ルルーチィの漂流生活・プロポーズ?
次の日。
「お父さん、コレを、加工したいんですが? 道具を――」
ギグくん、顔を赤らめながら、父親のギイに相談した。
差し出したのは夕べの巨大魔真珠。
「ルルーチィさんにプレゼントしようかと思って」
「ん……」
乙女に贈り物。
送るほうもまんま子供じゃないから、それなりの意味がある。
「どう加工する気だ?」
「――ペンダントにしてみよかな、と」
「鎖はどうする? 草ヒモってわけにもいかんだろ」
「こ、これを……」
ギグくん、胸元から自分のペンダントを取り出す。
でもそれはただのペンダントではない。
十二の誕生日に母親から送られる、特別な意味を持ったお守りだった。
母の想いがこもった三種の石が連なっている。
「おいおい、お前、それはちょっと気が早くないか?」
「ち、ちがう。だって鎖はコレしかないし、それにルルーチィさんの部族にはそんな伝統ないし」
「うーん」
「それに、もし、ここでずっと暮らさなきゃならないんだとしたら、将来、その時に、このペンダントの意味をちゃんと伝える」
「んーっ。でもなー(お母さんに怒られるんじゃ?)」
でもギグくん――
「お父さんやギコに、彼女は渡さない」真剣な眼差し。
「んはっ、ハハハ、そうか。うん、わかった。ほら、持ってけ」
「――ありがとう」
「ん。なくすなよ? 鉄の道具なんて二度と手に入れないだろうからな」
「うん、わかってる。大事に使うから」
嵐に巻き込まれ遭難中、かろうじて持ち出せた携帯工具をギグくんに預けるお父さん。
(そっか、ココに来て一年だもな)
ギグくんのお父さんのギイ、改めていまの状況を思い知った。
大人の彼にとってこの島での一年はあっというまの出来事だった。
最初は不安だったが、食べ物にも気候にも問題ないことが分かればあとは気楽に考えていた。
そのうち、救助隊が助けに来てくれるだろう、と――
(だが、もう一年たったんだな。逆に我々の安否は絶望視され、救助は打ち切りの段階かもな)
今の状況に楽観過ぎていた。
逆に息子のギグくんのほうが将来のことを現実的に考えていた。
(まだまだ、子供だと思ってたが、あっという間なのかもな。あの頃合いの子が男に成長するのは)
なぜかそのタイミングで自分の父のことを想像してしまったギイさん。
(心配してるかもな……ってか、なんでオヤジだ? ココロン(妻の名)や母さんのほうが、だろ? ちくしょう)
一人で勝手に頬を赤らめてるギイさんだった。
そして、ギグくん。
自分だけの秘密の隠れ家の中。
真珠と悪戦苦闘中。
「すべる。くそ。せっかくの魔真珠にキズが」
でも、執念。
あきらめない。
いや、それは愛の力だ。たぶん。
「どうだ? うん! いいかも!」
散々手こずったけどなんとか上方に穴を開けることに成功。
でも、本体のほうにもちょっとキズが……
「偶数は縁起が悪いから、コレを足す」
取り出したのは海中で漁の最中見つけた綺麗な石。
魔真珠を手に入れるまでは偶数になるから追加できなかった石だ。
こちらは以前に加工済みだ。
それらを全部、鎖に通してみる。
大きな魔真珠が中央に来るように、そして各石の色合いを完璧に配置して。
「完成だ! すごい! 多分、これは最高傑作だ!」
自信たっぷりのご様子。
夕食が終わって、しばらくたった時間。
後は暗闇の中でコソコソお話?
それとも、疲れたからゆっくり寝る?
そんなあいまいな時間。
「ルルーチィさん、ちょっといいですか?」とギグくん。
「ん? うん」
「星を見に行きませんか?」
ちょっとキザ?
