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追っ手現る


 お肉、おいしい。

 海龍のお肉はみんな大満足。

 陰気な夜逃げ人も興奮状態。

「おいしい。まさかこんなところで」

「まさか海龍とは奇跡だ。みんなで成し遂げたのだ」

「あの奥様の魔力、なかなか見事な……」

「いえ、貴方様の補助魔法もなかなかのモノでしたわ。身体が軽くなって宙に浮かびそうでしたわ」

「このソース。絶品ではないか。フレッシュな生スパイス」

「昨日、魔物に壊された保冷コンテナの開放品らしい。どうせ、腐るってことで」

「役得か、ははは。我々もまだ天に見放されてはおらんな」

 昨日までは誰も会話なんてしなかったのに、今はこの料理の話やみんなで協力して引き上げた海龍のことで賑わっている。

「行けると思っておる」

「うむ、進むしかない。自分のチカラを試す。そしてそれは若きころ望んだことでもあること」

「はは、確かに。まさにこれからということ!」

「やってやる。しがらみはもはやなし。思うようにやるだけだ」

「まこと、たしかに。もし、ならば、よければ、ここに誓いを?」

「うむ」

「お互いの名を……」

「我ら、生まれた日は違えども、死すべき時は……」


 なんか誓いまで交わされてる。なんだソレ。


「おいしい」

「おいしいねえ」


 チィルールとリリィーン、幸せそうに海龍のステーキを頬張っている。


(お前ら、ほんと、メシ食うとき幸せそうだわな)


 一足先にご飯済ませたタロー。


(ウナギっぽかったけど、まんまだわ。なんか、元気までモリモリって感じなんだな)


 服着たし、お腹もいっぱい。元気でた。ちょっと興奮状態。


(夜、寝れなくなりそう……)


 と、思って、なんとなく辺りに視線を投げた。


(ん? あの人)


 タローは見つけた。黒いトレンチコートに身を包み、ゴーグルで表情を隠したあの人物。それはトロイである。

 なんか、タローに向かって視線。

 ちょっかいも掛けられたけど、それよりも言いたいことがある。


(あの人、なんだよな? なにか、あるのか? 無視する、のはナシか?)


「ちょっと、出てくる」

「んへ?」

「っふん?」

「お前らは、メシ食ってろ。すぐ戻るから」


 タロー、トロイの誘いに乗った。








「はぁ、もったいぶるね」


 姿を物陰にスイスイと消しながら進むトロイを追う。

 結局甲板にまで誘い出されたタロー。

 見上げると星空。

 夜の風景。

 風はちょっと冷たい。


「おーい! 来ました、けど?」


 返事なし。

 あたりにトロイの気配はない。

 もう少し探せということらしい。でも……


「……帰るか」

「! ――ナンジ!」

「へ? ナンジ? ナンジって今、夜八時くらい?」

「……」


 やっぱ、間が持たない。


「おやすみー」帰ろうとするタロー。

「ナンジ、いや、貴様」

「だから、お話あるなら、とっとと出てくれば?」

「やれやれ、空気、というものが読めないのか?」


 甲板のコンテナの間からトロイが姿を現す。黒いトレンチコートとゴーグル姿は闇夜にまぎれて見失いそう。


「あなたですよね? ウチのにちょかいしたのは?」

「かもね?」

「――あの、迷惑なんです。ウチのオバカ達は全部信じちゃうんで」

「はは、そのようだね」

「気のせいかもしれませんが、あなた、オレ達のこと付きまとっていません?」

「さあ、どうだろね」

(なんか、もったいぶるなー。映画かドラマのワンシーンのつもりで気取ってんのかなあ?)


