バトルだったのかな? だったのかも……
短いです
先制はリリィーン。
トロイの前でトンファー、クルクル、そして軽快なステップ。
なんか今にも、香港人みたいな人が『アチョーォ!』とか言い出しそう。
(この、ステップは!)トロイ驚愕。
だってリリィーンのステップ、ずっと同じ場所でしてる。全然そこから動かない。
(間合いを計って攻撃する気ではなし、コチラの動きに反応してのステップでもない。これは、このステップは、なんの迷いもなく思いっ切り――攻撃されたら全力で避けるためのステップ!)
『アチョーォ!』じゃなかった。
時代が時代ならリリィーンのステップって『8時だョ!全員集合』でやってた志村のヒゲダンスみたいなもんだった。昔、昭和の頃、よく『アチョーォ!』って言ってた人、今も元気にアチョーォしてるのかなあ……
(まいったな。適当に痛み分けで済ませるつもりだったんだが。力量の差があり過ぎるぞ)
トロイ、困惑。
リリィーンの動きは完全に見切った。
単調なステップはもとより、緊張してギチギチになった筋肉が、次の動き方をこっちに事前に知らせてくれる。まんま、これからの動きが読めてしまうのだ。
(しいて言えば後ろの二人か。なにか企んでるようだけど)
トロイの視界は、余裕のせいで広い。リリィーンの背後で耳打ちしてるタローとチィルールの動きは目に入っている。
(真ん中のコイツが攻撃した瞬間、左右から連続挟撃攻撃というところか。悪くはないけど、どうするかな。一方的にヤラれるのはさすがにヤバイしな。ヘタしたら殺されるか? いや、それはないかな)
だが、トロイは彼らを舐めすぎていた。トロイは知らなかったのだ。
彼らが知的なオバカであることを!
「はっんっぎゃぶーぉ!」
「なにぃ!」
リリィーン突然の気勢!
それだけではない。
棒立ちステップから、いきなりノーモーションの急接近。
急襲だ。
隙を突かれたトロイのほうが完全に後手、逆に棒立ちになってしまった。
(しまった! いきなりのフェイント急襲? ん!?)
トロイはこの瞬間思考停止。目の前の情景に見惚れてしまう。
だって襲いくるリリィーンの姿が――
(宙を舞うジャンプ、胸を張り、次の先制攻撃へと――)
しかしである。
攻撃手段である両腕も、いや両足ですら、勢いよく推進する胴体に置いてけぼり? なんかあさっての方向にパタパタはためいている。
しかも、顔面。のけぞって星空を見上げているうえに、目と口と鼻から透明の体液を宙に溢れさせてるし――
(この姿、まるで後ろから蹴り上げられたヒキガエル? しかも『はっんっぎゃぶーぉ!』って?)
トロイ限界。しかも、飛んでくるリリィーンの脇から片足上げてるタローの姿を発見。間違いなくタローが後ろから不意打ちで蹴飛ばしてる。
(へっぽこ戦士の有効活用www)トロイの臨界越えた。
「ぶぶぶーっ!!」と吹き出した。それが数手遅れになる。
ゆえに、玉砕覚悟を強制させられ、特攻してくるリリィーンの巻き添えになってしまい、彼女ともども甲板に叩きつけられる。リリィーンに覆いかぶされた状態のトロイ。
「今だ! チィルール! やれ!」
「おう!」
「頼むから、動かない相手だから、できるよな? 信じてるからな? 大丈夫だよな?」
「リリィーンの死は無駄にはせぬ! うおおおおお!」
神の剣を振り上げるチィルール。
「ちぃっ」トロイも最後の執念。
振り下ろされるチィルールの神の剣に合わせて妖精のナイフを振りかざす。だが!
「へくちっ!」
まさか、この瞬間、チィルールのくしゃみ!
「なん、だと?」
タイミングがハズレ空振り、空をきるトロイの妖精のナイフ。先端がビヨウンビヨウン、音で踊るヒマワリ人形みたいに揺れてる。
「とおっ!」
ワンテンポ遅れで、チィルールの神の剣、トロイの首筋を切り裂く。ついでにリリィーンも!
「ぎゃ、っく! クク……悪くないですね」
それがトロイの最後の言葉だった。それとリリィーンはもとから気を失っていたらしいので台詞はなかった。ただ、身体がビ・ビ・ビクッンっと痙攣しただけだった。
無論、ここはファンタジー世界だから、物理的に切り裂いたのではない。
剣に乗せた魔力で相手のMPとHPを切り裂いたのだ。命に別状はない。とりあえずリリィーンもだ。
そんな感じでバトルは決着したのであった。