それを聞いたお父さんのギイが『ぷぅー』とちょっと煽る。
「いいよ。ロマンチックだね」
ギイの態度で、ギグくんのフォローするしかないルルーチィ。無論、誘いを断るつもりもなかったけど。
それとギコくん、おやすみ状態で一緒は無理そう。
だから二人、出かける。
「ギグくん、足元、大丈夫?」
暗闇を先に進むギグくんを心配するルルーチィ。
「大丈夫です。夜目が利きます」
「あ、そっか。君も獣人族だったもんね」
「ルルーチィさんこそ、大丈夫なんですか?」
「へーきだよ」
「でも、ルルーチィさんはハーフビーだし、ボクよりは夜目が利かないと思うし」
「? (なに? ギグくんですら差別なの?)」
ルルーチィ、ちょっとショック。でも?
「あ、あの! 手! 手!」
「ん?」
ギグくん、ルルーチィに手を突き出している。
「ありがと」
素直に手を繋ぐ。
汗でヌルヌルの手だったけど、不思議に不愉快ではなかった。
連れだって歩く。
「ここです」
と連れられてきた場所。
入り江の脇に切り立った崖の左手の先端。
「ここは、アッチの崖よりも高くて、ずっと遠くが見え……」
今は夜。遠くなんて見えない。
「そういえば、まだココ来てなかったよ。ありがとね」
「いえ、すみません」
「んん? なにが? 見て? 星が綺麗だよ」頭上に視線。
「うわ、本当だ」
天空に広がる無数の星。
「へんなの。ギグくんが誘ってくれたんだよ――クスクス」
「あ、え、あ、……もう、カンベンしてくださいヨ」
二人、『ははは』と笑いあう。
そして、見つめる。
星達を。
だって、最初からそうことだったし。
「……」
「……」
ムード熟成。
お膳立てはバッチリのはず。
行けギグくん。
「……」
「……」
行けよ、ボケ!
「そろそろ、帰ろ……」とルルーチィが発言しかかって、ようやく!
「あっ! あー!! ぁにょのー!!」ギグくん、声が裏返り。
「なあ! どした!?」
「じつはーっ!」
「んん?」
「コレコレコレヲー! コレコレヲー!」
ギグくん、例のペンダントをルルーチィに突き出す。
「これ、昨日の」
「あげる! あげます!」
「え? いいの?」
「いい! すごく、いい! 絶対いいものです」
当初の予定と全然違う。
全然、カッコ悪い。
ギグくん、もう、なにがなんだか――
でも、ルルーチィは彼より少し大人で、優しい人だった。
「ペンダント、だね? ありがとう」
「ハァハァ、ハウー……」
ギグくん限界。もうカンベンしてあげて?
「じゃ、それ、私に着けてくれる?」
追い討ちだ。
「ねえ、ギグくん。君は優しい子だよ。でも、ちょっと優しすぎないかな?」
ルルーチィ、ギグくんをハグした。でもそのハグはちょっと距離のあるハグだった。
「男らしいトコ? カッコ悪くてもいいから、君の大人を見せてほしいな?」
「あの、コレは……」
「うん。わかる。誕生日でもないし記念日でもないしね? 今日を特別な日にしたかったんでしょ?」
「うん……」
「じゃあ、カッコつけてみようか。私は絶対笑わないから、ネ?」
距離のあるハグなんて屈辱でしかない。
ギグくん一念発起。
「ルルーチィさん。このペンダントは特別な意味をもった大切なものです。それをあなたに受け取ってほしい。でも、無論、受け取ったあとであなたがコレを捨てようと、売りとばしたとしても、ボクはあなたを恨みません。そういう想いのプレゼントです」
「うん、分かりました。謹んでお受け致します」
震える手を駆使してギグくん、自分のペンダントをルルーチィに譲渡できた。
「とっても似合います」
「ありがとう。一生の宝物だよ」
「……」
「……」
見詰め合う二人。
今度こそ。
ギグくん、上目づかいでルルーチィに視線。
そして、唇をチョンと突き出し、目を閉じた。
「……」
「……」
そして『チュッ!』とキス…… でも?
「十年、はやーい!!」とルルーチィ。
彼女がキスしたのはギグくんのおでこ。
ケタケタと勝ち誇ってるルルーチィ。
(いいですよ。それでも。十年後にちゃんとキスさせてもらいますから――)
ギグくん、決心。




