タロー、チィルールを叱る
あれからしばらくたった。
海龍の頭に突き刺さっていたタローは、集まった皆で協力して引っこ抜き、なんとか救出された。
ヌルヌルねちょねちょのタロー。甲板の上に横たわりビクビクピクピク、釣り上げられた魚みたいだった。
その後シャワーを浴び、今は貨物室の中でブランケットを頭からすっぽり被り、トラウマの自己修復中。たまにプルプル震えてる。かわいそう。
そのとなりでタローとまったく同じ様子のリリィーン。
(チィー様が頑張ってるから私も頑張っただけなのにぃいい)
でもこちらはクレーンから引きずり降ろされ、船員達に袋叩きにされたせいでイジケてるだけである。その後、トロイやチィルールの助けで誤解は解けたが、べつに全然かわいそうじゃない。
「ほらっ、タロー、しっかりしろ! 食事だ。肉だぞ、ステーキだ。おいしいぞ!」
チィルールが皿の上に乗った厚さ五センチはある白いステーキをもってきた。
『まさかほんとに狩りで獲物を獲るとは流石です、殿下』海龍をデッキに揚げてた時、トロイはそう言い残して彼らの前から姿を消していった。一々思わせぶりな態度だが今はどうでもよい。
それよりも海龍の肉は栄養たっぷりで非常に美味な食材だった。普段は深海でジッっとしているため、滅多に捕まえれない幻の食材である。
「まさか、このようなところで海龍の肉を食せようとは――いくら金を積んでも得られなかったこともあったというに」
落ちぶれた元貴族の誰かが言った。
それほどまでに貴重で珍しく美味な食材である。
「タロー、いっっぱい食え。元気でるぞ。ほら、食わせてやる。あーん、しろ、ほら――」
落ち込んだタローを元気づかせようと必死なチィルール。
皿の肉はフォークですんなり切れるほど軟らかだった。
欠片をフォークに乗せタローの口元に運ぶ。
くんくんとタローの鼻が反応して、口が開く。
パク、モグ――モグモグ、そして、
「うっめーっ!」
ブランケットを脱ぎ捨てトランクスパンツ姿のタロー。チィルールから皿とフォークをもぎ取る。
そして続きを口に運んだ。
(トロッと溢れる旨みの脂はサラサラと口の中に溶けて流れる。肉質はフアフアむちむちのしなやかな食感。でも噛み砕くと脂とは違う肉の旨みをその場に残してトロけてどこかに消え去ってしまう)
「これ、ウナギじゃねーか。いや、もっとウメーんじゃ?」
ウナギみたいに苦いような臭みがない。しかも小骨がまったくない。薄っぺらくない。分厚い肉を口いっぱいにほお張れた。ヨダレが口元から溢れてしまう。
欲を言えば蒲焼で食べたかったところだが、醤油のないこの世界では仕方ないことだ。
でも、ハーブの香りがする柚胡椒みたいなグリーンのソースはこのクセのない肉の旨みを引き出す最高のソースでもあった。
「なんか子供のころの夢が叶ったかんじだな」
苦味と小骨のないウナギを口いっぱいに頬張りたい。そんな子供の欲求が異世界でなら叶えられてしまう。ファンタジーも悪くない。
「た、タロー! 公衆の面前でパンツ姿など、若い男がハシタナイぞ!」
頬を赤らめたチィルールが、タローの背からブランケットを掛け直す。
「そうかぁ?」
「そーだ! まったく」
「うめーっ」食を進めるタロー、ご満悦。
「そうか、よかった。まだまだいっぱい食べれるぞ。なんてったって私達がゲットした獲物だからな。おかわりは自由にしていいそーだ! わっはははは!」
「ゲット……」タローの手が止まる。
「そうだ。私が捕まえたんだぞ! まぁ、最後はタローに助けてもらったけど……」
「な、なんで? こんなこと……あんな、無茶な事を」タローちょっと震えてる。でもそれは恐怖からじゃない。
「ん? だってタローがお肉食べたいって……」
「はあ!? オレのせいだっていうのか!?」いきなり怒鳴った。
「ひぇ? なに、怒ってる?」
チィルールが戸惑うのも理解できる。
でもタローが怒るのも理解できる。
「なんでオレが怒ってるのかワカンネーのか! あんな無茶して、もーちょっとで死ぬとこだったぞ!? 今までも何度かあったけど、今回はマジ! ビビッたぞ!」
「ヒエーっ! あ、あの……」
戸惑うチィルール。だって、タローはあんまり怒らない。いや、いつも普通に怒るけど大きな声で怒鳴ることはなかった。だから今回怒鳴られて怖かった。
「お前、マジ信じられネー!」
「ああ、あの、すま、あわわわぁ……」
青ざめるチィルール。こんな状況に対応できる手段なんて知らない。動揺してアワワ・ワワァな状態。でも――
「いつも一緒に、じゃねーのか?」
タローの口調、ちょっと優しくなった。
「――だって、タロー、疲れてた、それに、いつも……私のこと」
「いつも? ああ、そうだ。いつも、一緒だったろ?」
「……うん」
「じゃあ、もう、仲間外れはなしだ。いいな!?」
「違う! 仲間外れなんかじゃ!」
抗議しようとしたチィルール。でも、タローは右手拳をグーにして頭上に掲げていた。
(ひッンッ)
叩かれると思ったチィルール。悪いことして頭をペンッされる猫みたいに、お目めつむって肩をすくませる。
『トン』
痛くなかった。頭の上に右手の平乗せられただけだった。
そしてナデナデされる。
「今度からなんかやるときはオレも一緒だ。いいな?」
「た、タロー、分かった。一緒にだ……」
見つめ合う二人。
でも、チィルール嬢、ナデナデされるの大嫌い。
『ぺしっ』
まさかこの空気で、自分の頭をナデナデするタローの手の平を叩き落とす暴挙。
「か、かわいくねーなーぁ……」
「ふんっ!」




