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新たな仲間


 貨物室の中。


(あれから数刻はたったはずだが?)


 トロイは意識を回復した。だがそのまま気を失ったままのフリを続け、辺りを伺う。


(拘束されてない? 有り得ない!)


 自身の状態を確認して驚愕した。

 たとえ拘束されてなくても地下牢などに監禁されている状態なら納得できる。

 だが、周辺からは普通に人々の気配がある。


(どういう状況なのだ?)


 さらに辺りを探る。


「じゃんけん、ホイ、あっち向いて、ホイッ!」

「あっ!」

「お前、ほんと弱いなーぁ」

「もう一回だ! 今度は私がホイの番するぞ!」

「じゃんけんに勝ったらな? いくぞ? じゃんけん、ホイ」

「勝った! よし! あっち向いてーぇぇぇぇぇホイッッ!」

「はい、っと」

「タロー! ズルイぞー!」

「なにがだよ? ははははー」


 なんか長閑ノドカなー。


「う、うぅーんぅ……」


 トロイ、ちょっとうなってみる。


「お? 気付いたかな?」

「タロー! そんなことより、続きだ!」

「うん? だな。やるか」


(……)


 トロイ、ちょっと。


(なんだソノ反応? この状況だと、ボクこそが最重要キーパーソンではないのか? なのに『アッチ向いてホイッ』以下の扱い?)


 トロイ、薄目で状況確認。

 隣に横たわる、白目剥いたリリィーンを発見。これは捨てておいてよい。

 反対側ではタローとチィルールが、相変わらず『アッチ向いてホイッ』してる。

 貨物室中にいるその他の人々もそれぞれが各々、自由に過ごしている。


(えーと、なんだコレ?)


 なんか、校庭で行われた朝礼の最中、貧血で倒れた子が保健室で意識を取り戻した、ような感じの扱い? 散々カッコつけておいてソレはひじょうに気まずい。


(起きました、とか、言って起きたらカッコ悪いよな。なら、どうするこの状況?)


 トロイ、ピンチ!


(なんで、普通の扱いなんだよ! 殺し屋だって言ったよね! どーして拘束とかなし? なんでフツーに寝っころがしてる? どーなふーに目を覚ませばいいんだ! この状況?)


 『クっ! ボクもヤキがまわったかな?』とか拘束されてたらカッコつけて言えたかもしれないけど?この状況で言ったら『うん。焼けてる焼けてる、焦げてるヨ?』とか返されるかもしれない。そんな煽りに上手に返す自信はトロイにはなかった。


(どーしたらいい? いや! 慌てるな。ボクの情報は世界一だ)


 トロイはインターネットに接続されたPCのように脳内の情報を検索しまくった。


『カッコつけて殺し屋を名乗って勝負したけど、返り討ちにあって気を失い、気付いたら相手の傍で寝かされてました。でも、相手はコッチのことよりアッチ向いてホイッに夢中でコッチをほったらかしなんです。どうしたらよいでしょうか? 教えてください。』


 アンサー、ゼロだった。誰も答えてはくれなかった。


(神よ、もし許されるなら――ちょっと泣きたい)


 救われぬトロイ。だが救いが訪れる。


『ピンポンパンパンポーン! 午後十時を過ぎました。当船は消灯時間となります。速やかにご就寝ください。どうかよい夢を。ピンポンパンポン!』


 船内放送。

 その後、明かりが消えた。

 皆、もそもそゴソゴソと寝床の用意。


「寝るか」

「明日、続きだぞ」

「はいはい、おやすみ、な?」

「うむ……おやすみなさい」


 静まり返る。

 寝息も聞こえ始める。


(とりあえず、事なきを得たのか?)


 身を起こすトロイ。

 だが、違和感!

 気配がある!


「おはようっス」とタロー。


「き、君はっ」


 暗闇でシルエットのみだが、タローは身を起こし、トロイの様子をうかがっていた。


「一応、事後報告です。あなたの武器、妖精のナイフでしたか、アレは事情を説明して船員さんに預けてます。それと、オレは最初から言ってるとおり、あなたと事情をハッキリさせたい。できればかかわりたくなかったけど、もうかかわったしショウガナイ。話してください。ね?」

 

 タローの言ってることは綺麗ゴトだ。

 でも、自分のことを拘束もせずにいたからには、トロイもソレに乗らざるを得ない。


「OKだ。なにから喋ろうか? ボクは喋るのが本職だからな」

「本職?」

「ん、そこからかい? そうだ、ボクは情報。情報が売り物の情報屋さ」

「殺し屋なんじゃ?」

「嘘さ。君も信じてなかったろ?」

「まぁ」

「でも、半分は殺し屋なのさ。君らにとってはね?」

「あの、さっきも言いましたけど、そーゆーのナシで。情報屋さんなら、情報は簡潔明朗にでしょ?」

「あーっ、一番言われたくないことお。わかった。はっきり言おう。アンチャチャチャに情報を売ったのはボクなんだ」

「アンチャチャチャ? なにソレ?」

「なにって、伝説のアンチャチャチャだよ? 暗殺者だ。君らの前に立ちはだかって、それを君らはのり越えてきたんだろ?」

「暗殺者? そーいえば、マフィアのアリスさんが撃退してくれたとか」

「な!?」


 トロイはそれ以上言葉が出なかった。

 血染めの天秤が首領ドン金色のアリス、その情報は熟知しているつもりだった。

 若輩で新米の首領ドン

 金色に輝く魔眼の持ち主。その能力は侮りがたし。

 だが、所詮は田舎の優等生。

 アンチャチャチャと対等にわたり合えるとは思えなかった。


「そうかでも事実なんだろうな。君らと手合わせしてわかった。あきらかに素人だもな」

「それを確認するために接近してきたんですね」

「ああ、アンチャチャチャを撃退した君らの秘密を探りにね。まあ、勘違いだったということか。(しかし、別の秘密を知ってしまったよボクは。君らは気付いてないみたいだけど。この情報は、値打ちモノになるかもしれないから、大事に取っておくけどね)」

「じゃあ、敵ではないということで」

「いいのかい? ボクが君らの情報を暗殺者に」

「それはまた別の話しです。あなたにはあなたの立場があるでしょうし。それにもう、なにも起こらず無事に済んだ話です」

「お人よしだな」

「それよりもオレはあなたを買いたい。情報屋さんなら、これから向かう国の事情とか詳しい感じですか?」

「それは、当然、地理経済政情まで何でも知ってるさ」

「なら、雇われてもらえませんか? オレは漂着者だし、他の二人はまったくアテにならない。なにも分からなくて不安なんです。金貨一枚でどうですか?」

「金貨一枚か……ははは」

「少ないですか? すみません。いくらくらいなら?」

「いやあ、充分な額だよ。多分破格の値段だ。それで引き受けよう」

「ありがとうございます」

(ははは、まさか金貨一枚で情報屋の情報を買おうとはな。まぁ、ガイドの雇い賃なら破格の報酬だろうけどさ。にしても見ず知らずのボクの同伴を許すとはね。お人よしを通り越して怖いもの知らずの子供じゃないか。逆にボクのほうが君らのこと心配になってきたよ) 


 新たに旅の仲間が加わった。

 

(でも、誘われなくてもついていくつもりだったけどね。だって、君らはこの世界で一番重要な情報のはずだから……)


 そんなトロイの考えを、タローは知る由もなかった。


 しかし、トロイのほうこそが、実は……いや、なんでもない。



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