神の剣 ぷぷーっ
(現実ってほんと、残酷に出来てるんだな)
タローは空を仰ぎ見た。
また、アホが一人死んだ。たぶん。
自らの武器であるはずのトンファーに引きずられ戦場の死地へと突入したいったリリィーン。
(なんかミニ四駆みたいだったなあ……)
特攻していったリリィーンの姿に郷愁の想い。
「次、私! 早く! 早く!」
タローの傍で興奮状態のチィルールがぴょンぴょン跳び跳ねる。
「マジック・エール! マジック・エール!」
あげく、お尻をタローに向けてフリフリし始めた。
(なんでコイツは弱っちいのに戦闘ぱっやいんだよ?)
「よし、わかった。じゃあコレ没収ね?」
「ンン?」
タローはチィルールの腰から『神の剣』を引き抜いた。
「コレは無しだから」
「はあ? なあ!?」
「どーせ、お前、いつもみたいにスッポ抜けるだろ? どっか飛ばしたら海の底だぞ? 陸と違って拾いにいけないけど、それでいいのか?(本当はスッポ抜けた剣が誰かに突き刺さるのが困るんだけど)」
「な? じゃあ、私、どうやって……素手?」
「そだよ?」
「素手か!?」
「そだよー?」
眉をひそめて困惑表情のチィルール。
「た、タロー、あのな……」
「大丈夫! お前なら出来るって!」
「お、おおう?」
チィルール、自分の両手拳見つめながらニギニギ、グーパーグーパーしてる。
「……」
「……」
でも切実な表情でタローになにかを無言で訴えるチィルール。
「……」
「……はよ。行けや?」
「!!」
一方、事態は不利な状況に陥っていた。
「イテ! いっツーッ! なんだ?」
「アガ! てめー! なにしやがんだ!」
「ウオ! アブねーだろが!」
「なんだコイツ!?」
戦場の甲板を凄い勢いで這いずるリリィーン。
空中を舞う魔物よりも的確に甲板に立つ味方の船員を傷つける。
『ギュィーン・ブゥオオオーン・ブゥオオオーン!』唸るトンファー。
止まらない。まさにブレーキの存在しないミニ四駆そのもの。
疾走するリリィーン――
だが、その行く手は艦橋の壁。
鉄の壁に激突! 容赦なし!
『ドガッシャーン』
宙に舞うリリィーン――
本人の意図と関係なく身体はムーンサルト。
バンザイポーズのまま、突き出されたトンファーはギュンギュン凄い回転してる。
その、どさくさにまぎれて、空中の魔物二体を巻き込んで撃破!
その後『ベチャリ』と落下。
再び、甲板を疾走し始める。
すごいぞ! リリィーン! お前は何をやっているのだ?
「剣返せー!」
「だーめ!」
「それ私の!」
「そだよ?」
「かえせー!」
「後でね」
頭上に掲げた神を剣を目指して、タローにしがみ付き、それどころか、よじ登ろうとするチィルール。
「だーめ!」
「なぜか!?」
振り払われ、シリモチつくチィルール。
「だから……あ!!」
タローの台詞が遮られた理由。それは、急接近してくる危険物を察知したからだ。
「リリィーン!!」
艦橋に激突して方向転換したミニ四駆リリィーンが凄い勢いでコチラに向かって来ていた。
激突したら、ただでは済まなさそうな勢い。
「オイ――まじか?」
「逃げろ! タロー!!」
状況を察したチィルールが横からタローに体当たりした。
だが、体重差がありすぎた。
まったく動かない。
いや違う、タローがその場を動こうとしなくてチィルールを受け止めたのだ。
(この勢いだと、船首を飛び越えて、海にドボンっじゃねーか!)
そうなったら絶対に死ぬ。
それは阻止しなくてはと考えたのだ。
「リリィーン! てめー! 感謝しなくてもいいから、怨むんじゃねーぞっ!!」
タローは右足を前に突き出し、リリィーンの顔面にキックを入れた。
「ゲボガぁ」と悲鳴。
顔面に蹴りを入れられたリリィーンの身体が仰け反る。
上半身をタローの右足で支えられた状態のリリィーン。
宙に浮いた両手のトンファーはキュィーンと空回りしている。
「立て! リリィーン! オイ! しっかりしろ!」
「ボヘブフェバベベ……」
ダメージは予想以上の様子。意識あやふやっぽい。
(待てよ、オイ! この状況で魔物に狙われたら)
今現在タローの様子。
身体にしがみ付いてるチィルール。頭上に掲げた剣と取り戻そうとよじ登ってくる。重い。身動き取れない。
一方リリィーンを受け止めるために片足立ち。バランス崩せば全員ひどい目に?
だからこそ、ではないが、ココまで目だってたら魔物からも狙われるのは当然だ。
『ヒィッシャアアア』
歓喜の念さえ感じる気勢で襲い来る魔物達。
「アホ! 待て! オイ! ちょっとーっ!」
身動き取れないタローの断末魔。
もはや、魔物は目の前寸前!
「お、お前ら! いいかげんにしろー!!!」
こんな馬鹿げた成り行きで死んでたまるか、という思いのこもったタローの絶叫がこの空間を支配した。
だから反応した。
タローの手に握られていた『神の剣』が光を放つ。
それで、終わった。
その場の全員「?」だった。
周辺を包み込む眩しい光に一瞬目を閉じたあと、全てが終わっていた。
魔物、いなくなってた。
「え? なに?」
それ以外の台詞、言える者いなかった。
しばらく、全員が呆然として、それ以上なにも起こらないことを確信したあと、元の持ち場へと戻っていった。
それはタロー達も同様だった。
「さっきの、なんだったんだ?」
タロー自身が分かっていないのだから、他の誰にも分かるはずなかったのだ。
「オレらも戻ろう」
気絶してるリリィーンを小脇に抱えながらその場を後にする。
タロー達も去り、甲板から人気がなくなった。
だが、平積みされたコンテナの隙間から現れる黒いトレンチコートの人物。
「まさか、こんな――、鯛を釣ろうとしたら鯨が釣れたか? っははは」
色つきの遮光ゴーグルを付けていたその者には見えていた。あの光の正体をだ。
(時代が代わるというのか? 世紀の一大事じゃないか!)
クールに、ニヒルに生きている彼でもその唇の歪みを隠すことができない。それほどの予感を感じた。




