ルルーチィの漂流生活・食事
さて、問題の夕食時間。
ギイたち親子にオドかされていたシロモノの登場である。
(なんだってやってやる。メシくらいなんだ!)
というルルーチィの覚悟は……
「あのー、コレは、差別とか、私が嫌われてるとか? イジメとか? ですか?」
覚悟ボロボロに崩れ去った。
だって出された夕食のメニュー……
「わははは! 言ったじゃねーか? 覚悟しとけって、あははは」とギイさん大笑い。
「ルルーチィさん。そんな訳ないですよ。だってコレ、ボクたちも大好きな食べ物ですし」とギグくん優しい。
「オネーちゃん、食べないなら、ボクに、ちょうだーい」と弟のギコくん。
どうやら、からかわれてはいないらしい。
たしか立派な鯛がメイン食材だったはずだ。
でも、その食事メニューの内容……
テーブルの上で、各々、切り身が大きな葉っぱの上に載せられているのだが。
「生の鯛の切り身? と、茹でたタコ? コレをどうやって食べろと?」
「べつに、そのまんま食べればいいぜ?」
「両方とも、海水とハーブを煮出して作った塩汁で味付けしてるから、そのままどうぞ」
「ねえ、もお、食べていい?」
ギコは食べたくてモジモジしてる。
「茹でたタコはともかく、生の魚って、お腹壊すでしょ、コレ?」
「壊さねーよ」
「えー? でも」
「だって、よく洗ったから」
「洗った?」
「ああ、そうだ、湧き水のところでいっぱい洗った」
確かに鯛の切り身、なんか表面が白銀に輝いている。
「洗えばいいってもんじゃないでしょ?」
「だが、俺達は今まで、なんともなかったぜ? それにな?」
神妙な表情でギイは言葉を続ける。
「この島には野菜がほとんどない。イモとか根野菜は取れるが、葉野菜は当然、果物もほとんどない。ビタミンが不足しちまうんだ。それを解消するには獣の生肉がいいんだが。この島にはそれこそがない。で、試したんだ、魚でな。それが大当たりだったわけさ」
「マジですか……」
「それがマジだったんだな。コレ食べなきゃ、ビタミン欠乏でどっちみちダウンだぜ?」
嘘さはない。本当のようだが、魚を生で? 抵抗がある。
「ねえ! はやく、食べようよ!」
辛抱たまらないギコくん。
「そうだな、俺たちはかってにやるか」
「うぬぬ――分かりました」
覚悟決まったルルーチィ。
「無理しなくても、いいんだぜーぇ?」ニヤけるギイさん。
「ふん! これしきのコト……いただきます!」
鯛の切り身一つ、つまんで口に……
(こんなゲテモノ。でも薬だと思えば)
クニクニして咀嚼した。
「ん? んん? ん!」
ルルーチィ、みんなに断りもなく、再びもう一口。
(なんだコレ? 生魚臭くない。ウマイ!)
口の中に広がるゼラチン質の甘い味わい。しかもその身自体に若草か新芽のような爽やかな良い香りがする。
「気に入ったようだな?」
「んん! これ、おいっしい」
「よっしゃ、お前らもいけ」
「いただきます!」
「いあたーきま……ぐふ、んふっ」
ギイさんの許可が出て子供達も食事開始。
「なんで? 生なのに? しゃっきりしてておいしい」
「さあな? 生魚洗って食ったらウマイなんて、俺も初めてだったわ。でも、海水とか温かい水とかじゃダメなんだ。冷たい湧き水にさらしてやらねーと。理由は分からねーな」
「そんな適当な感じで、食べるの?」
「そりゃ、だってそれがサバイバルってもんだろ。ははははー」
たくましい。
その後、ルルーチィ、タコも挑戦。
「ぬお、この味わい、いや感触が美味。これがタコなんだ。クニュクニュ侮りがたし」
「通だな。だが同じクニュクニュでもイカはやめとけ、腹壊す。人種はイカのほうがウマイとかいうけど。あ、お前さんはハーフビーだからイカもいけるのか?」
「いえ、腹壊しますが」
「そうか。残念だな」
「でも、タコがこんなにおいしいなんて!」
タコは見た目のグロさでみんなから敬遠されている。
けど、おいしさを理解されたら、絶対に人気者になれる逸材だ。
「なんか独特の生臭さはあるが、身の淡白な脂肪の旨さは格別だわな。肉が食えないこんな場所でなきゃ気付かない旨さだろうな」
ギイのその言葉こそ真理だった。
「お魚、おいっしー」
「お肉、食べたくなるときもあるけど、これ十分おいしいよね」
ギコとギグも満足そう。
「元気でたら、私もなにかやりたいな」とルルーチィ。
「おう、なんでもやってくれよ。ここは――サバイバルは、そんなだからな」
「お魚釣れるとこ、教えてあげるよ?」
「湧き水のところも。あと、遺跡があるからソコもね」
「みんな、ありがとう。私にこんな親切に……」
みんな親切。本当に感謝。
「違うよ?」とギコ。
「ん?」
「助けるだけじゃ、ダメ。助けられるだけでも、ダメ。それが人生だよ?」
小難しいこと言う幼いギコ。誰かのウケウリなのかも。
「そうだね。今度は私がみんなを助けたい気持ちだよ」
「ねー。ボクもお父さんやお兄ちゃんを助けたいよ?」
満面の笑みのギコ。
ギイもギグも微笑んでいる。
ルルーチィも勿論だった。




