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ルルーチィの漂流生活

 

 両脇を崖に挟まれた美しい入江の風景。

 遠浅の波打ち際は引き潮の今時分、白く広々とした砂浜がひろがった状態。

 その砂浜の中央に黒っぽい塊がひとつ。

 それはルルーチィだった。

 嵐に巻き込まれ難破した彼女はこの浜に打ちあげられたのだった。

 まだ意識はない。

 今は引き潮になった波に置いていかれ、砂浜の上で太陽光線にジリジリと焼かれている。

 このまま目覚めなければ、そこでお仕舞い。

 でも彼女の体力も精神も限界を超えていた。

 だから普通はこのままヤドカリの餌になるしかないはず、だが?


「変なの発見!」

「変なのって、コレ、人じゃん」


 ルルーチィを見つけて近寄ってくる二人の少年。


「シッポ発見」

「あ、お前、コレ女の人みたいだからそんなことすんなよ」


 弟がルルーチィのズボンをひん剥いてお尻のシッポを確認し、それを兄がたしなめた。

 二人は兄弟だった。


「ボクらと同じ?」

「どうかな? 似てるけどちょっと違う気がする」


 二人の頭にもネコ耳が付いている。でも二人のは茶色でピンッと縦長なお耳で、整った三角のルルーチィとはちょっと違う。


「じゃあ食べれる?」

「お前、漂流生活はじまって以来そんなんばっかになっちゃったよな。元の生活に戻れても大丈夫なんかな?」


 実はココ、無人島だった。いや、今現在はこの兄弟と彼らの父で三人が生活している、ので無人島ではなくなっているが、それでも文明圏外の地域である。


「どうするのコレ?」

「生きてるみたいだから、助けるよ。お父さん、呼んできてくれ」

「はっ、了解であります。隊長を呼んできますです」


 しばらくすると、彼らの父も現場に到着。

 さすが大人の獣人だけあって、立派なお髭がホッペから数本ピンピンと生えている。


「息はあるな。獣人ならどうにか――」


 お父さん、ルルーチィの鼻先と首筋をチェック。

 そして、忘れてはならないのが肛門である。

 ずり下ろされたズボン、シッポピョコンしてるルルーチィのケツに顔面埋めてくんかくんか。


「だが、この子はハーフビーのようだ。五分五分か」

「ハーフビー?」

「獣人と人種とのあいのこだ」

「あいのこ?」

「お父さんが獣人種でお母さんが人種な。逆もある」

「へーぇ」


 それ以上は説明しにくい。


「連れていこう。助けてやるんだ」

「はーい」


 お父さん、ルルーチィを小脇に抱えて運ぶ。

 ついていく子供達、後ろから弟が剥き出しのお尻ペンペン。そして兄に頭をペンされる弟。







 彼らの家。

 しっかりした木組みと、編込まれた樹皮による壁。遮光と通気性抜群の建物。

 数年がかりで作られたと思われるほど立派なものだが、彼らが建築したものではない。

 彼らが漂着したときにこの建物はすでにあった。所々壊れていた部分を修復して使っているだけである。

 先住民はすでに助け出されたあとなのか島のどこにも存在しなかった。


 そして、ルルーチィがこの島に漂着して三日が過ぎていた。


 ルルーチィは、その家に一つだけの手製ベッドには寝かされていた。

 干草のクッションの上にツタかなにかを編込んだ感じの草のマットとシーツ。乾いているのに柔らかな感触が不思議だ。


「すみません。ベット占領しちゃって」


 昨日、意識を取り戻したルルーチィ。だいたいの事情は把握済み。さすがに昨日は身動きできなかったが、今日は身体を起こすことができるようになった。世話になっている獣人の男『ギイ』に詫びる。


「いいさ。俺たちがベット使ったのは最初の一週間くらいだけだったし。結局ハンモックのほうが快適だったからな。もし、なんならアンタのぶんもつくるぜ?」

「そこまで甘えるわけには。それに私には使命があります。長居する気はないです」


 ベットから身を乗り出し、立ち上がるルルーチィ。全身の筋肉と関節がギヂギヂと激痛の悲鳴をあげた。おまけにひどい頭痛。結局ベットに倒れこんでしまう。


「無理すんな。それに島から脱出の手段はないぜ? けどな、だったらベットの上でその手段を検討しながら、ゆっくり身体を休ませてもいいんじゃないか?」

「ク……、船影は見えないんですか?」

「ここに流れ着いて一年は経つが、見えたことはねーなぁ。日付も変えて夜間も焚き火しながら探ったが全然ダメだった。漁船目当てで早朝にノロシをあげてみてもダメだったな。どうもココは船や潮のルートから外れているらしい。何度も嵐はきたが、漂着するものもなにもねえ。今回、アンタが初めてだったよ」

「近くの陸地まで泳いだり、イカダを組んで脱出とか?」

「クルーザーで沖合い二百キロまで出たあとで嵐に巻き込まれて難破だぜ? それ以上の距離だと思っておかねーと、無謀な自殺行為になるぜ」

「ク……」


 他力本願はもとより自力でも無理。八方塞のドツボに嵌った予感。


「ただいまー!」

「大漁だよ!」


 釣りに出ていた子供達が帰ってきた。

 兄の名は『ギグ』

 弟の名は『ギコ』

 大漁の言葉どおりギグの手にはヒモで連なられた四匹の大きなアジ。三十センチはある。サバみたいにでかい。

 だがそれよりも、大漁の本命はギコが抱っこしている五十センチサイズオーバーで丸々太った鯛のほうだろうか。肉厚だから巨大な金魚みたい。


「やったじゃねーか、お前ら。よしアジは昼飯にして鯛は夕飯でアレにするか」

「アレだね」

「アレだ、だ!」


「アレ?」

「おぅ、ルルーチィ。汁じゃなく飯は食えそうか?」

「無論。回復するためならなんだって食べます。食べさせてください」

「よし。言ったな。回復するためにいーもん食わせてやる。夕飯は覚悟しときな」


 どうやらアレなる物が出てくるらしいが、鯛である。どうするのであろうか。


 とりあえず、焼きアジの昼食を終わらせ、ルルーチィはもう一休息。体力の回復を待つ。


 ギイたちは夕飯の鯛を仕込んでいる様子だったが、どこかへ出かけてしまった。


 うたた寝の昼寝が済むと夕暮れ時だった。

 遠くでギグたちのはしゃぎ声が聞こえる。


(ひさかたブリだ。こんなノンキに……平和だな)


 島からの脱出方法への思考は止めた。同じ思考がグルグルするだけなのに気付いたからだ。

 ギイに言われたとおり身体を休ませるが良しだ。

 新しい情報の獲得があるまでそのことは考えないようにする。


(もし、ずっとこの島で暮らすことになったら、それは、ソレでいいのかも……)


 食べるモノの心配だけしてあとは遊び放題。

 その食べ物ですら、子供達でも容易く確保できてる。

 外界と隔離されたこの島はある意味別世界だ。

 つらい現実を逃避するにはうってつけの状況なのかもしれない。

 しかし、だ……


(でもさ、つらい現実の中にだって、いや、そんなつらい現実の中にだからこそ、守りたいモノが大事で大切だ。ならばこそ守りたいんじゃないか! 見失うわけにはいかない!)


 信念を思い出すルルーチィ。


「チィーちゃん! 待ってて、必ず行くから!」


 決意新たに。


 

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