺に打ち揚げられている。
拾ってみるが、まだ生きている。
そして辺りを観察。
タコだけでなかった。
中、小型関係なく、鰯やアジ、カツオなども一緒に打ち揚げられている。
(なんだ? これは、食べ放題だと無邪気に喜んでいい状況なのか?)
嫌な予感しかしない。でも?
引き潮、その浜辺の先端にギグくんがいた。
沖のほう、なにかを探っているように見える。
そして、こちらに振り返るギグくん。
やっぱり彼は美少年である。水平線むこうに沈もうとする夕日の後光、その輝く光を背負ったその姿よ!
(ふあぁぁ、あの子、カッコいいなー)
そんなロマンチズムも次の瞬間、吹き飛ぶ。
「魔物だっ!! コッチくるっ!! みんなっ! 逃げてーぇ!!」
ギグくんの絶叫!
夜が、闇が迫る……
次回、俗にいうシリカゲル回。
散々悩んだルルーチィの設定を開放します。まぁ地味なんですけでど。