 たまにいる。ドラマの見過ぎで現実でもドラマの主人公になったつもりで酔いしれてるヤツ。勝手に物語をつくってコッチをなんかの役に仕立ててるから、現実の立場での意思疎通が機能しないというか、斜め上を横滑りしていくというか、会話すら言葉の意味を曲解され、すれ違うのだ。困ったものである。


(めんどくせーなー、もお)


「お互い訳ありの立場でしょうし、これ以上のかかわりは勘弁してくださいね。じゃ、そーゆーことで」


 面倒そうなので、これ以上の話はなし、で、切り上げるタロー。

 船内に戻ろうとするタローの背後から、トロイはいきなり彼を羽交い絞め。

 そして、首元に三十センチくらいの刃渡りがある大きなナイフを突きつけた。半透明の刀身はユラユラと波打つ不思議で柔らかな材質。


「な? (どーあってもシリアスにしたいのね。この人は)」

「殺し屋だ」

「はあ? オレ、別にそんなのに狙われる覚えないし」

「だが、殿下はどうかな?」

「あ、オレらのこと知ってるわけね」

「そういうことさ――」

「で?」

「ん?」

「なにが知りたいわけ?」

「殺し屋と言ったが?」

「本当なら名乗るわけないでしょ? ドラマじゃあるまいし。カッコつけ過ぎ。ココにはカメラもないし視聴者もいませんよ?」

「……君は、」


 本当ならこんな三文芝居そこで終わるはずだった。でも新キャストが乱入。


「た、タロー!? これはいったい!」

「逢引きな訳ないと思いましたが、まさかタロー殿の今わの際とは……」


 チィルールとリリィーン参上。

 タローが羽交い絞めされ、首元にナイフを突きつけられている状況に遭遇。


「我が名はトロイ! 闇の暗殺者! 殿下、あなたの命貰い受けに来た」

「な、なん……だと!? だが貴様、私に助言を――」

「それは、あなたを油断させるためのこと。そして今この状況なのだ!」


 なんか始まった。


「タローを離せ! ソヤツは関係なかろう!」

「いいだろう」


 タロー、突き飛ばされ開放される。


「タロー無事か? すまない、私のせいでお前まで巻き込んで」

「え? うん、まあ、そうなのかな? そうなのかも……」

「貴様ーっ! 許さん」


 なんか勝負しないといけない感じになってきた。

 トロイなんて、ぶるぶると武者震いしてるし。すごくうれしそう。


「チィー様、ご自重ください。なんの為に私がいるとお思いか?」

「リリィーン!」


 トンファーをクルリ回転させながら、一歩前へ歩み出るリリィーン。

 なんかコイツも自分に酔っている。


「トンファー使いか……。だが、私のこの武器に勝てるか?」


 ヒュンヒュンとナイフを振り回すトロイ。


「な、なんだソレは?」


 リリィーンのみならず全員驚愕。

 だって、そのナイフ、クネクネゆらゆら湾曲している。

 柔らかいというレベルを越えている。まるで半液状の流体。


「これは『妖精のナイフ』さ。妖精族、秘伝のナイフのひとつ。材質も製法も一切秘密の超短剣。殿下の持つ『神の剣』同様、このナイフも命名、名付けはタブーなのさ。秘密があるのはちょっと悔しいけどね」

「そんな柔らかいの、怖くないし!」

「そうかい? これ、振り方次第で刃先は無限に研ぎ澄まされ摩擦係数ゼロまでいくらしいけど?」


 トロイ、そのナイフで近くにあった鋼鉄製のコンテナ、シャカシャカとこま切りに……


「ボクの腕前では、まぁこんなことしか出来ないけどね」

「な、あ、あ――」

「君のトンファー、鋼鉄以上の材質で出来てる? 受け止めたら武器ごと身体真っ二つだけど?」

「と、当然だし。私のトンファーは、は、は、『人間のトンファー』と呼ばれる奇怪なトンファーだし!」


 張り合ったリリィーン、なんかヤバイ感じにズレている。


「そうかい? じゃ、始めるとしようか」

「望むところだし」


(あーもお、逃げて、船員さんに言いつければいいだけの状況なのに、こいつら勝負しないとだめな病気なんかなあ?)


 タロー、呆れる。


 でも、白熱した空気は止められない。


 次回、バトル!


 

 

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